裁き

 その超大型機動要塞きどうようさいは、中高度を飛行し続けていた。

 毎度のことで、戦争により支配圏しはいけんが目まぐるしく変わるこの惑星では、安住の地など存在しない。

 そこで、とある国が空を目指した。

 機動要塞内で、遺伝子組み換えを行った食物を育てるバイオプラントを循環じゅんかんさせて、ほとんど補給ほきゅう無しで生活ができるようにした。その機動要塞はぷかぷかと、なるべく戦争のない地帯に留まったり、移動を続けたりしていた。

 機動要塞の主な動力源どうりょくげん核融合炉かくゆうごうろである。超高温のプラズマを電磁気で制御することで莫大な電力を生んでいるのだ。

 また、飛行は機動要塞上部に取り付けられた回転翼プロペラで行っている。これなら電力さえあればモーターが回転し、飛行を末永すえながく続けられる。

 また、いくつものレーザー兵器を外側に配備し、攻撃的な国のミサイルをことごとく撃墜げきついした。

 ミサイル一万発以上の飽和ほうわ攻撃にも対応できるとされる機動要塞は本日、超高性能なレーダーでステルス機とおぼしき飛行体を高高度に見つけ、それに似せたかく兵器ではないかという疑いをかけて、念のため高出力のレーザーで撃墜した。

 それが、大問題となった。

 撃墜したステルス機は核兵器でもなんでもなく、敵国の攻撃を避けるために高高度を飛行していた、さる大帝国の第一王女を乗せていた機体だったのだ。

 姫君の父である、大帝国のてい激昂げきこうした。

 勅命ちょくめいにより、現在戦争中の航空戦力を全て引き上げさせて、くだんの機動要塞を破壊せよと厳命したのである。

 勅命により、機動要塞撃墜のための作戦本部が立てられた。失敗すれば、比喩ひゆではなく首が飛ぶ。

 にもかくにも、軍部の一定の立場の者たちは必死だった。

 他国の情報を噂話レベルまで照合しょうごうして、飽和攻撃による撃墜を狙うこととなった。

 飛行する機動要塞はあまり頑健な構造とはいえないものの、ミサイルの迎撃能力には秀でている。

 とにかく、撃墜可能な領域を離脱りだつさせられる前に攻勢を仕掛けなければならない、時間との戦いだった。

 そのとき、狙いをすましたかのように、複数国が攻め込んできた。

 敵の国家連合が多数の爆撃機や陸路の機甲部隊などを使い侵攻してきたのだ。

 王女の死と飛行船の撃墜作戦は、とっくに大帝国の国営メディアで放送されており、それがあだとなった。情報が敵国にも筒抜けだったのだ。

 今か今かと待ちわびていた高高度の死神、数万機が飛行してきていた。

 連合国家のそれは、被撃墜を覚悟した、せている精密誘導爆弾せいみつゆうどうばくだんのほうが高価ではないのか、などと揶揄やゆされている大量生産品の飛行船型の爆撃機ばくげききが大半だった。

 高価なステルス・ジェットエンジンの爆撃機は少ないと見られた。

 帝王はいずれも迎撃せよと命じたが、全てを撃墜するのは現実的ではない。

 そのため参謀部は、大帝国中心部の首都や特に重要な工業地帯を除き、爆撃を容認して迎撃作戦に当たることになった。

 狙われそうな都市部には、義務付けられているシェルターへの避難を市民に命令した。

 大帝国の対空ミサイル群や航空機による対空戦闘が行われた。

 敵は鈍重な飛行船だ。簡単に撃墜できたが、数が多い。

 大帝国では高出力の対空レーザーは実用化されておらず、とにかく高価なミサイルで対地防衛と機動要塞の撃墜を行う必要があった。

 このままでは、首都はなんとか守りきれても、周辺都市が壊滅状態になるのは目に見えていた。

 国か、自らの首か。

 参謀部は悩みに悩んだ末、帝王に進言した。

 ――このままでは帝国が滅んでしまいます。どうか、あの機動要塞への攻撃を中止させてください。ミサイルが足りないのです、と。

 帝王は事情を理解はしたが、自らの手で作戦を考えた。

 暗号を用いないオープンチャンネルで、機動要塞へと無線連絡を行ったのだ。

 ミサイルの照準波という追伸を付けた、手紙のようなものだった。

 ――今現在、貴殿の機動要塞に一万発を超える対空ミサイルで狙いを定めている。撃墜されたくなければ、我が国に侵攻中の爆撃機を全て撃墜せよ。そうすれば攻撃はしない、と。

 機動要塞のオペレータも驚いて返信した。

 ――仮に攻撃を行ったとして、その後でミサイル攻撃を受ければ、たまったものではない。対空ミサイルの廃棄か、敵対する爆撃機に撃ち込んでくれ。全てだ。

 帝王の返答は次なるものだった。

 ――対空戦力が失くなったあとで、こちらに攻め入るつもりではないのか?

 機動要塞は狼狽して答えた。

 ――こちらは高出力のレーザー程度しか持っていない。エネルギーには限りがあるし、貴方の帝国と対決するような力はありません、と。

 帝王は怒った。

 ――ならばなぜ、私の娘の乗ったステルス機を撃墜した! と。

 機動要塞は事情を全て知り、謝罪しゃざいの意味を込めて爆撃機の撃墜を行うことにした。

 帝王は非情で、危機が去り次第、当然機動要塞に全力でミサイルの飽和攻撃を行う予定だった。

 参謀部も機動要塞には悪いが、さんざん利用した後で犠牲になってもらおう。そう思った。

 ――ただし。

 と機動要塞は付け加えた。

 ――あなた方、参謀部にだけは犠牲になってもらいます。

 直後。高熱の線が参謀部の建物を襲い、帝王ごと焼き尽くした。場所は、電波の発信源などから探知され尽くしていた。

 その後、約束通り機動要塞は帝国の敵たる爆撃機の群れを一機残さず撃墜し、帝国の指揮系統が混乱している間に、別の地域へと飛び去っていった。

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Foolish Wars 書い人(かいと)/kait39 @kait39

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