第39話

 一人と一匹は、同時に悟り、次の行動へと繋げる。


 エリザベスは分身に紛れて接近し、オーガは目の前の黒煙を払おうと顔を振る。

 その一瞬の間に、互いの意思が交錯した。


 オーガは口を薄く開けながら、エリザベスが自身の左側から首元に向かって来ているのを、しっかりと認識していた。

 気配は感知できないけれども、その体を移動させる質量の動きが他の分身より早いため、空気の動きが異なるからだ。

 その僅かな差異を、オーガは見逃さなかった。


 そして、完全に間合いに入った瞬間に、オーガは素早く首を振る。

 大きく口を開け、その口内にある強靭な牙でもって敵を噛み砕かんとして、的確なタイミングで口を勢い良く閉じた。口の中に確かな感覚として、苦い液体と筋張った噛み応えが存在する。


 仕留めた、と確信した。


 そしてそれこそが、エリザベスの作った隙であった。


 エリザベスの接近は、オーガの首を狙ったもので間違いない。

 だが、首は首でも、その足首を狙ったものであった。

 それも足首の裏側にある腱を狙ったものだ。


 オーガの機動力を徹底的に削ぎ落とし、手も足も出せなくさせる。

 オーガの持つ攻撃力と防御力は手負いになっても脅威であるため、完全に動けなくしてから、確実に仕留める。


 それがエリザベスの、戦闘当初からの一貫した狙いであった。

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