第38話

 ゆえにオーガは、遠距離から飛来する赤い矢と、それによって生じる爆発をさして障害とはしていない。


 逆に、その爆発の煙に紛れて、敵自身が自分の首を取りにくると確信していた。

 その交差の瞬間に、確実に敵を仕留める。

 それより他に、オーガが素早い敵を屠れる手段はない。


 現段階において敵の気配は限りなく薄く、その場所を掴めないからだ。

 察することも馬鹿らしくなるほどに分身の数が多く、本物がどこにいるか特定できないのである。


 目を瞑れば気配に集中できる可能性もあるが、目を瞑った瞬間に、首が取られることは明白だ。

 オーガは今、このまま爆発する矢を受け続けて耐えるしかない。

 時間が経っていくにつれて、受けてゆくダメージは看過できないものになっていくのは明らかだ。だが、敵も無限に矢を撃ち続けられるわけではなく、走り続けられるわけでもない。


 どちらの側としても、できるだけ早く、勝負をつける必要があると認識している。


 しばらく膠着が続いたが、遂にその均衡が破られた。

 偶然なのか、或いは故意か、放たれた矢が、オーガの顔面中央に直撃したのだ。

 爆炎が顔の表面を僅かに焦がし、黒煙がオーガの両目を覆いつくす。


 ――今が好機……!

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