第29話

「少し、休みますか?」


「……もう少しで、水場に着くんだろ? そこで、休ませてくれれば良いよ」


 なんとも健気な言葉であるが、エリザベスは首を横に振って返事とした。

 それはつまりどういうことか。


「水場に着く前に、少し前から尾けてきている魔物が襲い掛かってくると思います。

 ですからマスターは木陰で隠れて休み、少しでも体力を回復しておいて下さい」


「魔物が、尾けてきてるって?」


 七之上は背後を見遣るが、変わった様子は見られない。

 少し開けた空間には深い緑が広がるばかりで、虫の羽音や鳥の鳴き声が遠近曖昧に聞こえる程度だ。


 そんな七之上の右肩に、エリザベスの手が置かれた。

 ガントレット越しではあるが、どこか温かな心地を感じさせる。


「今、簡単な気配隠しの魔法を掛けています。

 一時間ほどで切れる魔法ですが、何もしないよりはマシでしょう。

 マスターはできるだけすぐに、遠くの木陰に身を隠してください」

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