第22話

「さあ、もたもたしている時間も惜しいですし、さっさと行きますよ」


 エリザベスは七之上を一瞬にして、その両腕に抱えた。


 夢見る乙女たちが密かに憧れていると言われている、お姫様抱っこという惚れさせ技術である。

 ただしイケメンに限る。


「ちょっ! 降ろせ!」


「なに馬鹿なことを言っているんですか。

 ブーツも履いてないのに森に入ったら、すぐに足の裏がボロボロになりますよ」


 七之上がそれでも抗議しようとしたが、


「大丈夫です。魔物が見えたら、すぐに落として差し上げますから」


 と見惚れるような笑顔で言われ、黙ってしまった。

 彼はなんとも言えない微妙な気持ちを抱えたまま、エリザベスに運ばれていくのだった。



   ***



 森の入り口から数歩進んだ時点で、その森という場所が彼のまったく想像し得ない別の世界であるということを、七之上は全身で実感した。


 太い枝葉が幾重にも重なって天井と化しているため、陽の光がほとんど射し込んでこないのである。

 そのため、昼間であるにも関わらず、夜のような薄暗闇が空間に満ちている。

 空気は水分を多く含んでいるためか、重く冷たい感触であり、臭いすらも肺を水気で浸してゆくかのようである。

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