山頂へと至る道

 

 てっきり一人で山頂に向かうのかと思っていたヒロだったが、ゴンが行けるところまで付いて来てくれることになった。岩族は山の専門家。これはかなり頼もしかった。


「ところでゴンはあの黒い雲の事、どう思う?」


「セイレイガ、ワルサヲ、シテイルトカ?」


「精霊ねぇ。あんまり聞いた事ないけど、そういうのもあんのかな」


 結局行ってみなければ分かりそうも無かった。


 翌朝、荷物をまとめた二人は、さっそくヴィタリ山頂に向かうことにした。残念なことに今日は雨が少し強い。しかしゴンの案内もあって、麓まではすぐにたどり着くことが出来た。


「よし、今日は山の中腹あたりを目標にしよう。その辺りまで行けば平らな場所があるんだよな?」


「ソウダ、ダガアメガツヨイ。ソコマデイケナクテモ、タイラナバショハ、オレガツクル」


「おお……さすがだな、頼りにしてるぜ」


 それからは、あまり話もせずに登った。というよりかは話す余裕が無かった。なぜならすぐに難所である“風の回廊”にさしかかったからだ。


 道自体はなだらかで単調なのだが、いろいろな方向から風が吹きつける場所で、左側からそよ風が吹いていたと思うと一瞬無風になって今度は右側から襲い掛かる。強弱も方向もてんでバラバラ。そのせいで常に気を張っていなければならず、無駄に体力と精神力を奪われてしまった。


 登り始めていきなり霊峰の洗礼を受けたが、それでもなんとか暗くなる前には、目標地点に着くことができた。


「ヒロ、ダイジョウブカ? キョウハ、ハヤメニヤスメ」


「ああ、大丈夫だ。でもすげー疲れた……あの風はいつもあんななのか?」


「イヤ、キョウハイツモヨリ、スコシツヨイ」


「そうか、なら運が悪かったんだな……」


 幸い、この辺りはさっきまでの道が嘘みたいに風が無い。2人は食事を済ますと明日の話をした。


「明朝に出発して順調にいけば、午後には別れることになるんだよな?」


「アア、ダガイケルトコロマデ、イク」


「わかった。でもどうなるか見当もつかないから、もしはぐれたら予定通り麓の集合地点に向かってくれ」


「ワカッテイル」


「よし! なら、もう休もう。明日は雨足が弱くなることを祈るとしようか」


 この辺りには襲ってくるような生き物はいないということで、見張りは要らないそうだ。


 これで俺もゴンもぐっすり眠れる。明日が運命の分かれ道。上手くいくといいんだけど、ヒロはそう思いながら眠りについた。



 ーーー



「じゃあ、いっちょ山頂まで行って、サクっと解決してきますか!」


 次の日の朝、天気は相変わらず悪かったが、ぐっすり眠れたヒロは気分よく起きることが出来ていた。今ならすべてを解決して戻って来れそうな気すらしている。ゴンもそんなヒロを見て、心なしか嬉しそうだ。


 二人は気合十分に山頂へと向けて歩き出した。だが、そんな二人を嘲笑うかのように頂上付近で黒い雲は蠢いていた。近づけば近づくほど、だんだんと黒い雲が二人を覆い隠す頻度が増えていく。


「ヒロ、マエニキタトキハ、コノアタリデマヨッタ……」


「そうか……ならここからは俺が先頭で行くよ。ちゃんとついてきてくれよ?」


 一緒に迷わないように先頭を交替して、黒い雲の中をゆっくりと進む。

 黒い雲の切れ間が来るたびに、ヒロは振り返ってゴンがついてきているかを確認した。大丈夫、ちゃんとついてきている。これならなんとか一緒に頂上まで行けるかもしれない。そう思っていた矢先だった。


 運命はヒロに味方しなかった。ついさっきまで後ろにいたゴンが忽然こつぜんと姿を消してしまったのだ。


「ゴン! どこにいるんだ! おい!」


 叫ぶヒロの声が辺りにこだまする。ザーザーという雨の音だけが辺りに響いていた。


「……」


 今の所、道を間違えてはいないはずだ。それにゴンだけが突然消えてしまった。だからやはりゴンだけが黒雲に阻まれたのだろう。

 もちろんこうなることは覚悟していたが、いざ体感すると精神的に来るものがあった。意識していなかったが、自分はかなりゴンに信頼を寄せていたらしい。


「……大丈夫、予定通りだ。ここからは、俺の仕事だ。ちょっと山頂まで行って、さくっと解決すればまたすぐ会える」


 無理やり自分にそう言い聞かせると、ヒロはまた前を向いて歩きだした。山頂まであともう少しだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る