猪突猛進な緑茶ハイ

えむ

猪突猛進な緑茶ハイ

 サユリは好きな人ができるとすぐに自分から告白するタイプだった。

 しかも典型的な一目惚れで好きになる。

 相手をなぜ好きなのかもわからないうちに告白するものだから、いつも振られる。学生の頃から社会人になった今まで、一度もうまくいった試しがない。

 そして、振られた愚痴を幼馴染のタモツにこぼす。

 ここまでがサユリの恋愛パターンだ。むしろルーティンワークと言ったほうがフィットする。


「なんでうまくいかないんだろー……」

 サユリは居酒屋のテーブルに突っ伏した。

「だから言ってるだろ、もっと相手と仲良くなってからにしろって」

 タモツは緑茶ハイをチビリと飲んだ。

「だって、今度こそ大丈夫と思ったんだもん」

 サユリは生ビールをグイとあおった。

「何だよその根拠のない自信は」

「ビビビッて電気が走ったの。この人とはうまくいく! ……って」

「ビビビと来たのはサユリだけだろ? 相手にもビビビを感じさせなきゃさ」

「感じてくれてると思ったんだもん。私のこと見て笑ってくれるし、仕事の打ち合わせしながらたまに目が合うし……」

 サユリはジョッキの持ち手をいじいじともてあそんでいる。

「そりゃ、社会人だし。無愛想にしてるわけにもいかないだろ。そっぽ向いてちゃ打ち合わせにならないし」

「えぇ……じゃあまた私の勘違い……?」

 涙ぐみそうなサユリ。

「だーかーらー、始まってないんだよ。サユリが勝手に舞い上がって突撃して砕け散ってるだけだろ。毎度毎度同じこと言わせんな」

 タモツはバリバリと頭をかいた。

 フフ、とサユリが笑った。

「なんだよ。泣いたと思ったら笑いやがって」

「ありがとね、タモツ。いっつも聞いてくれて。次はがんばるから」

「ったく……バカだな」

 しとやかそうな名前とは裏腹に、肉食系というか猪突猛進。

 学習しないバカなやつ。

「なによー。バカはないでしょ、バカは」

 ふくれっつらも、いつものことだ。

「違う。サユリに言ったんじゃないよ」

「あー、私を振った男どものことね?」

 こんなバカのことを好きになるのは、世界一のバカだなとタモツは思う。

 なんでこんなやつのことを、子供の頃から好きなのか。

 タモツは緑茶ハイの中をゆっくりと沈んでゆく茶葉のかけらをぼんやりと眺めた。

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