終章 茨姫と白薔薇王子

「ねえ茨姫、また昔の話を聞かせてよ」


 森には、今日も可愛い子供たちがやってきて、私の根元で無邪気に笑う。

 

「ちゃんとお勉強もするのよ。そうじゃないとこわーい茨の魔女になってあなたたちを食べちゃうんだから」


「お姉ちゃんが優しいことは曾おじいちゃんが言ってたから知ってるもん! ぼくたちのことを食べたりしないよ」


 今日も、物好きな人間たちのために昔のこと思い出す。

 つい最近のことのような気もするけれど。 


「はいはい。じゃあ、今日は怖い茨の魔女と王子様が出会うお話でもしてあげましょうね」


 子供たちに囲まれながら、私はかつてのあなたを思い出す。

 金色の髪を揺らして、翡翠色の瞳で私を見つめてくれた彼のことを。


 もう私の身体も茨にほとんど飲まれてしまって、顔だけが辛うじて人の形を保っている。

 深く地面に食い込んだ根っこを動かすことはもう出来なそうだ。


――人は死んだら空に還るんだろ? お前の瞳と同じ色の場所……そこに行くと思えば悪い気はしない


 彼の言葉を思い出す。

 もう少しで、空へ還った彼の元へ行けるかな。

 子供たちに、昔話をしているとどこからともなく彼の声が聞こえた気がした……。


「迎えに来たぜ、ソーン」

 

 彼だけが呼ぶ私の名前。


「アルバ、遅かったわね」


 動かないはずの腕を伸ばして、太陽みたいに笑う彼の手を掴んだ。

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茨姫の凱旋 こむらさき @violetsnake206

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