第4話 心理テストと交換
食事を終え、冬知屋さんが帰る時間まで、テレビを見て過ごすことにした。
映っているのは、様々な心理テストを紹介して、芸能人が各々質問に答えていくという趣旨の番組のようだ。
あー。当たってるなー。とか、そんなまさか?みたいなリアクションが矢継ぎ早に耳に入ってくる。
「次の問題から私たちもやってみる?」
冬知屋さんが興味津々といった様子で問いかけてくるし、暇を持て余していたので、僕は首を縦に振った。
質問
あなたはラーメン屋で働いています。ある日、憧れの人が客として店にやってきました。さて、その人はラーメンを何から食べたでしょうか?
一、麺
二、メンマ
三、チャーシュー
四、スープ
うーん。ピンと来たのは二のメンマかな。何となく。こういうのは直感がいいらしいからな。ていうか、これ何を調べる心理テストなんだろ。番組ちゃんと見てなかったから、聞きそびれてしまった。
「冬知屋さんは何だと思う?」
「私は一の麺かな」
「ふーん」
「芦谷君は?」
「僕は二のメンマだな」
「へー。メンマって何か変わった解答じゃない?」
「そうか?僕はこれしかないって感じで選んだんだが……」
お互いに思いの丈を話していると、画面の中の芸能人たちも回答が出揃ったらしく、結果発表された。
『一番を選んだあなたは普通の恋愛を理想としています。平凡で穏やか恋愛が一番と思っているので、恋人と一緒にいられるだけで充実できるようです』
ほー。冬知屋さんの選択肢はどうやら普通の結果だったみたいだな。
リアクション取りづらいな。本人も「んー。やっぱり普通がいいよねー」と落ち着いたトーンで頷いている。
ていうか、これ、恋愛の心理テストだったの!?なら、もし僕が選んだ二番のメンマが変な結果だったら、絶対冬知屋さんにからかわれてしまう。まずい。それは避けたい。
お願いします。どうか。どうか、舐められない解答でありますように~。
『二番を選んだあなたは引っ張ってくれる恋愛を理想としています。あなたは恋愛に対して消極的な面があるので、リードしてくれる相手でないと、長続きしないでしょう』
「へー。リードされたいんだ~」
「さ、されたくないぞ。僕は、む、むしろ引っ張っていきたいタイプだし……」
「目、泳いでるよ」
「~~~~~~~~~ッッッ!!!!?!!?」
うがぁぁぁぁぁぁ。絶対バカにしてる。最悪だ。恥ずかしぃぃぃ。こんなのからかってくださいって言ってるようなものじゃないか。
もーだめだ。テレビのチャンネルを変えないと僕の傷が深く抉られてしまう。
そう思い、リモコンに手を伸ばしたが、目の前で冬知屋さんに取り上げられてしまった。
「何しようしたの?」
「チャンネル変えようとした」
「第二問目始まるよ」
「もう飽きたんだよ」
「怖気づいたの?」
「え?」
「心理テストで自分の性癖が露わになるのが怖いのかと思った」
「そんなことないよ」
「じゃあ、やろ?」
「い、いいよ」
我ながら安い挑発に乗ってしまった。てか、性癖って。そんなアダルティな診断じゃないだろ。
ということで、二回戦。自分の深層心理に自信を持つんだ、という謎のお祈りを済ませて、じっとテレビの画面を見据えた。
質問
新生活が始まり、あなたは見知らぬ土地に一人で生活することになりました。真っ先にメールで連絡を取るのは次のうち誰ですか?
一、父親
二、母親
三、恋人
四、友達
パッと思い浮かんだのは恋人一択なのだが、これは心理テストであって心理テストではないのだ。いかに冬知屋さんに馬鹿にされない解答をするかの勝負なんだ。
となると、恋人って明らかに地雷っぽいんだよな。
んー。無難な選択肢。友達とか。いや、でも嘘ついて自分の性格とかけ離れた指摘をされるのも癪だな。うーん。どうしようか。
「芦谷君はどれ?」
「やっ、さ、三で」
「驚きすぎ」
ケラケラと笑う冬知屋さんを横目で見ながら、自分の発言に後悔した。うっかり三と答えてしまった。この行動が吉と出るか凶と出るか。お願いします!
一と二の結果を番組のメインパーソナリティーが読み上げ、順番はついに三へ。
『三を選んだあなたは非常に甘えん坊です。相手に尽くすよりも尽くされたいタイプ。度を過ぎるといわゆる、構ってちゃんになるので、要注意。たまには自力で頑張る姿も見せましょう』
「フフフフフフ」と堪えているがとめどなく溢れてしまっている感満載の笑い声が左耳から流れ込んできます。恥ずかしかったです。(小並感)
「か~わい~~~~い」
「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ」
冬知屋さんが小悪魔的な声と表情で僕をコケにしてきた。
「一個目の質問といい、さっきの質問といい、芦谷君って基本的に受け身なのね」
「ちっがうから!所詮、心理テストなんてあてにならないから」
「ふーん」
「その目やめろ」
僕は興奮して荒くなった息を整え、ジト目の冬知屋さんを窘める。
「忘れてたけど、冬知屋さんは何番を選んだんだよ」
僕は結果に動揺して、冬知屋さんに聞くのをすっかり失念していた。反撃を狙う獣のように虎視眈々とその答えを待った。
「え?嫌だよ。訊かれなかったし」
「不公平だ!」
粘ってもなかなか教えてくれず、番組はそのままコマーシャルに入った。
テレビにはちょうど気になっていた小説原作の映画の宣伝が流れていた。時間ができたら観に行こうかなぁ。
「どうかした?」
僕がじっとコマーシャルを見ていたのに気づいたのだろう。怪訝そうに訊いてきた。
「いや、なんでもー」
そう言うと、冬知屋さんは「そうだ」と言って。
「心理テストの問題文にメールって出てきて、思いついたんだけどさ。連絡先交換しない?」
「これまた唐突だな」
行動や言動が突飛なんだよなぁと呆れつつ言葉を返した。
「だってクラスのグループチャットがあるのに、なぜか芦谷君入ってないでしょ」
「面倒だから、いつもあいつに重要な情報は流してもらってるんだ」
「あいつ?」
「黒野幸だよ。同じクラスの僕の唯一の友達」
「唯一の響きがいささか悲しげなのはノータッチでいくね」
冬知屋さんは僕の友達事情から目を背けて、話を戻した。
「でね、もう付き合うまでに一か月とちょっとなんだから知っといた方がいいかなって思って」
相変わらず、未来予知には絶対の自信を持っているようだ。
にしても、ついに僕のスマホに女子の連絡先が追加されるのか。感慨深いな。でも、冬知屋さんはいいのか?
仮に未来予知が本当だったとして、僕は冬知屋さんに好かれることをしただろうか。正直覚えがない。
「連絡先って。僕なんかに本当にいいのか?」
純粋に、他意もなく思ったので、濁さず疑問を呈した。
「君だからいいんだよ」
冬知屋さんは僕以上に真っすぐ、心情を吐露した。
「私は君の連絡先を知りたい。電話とかチャットとかもしたいと思ってる」
たぶん、今日一で真剣な眼差しを向けて、清流のごとく澄んだ気持ちを言い放つ。
「君はどうなの?」
あまりに違いすぎる雰囲気に気圧されて、一瞬、言葉を詰まらせる。かなり美人でかわいい女の子だと意識すると、照れくさくもなった。
若干冬知屋さんの頬が上気しているように見えるが、たぶん僕の気のせいだ。
僕はもどかしい気持ちを誤魔化すため、頭をカリカリと掻いた。
「ぼ、僕も知りたいかな。冬知屋さんのこと……あ、いや……連絡先のことだぞ!」
締まらない言い方になったのは、微妙に後悔が残るが、冬知屋さんはお気に召したようだ。
「ありがと!これQRコードね」
タタタっと食卓を回って、僕のそばに駆け寄ると、クシャッと表情を緩めて、小悪魔が天使を彷彿とさせるような笑顔を振りまいた。
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