第7話
「クルセイド――寺院?」
聞きなれない単語に、ルカは訊ね返す。ステラはこくんと頷いて解説する。
「はい、なんでもお父さんとお母さんの故郷では、孤児院のことを寺院と呼ぶそうでして、それにあやかった名前なのだか」
「構造も寝殿造? とかいうそうですよ。すごいですよね!」
ソラが目をきらきら輝かせながら笑いかけ、靴を脱いでその屋敷の階段を上る。そして、引き戸を開けると、中に声を掛けた。
「みんな! ステラ姉が帰ってきたよー!」
その声と同時に、中から、わああ、と声をあげて数人の子供が飛び出してくる。ステラは階段を上がると、その子供たちを受け止めて微笑みかけた。
「みんな、元気にしていましたか?」
「わあ、本当にステラ姉ちゃんだ!」
「うん、元気にしていたよ!」
子供たちの一人一人の顔を見つめ、ステラは微笑みかけていると、その隣にルカが並んで子供たちに目線を合わせながら訊ねる。
「へぇ……この子たちが、貴方の家族……」
「はい、そうです」
「お姉ちゃん……この人、だれ?」
きょとんと首を傾げる少女に、ルカは小さく微笑みかけた。
「私は、ルカ。ステラのお友達よ」
「じゃあ、ルカお姉ちゃん?」
「うん、そうよ……ふふ、いい子ね」
その子供の頭をよしよしと撫でながら、ルカは目を細める。すると、周りの子も警戒を解き、徐々にルカの方に寄ってくる。
その子たちを見つめながら、にこりとルカは笑いかけた。
「みんな、よろしくね。じゃあ、ステラお姉ちゃんと一緒に、中に入りましょうか」
「うんっ」
無邪気な子供たちの手を引かれ、ルカは屋敷の中に入っていく。それを、ソラは目を丸くして見守っていた。
「すごい……ルカ様、子供から懐かれて……」
「元々、裏表のない性格ですからね。子供からも、懐かれるのでしょう」
ステラは笑みを返していると、その手がくいと小さく引っ張られた。
「ステラお姉ちゃんも、行こっ。ソラ姉ちゃんもっ!」
「はいよー! んじゃ、行こう! ステラ姉!」
「ええ、行きましょうか」
ルカの背を負い、ステラとソラも子供たちに招かれるようにして屋敷の中に入っていった。
「おっと、帰ってきたか。ステラ姉さん」
部屋に入ると、年若い青年が出迎えてくれた。まだ、少年とも捉えられるような、幼さの残る顔立ちだ。だが、しっかりと声変わりしている。
穏やかな顔立ちをした少年を前に、ステラは目を見開いた。
「ハルトくん? 大きくなったね」
「はは、お陰様でね」
そう笑いながら答えるハルトは、子供たちを肩車して遊んでいた。はしゃぐ子供を肩から下ろしながら、彼は笑って言う。
「おかえりなさい――レキとリュウは畑に出ているが、すぐに帰ってくるはずだよ」
「ただいま、ハルトくん。背も伸びて、声変わりもして……立派になりましたね」
「やめてくれって。ステラ姉さん……えっと、そちらは?」
「初めまして、ルカと申します。ステラの上司と言えば、いいかしら」
ルカはたおやかに挨拶をする。ハルトはわずかに考え込み、微かに目を見開く。
「――ルカ・ナカトミ辺境伯様でしたか。これは、見苦しいお姿を」
「あら、貴方はすぐに見破るのね。つまらない」
「姉がそそっかしいので……弟は、自然とそうなります」
「そそっかしいなんてひどいな! ハルトくんは!」
「実際そうだけどね。ソラちゃんは」
「ステラ姉まで! ひどいわよ!」
ソラは両手を挙げてぷんすかと怒って見せる。ころころ変わる表情にステラは思わず笑顔をこぼしながら、足元で駆け回る子供たちに目を移す。
「みんなも元気そうだし――よかった。安心した」
「安心したのは、こっちもだ。ステラ姉さん。配置換えになったから、何かあったのじゃないかと心配していてな。まあ、ソラ姉さんは、全然心配していなかったけど」
「え、だってステラ姉だからね」
「――ま、その通りだったわけだ。安心したよ。ステラ姉さん」
ハルトの穏やかな眼差しに、ステラは少しだけ肩を縮ませて言う。
「ごめんなさい、心配かけて」
「いいや、元気ならそれに越したことはないよ。ルカ様も、どうぞお越しくださいました」
「ええ、ありがとう」
挨拶を終えると、我慢しきれなくなった子供たちが、ルカとステラの腰に抱きつくように集まってくる。ソラは慌てて子供たちに声をかける。
「こら、二人ともお客さんなんだから――」
「いいでしょ! ステラお姉ちゃん、遊ぼうよ!」
「ルカお姉ちゃんも、一緒に遊びましょ!」
それを遮る子供たちの勢いは凄まじい。手を引っ張られ、少しステラは困惑していると、ルカは微笑みながら子供たちを見渡した。
「いいわよ。じゃあ、みんなで遊びましょう――ステラも、いいわよね?」
「え、ええ……まあ」
「よし、じゃあ、みんなで遊びましょうか」
「わーいっ!」
子供たちが両手を挙げてはしゃぐ。その一方で、ハルトは少し苦笑いをしていた。
「すごいな、ルカ様は」
「私も、いつも驚かされています――それよりも、今日はこの時間からみんなでお勉強会のはず、でしたよね?」
ステラは首を傾げると、ソラとハルトは顔を見合わせて仕方なさそうに笑った。
「ま、今日は特別だよ。ステラ姉」
「たまには、こんな日があってもいいさ」
そう言いながら、二人も子供たちの輪に交ざっていく。ステラも子供たちに手を引っ張られ、その輪に加わっていった。
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