第7話
がつん、がつん、と激しい音が鳴り響き、少しずつバリケードが崩れていく。それを見て、ルカはわずかに焦りを滲ませた。
「まずいわね……破られるのは、時間の問題みたい」
もうすでに、大分、時間が経っていた。
天守に至る扉を封鎖し、敵の侵入を防いでいたが――もはや、これまでらしい。斧が何度もぶつかり、ぼろぼろになった扉が軋みをあげていた。
揺れるバリケードを見て、ルカは舌打ちすると、脇の偉丈夫が答えた。
「ルカ殿は控えておれ。こういうときは、武士たる己の仕事よ」
そう言いながら、カトウは腕を組んで厳めしく告げる。その手にあるのは、長い棒だ。急ごしらえの棒を持ち、いつ破られても問題ないように仁王立ちする。
「武器なしで、戦うのかしら。カトウ殿」
会談の場には、武器を持ち込まないのが通例だ。ルカも太刀一本も持っておらず、扇一本しかない。カトウも武器はないが、棒で地面を突いて唸った。
「ふん、この棒切れで十分よ。通路も狭い――上手く立ち会えるはずだ」
「そう……なら、付き合うわよ。私も、武人の端切れよ」
「ふ……血は争えんな」
口角を吊り上げるカトウは目を細める。
「少しでも時間を稼ぎ、仲間を待つ――無理は、せぬようにな。ルカ殿」
「承知したわ。カトウ殿」
武人二人で頷き合う。もし破られれば、あとは文官たちしかいない。ここで何としてでも食い止めなければならないのだ。
(ステラは――間に合わなかった……かしら)
少しだけ心細い。それでも、彼女の笑顔を思い起こして、彼女は勇気を奮い立たせる、瞬間、めきめきと木が悲鳴を上げた。
徐々に、扉がこじ開けられていき、外から野蛮な声が上がった。
そのまま、扉の向こうからバリケードを崩し、男たちがなだれ込んでくる。それを目の当たりにして、ルカとカトウは同時に獲物を構え――。
「ルカ様ああああああああああああ!」
不意に、澄んだ叫び声が、前方から響き渡った。
直後、男たちの頭上――その上を滑空するように、二人の女騎士が中空を駆けた。そのまま、バリケードも飛び越し、ひらりと宙返りをしながら二人は着地する。
そのうちの一人の女騎士は白髪を揺らしながら、ほっとしたような笑みを浮かべる。
「間に、合いました……よかったです」
そこに立つ少女――ステラを見て、ルカはほっと安堵の吐息をついた。
ステラが間に合ったのは、クロウのおかげだった。
城内見廻組や重臣しか知らない、二の丸から本丸地下に通じる隠し通路。それを通じて、ひたすらに駆け抜け、ステラたちは本丸に突入。
天守への扉が破られたことを察知したステラは、サンナと共に先行したのだ。
着地したステラを、ルカは信じられないとばかりに目を見開いていたが、すぐに微笑み返して訊ねる。
「――よく来たわね……飛んで、きたの?」
「違いますよ……サンナの、鞭です」
視線を、破砕された扉の上の梁に向ける。そこには、鞭が巻き付いている。そこを支点に、振り子の要領で宙を舞ったのだ。
それよりも、とステラは腰に帯びた太刀を鞘ごと引き抜き、差し出す。
「預かっていたものです――どうぞ」
「ええ、ありがとう」
ルカは受け取るとすぐに鞘を払い、抜き身の刃を構える。サンナも予備の剣を抜きながら、バリケードを見つめる。
「来るよ、姉さま……!」
「大丈夫です――ルカ様、お力を借りても?」
「もちろん。背中は任せたわよ。ステラ」
微笑みながら、ルカはステラの横に並んでくれる。それだけで、誰よりも何よりも頼もしい。ステラは霞の構えを取り、ルカは脇流しに刃を構える。
直後、バリケードが崩壊し、怒涛の如く、賊が押し寄せてくる。
それを目にし、ステラは鋭く踏み込んだ。先頭の男の懐に飛び込み、その首筋に鋭い突きを放つ。血飛沫が舞う中、その男を蹴り飛ばす。
その脇で、ルカが鋭く刃を斬り上げ、賊を斬り捨てる。そのまま、流れるように刃を返し、横から迫った敵を斬り捨てる。
ステラは敵を突き倒しながら振り返ると、ルカの目が合う。
そのルカから背後に迫ってくる賊。ルカも目を見開き、ステラの背後を見た。
考えは、すぐに一致した。
お互いに手を伸ばし、握って身体を引き寄せる。そうしながら、お互いの肩越しに刃を突き出した。互いの背後の敵を、刺し貫く。
半分抱き合うようにして、二人は笑みを交わし合うと、すぐに身を翻して迫り来る敵の刃を受けた。
その一方で、サンナも的確に敵と斬り結び、敵の数を減らしていく。
カトウは、少女騎士たちの援護に徹し、脇をすり抜けようとする敵を棒で打ちのめしていた。全員で協力し合い、突っ込んでくる敵をいなしていく。
それに、怖気づいたのか、徐々に賊たちの攻め手が緩む――。
瞬間、その賊たちの背後から喚声が上がった。
「城内見廻組、クロウ・ヤノ推参! 者ども、出会え! 出会え!」
その声に、完全に賊たちは浮足立った。それを畳みかけるように、全員が一致団結して刃を振るう――。
賊たちが鎮圧されたのは、それからすぐであった。
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