第4話
やがて赤い星が地平線の向こうに消える夜がやってきました。
空は夜なのに白く、何も音が聞こえませんでした。ルカは空を見ました。北の空にはおぐまの輝くしっぽが見えました。そして南には白鳥が輝いているのが見えました。
「ロゾよ、ついにあなたの言う夜が来た。嵐の王サンベルジュはどこにいるのだろう」
風がゆっくりと強く何かに向かって吸い込まれて行きました。
「ルカよ、この小さな風達の行く先を見るのだ。ほら、見えるだろう?あの大きな暗闇の中にこちらを見ている巨大な目が、あれが嵐の王様“サンベルジュ”だ。ルカよ、身体を飛行艇にしっかりと紐で括り付けておくのだ」
ルカはロゾを懐に入れると身体を紐で飛行艇に縛り付けながら、今はっきりと自分の目にサンベルジュの巨大な目が見えるのが分かりました。
ごうごうと唸りを立てて風が音を立てて鳴りました。
(なんていう強い風だ!)
ルカは強い風で目が開けられなくなりました。
すると飛行艇はサンベルジュから伸びてきた強い巨大な風の手に捕まってしまいました。
そしてその手は飛行艇を握ると、前に後ろに、強く動かしました。
(これがサンベルジュの嵐か!)
その度、ルカは飛行艇から振り落とされそうになりましたが、飛行艇に身体を括りつけたおかげで飛行艇から投げ出されることはありませんでした。
何度も何度も飛行艇はサンベルジュの風の手に揺らされましたが、ルカは歯を食いしばり必死で頑張りました。すると激しく揺れていた飛行艇が静かになりました。
そしてルカの耳に大きく静かで空を響かす声が聞こえてきました。
「招かざる客人達よ、何故、お前達は私のもとへ来たのだ」
その声にロゾが言いました。
「嵐の王サンベルジュよ、私は渡り鳥のロゾだ。私は君に伝えに来たのだ、旅鳥達の王が代わったことを。これからも彼達は旅を続けるだろう。そのため彼達の空の旅の安全が続くように君にお願いに来た」
サンベルジュは言いました。
「友人ロゾ、懐かしき友よ、君は既に年老いた。若き希望に満ちた王が君の後を継いだのだな。希望に満ちた若者の旅を、何故、私が邪魔などしよう。君の願いは聞き届けられた。若き渡り鳥達の旅の安全を祈ろう」
そう言うとサンベルジュはその願いを聞き届けた事を示すために、遠くに大きな稲妻を落としました。
「もうひとりの招かざる客人よ、名前を聞こう」
「嵐の王サンベルジュよ、僕は青年“ルカ”空を旅する者だ。僕は伝説の青い楽園を探している。その青い楽園に行くためには“光の主の囁き”に答えなければならないと聞いている。そのため、ロゾと一緒に多くの街や枯れた森を、そして大きな水のない砂の川を越え、また幾つもの太陽の輝く世界と月の世界を旅して来た」
それを聞くとサンベルジュの力強い風の手がルカの身体を握りました。それは怒りに満ちた熱い手でした。
「愚か者よ、誰が、お前達人間等をあの美しい青い楽園へ導くものか。お前達は大地を汚し、森の木々を切り、川と海を汚し、そしてあろうことかこの空までも汚した。そんなお前達を私が何故友人としなければならないのだ」
ルカは自分の身体を握り締めるあまりの強い力に気絶しそうになりました。サンベルジュはルカの言葉に怒って彼を絞め殺そうとしているようでした。
あまりにも強い力にルカは息が出来なくなりました。
(こんな強大な力に人間が太刀打ちできることなどとてもできない!)
そして意識が薄れてゆこうとしているとき、お父さんのあの眼差しが見えました。
(さようなら、お父さん、僕はお父さんの夢に応えられない息子でした)
その時でした。ロゾの声が聞こえました。
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