第5話 帰って来たよ

 帰宅は金曜日。片倉が東京のクリニックへ移動する日。ついでに送ってもらう。品川からはタクシー利用。


 親のマンションでは、涼一とあおいが待っているはず。類は定時で帰ると、メッセージで息巻いていた。


 タクシーは二台に分乗している。先を行く車に、玲&皆と聡子&唯。後続車にさくらと片倉。


 さくらは、ふたごちゃんの男の子・景をだっこしている。この子がしばらく、大変だろう。かわいいけれど、大きな声でよく泣く。おなかも空くのが早いような気もする。


「なにかありました、遠慮なくすぐに相談してください」

「はい。ありがとうございます」


「私からも話があります。京都を出て、東京で本格的に医院を開こうかと」

「ほんとうですか!」


「ずっと、考えてきたことなのです。京都のあの界隈……東山区は昼間の人出は多いのですが、いよいよ観光地化が進み、子どもが、というか人口そのものが減ってきているのです。医院も空いていたでしょう。父は医者を引退して趣味をしたいようで、母はもうしばらく産科をやりたいと言っていますが」


 確かに、この二ヶ月間、聡子が貸し切り状態だった。すでに、新規の産科は受けてけていないそうだ。


「京都の中で移転する案もありましたが、片倉家はそもそも東京出身なので」

「そうですよね、みなさん京ことばじゃないですものね」


「ちょうど、一緒にクリニックを開かないかと誘われているんです……新宿区内で。まずは私が勤務し、両親も東京に出てくる予定です」

「ご近所さんになれますか」

「はい。産婦人科・小児科になるかと」


 朗報だった。頼りになる片倉がそばにいてくれたら、ぐっと助かる。


「類くんもよろこびます、きっと」

「お母さんのことでも、さくらさんのことでも。お力になりたいです。詳細が決まりましたら、連絡します」

「はい。これからも、よろしくお願いします」


 さくらが住まう街が見えてきた。新宿の、高層ビルのちょっと手前。懐かしい。まずは、両親のマンションへ落ち着くことになっている。


 先に、玲と聡子たちが車を降りているのが見えた。マンションのエントランス前に誰かいる。


「父さま、あおい……!」


 だいすきな人たちがいた。駆け寄りたい。あおい、あおいを早く抱き締めたい。


「さくらさん、景くんをお預かりします」


 そわそわと落ち着かない様子のさくらを察した、片倉が申し出てくれた。


「すみません。ではちょっとだけ、おことばに甘えます」


 さくらのタクシーも停まった。


 あおいは玲と話をしていて、母のさくらにはまだ気がついていない。うれしそうに手をたたいているものの、玲の腕の中には皆がいるため、すぐにだっこしてもらないのが不服そうで、ぽっぺをふくらませている。


 ドアが開く。さくらは、自分の荷物も持たずに飛び降りた。


「あおい! あおい……っ」


 その声に、あおいはすぐ反応してくれた。一瞬で、笑顔になる。


「まま……、ままーっ!」

「あおい、あおい。私のあおい」


 号泣である。


「ままかえってきた。あおいのとこにかえってきた」

「さみしかったよね。ごめんね。ただいま。もう二度と離れないよ」

「ままー。まま」


 京都では大きくなったように見えたけれど、やっぱりまだまだ四歳の女の子。小さな手をいっぱいに伸ばしてさくらに抱きついた。ぎゅっと抱き締める。


「よしよし。いいこ」

「あかちゃん、いっぱい。あかちゃん。あおい、おねえさんね!」

「そうだよ。あおいがいちばんのおねえさん」


「みせてー。あかちゃん、み・た・い。れいはかいくん? おばーちゃは……」

「おばあちゃんがだっこしているのは、ふたごちゃんのゆいちゃん。おねえさんね。こっちの……かたくらせんせいがだっこしているのは、けいくん。おとうとくんだよ」

「ゆいちゃ、けいくーん!」


 涼一が片倉から景を受け取った。


「さくら、おかえり。片倉さん、ありがとうございます。おお、新生児は抱くのがおそろしいな。ふわふわで」


 柴崎家の面々は、元気に笑顔で片倉と別れた。

 立ち寄るように勧めたのだけれども、家族の時間を優先してください、後日また、類によろしく、という流れになった。

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