レキオ戦記 〜美久の旅立ち〜

琉 紅

第1話 戦場の海



目の前で、コバルトブルーの海が果てしなく広がっていた。



天空では、小刻みにちぎれた雲たちが、気まぐれに吹きぬける風に押され、お互いぶつかり合っている。



その揺らめきの上で、七色の光の粒が飛び跳ねていた。


足元では、寄せては返す波につられて、浜辺の白い砂が絡み合う。


鼻をくすぐるのは、漂う磯の香りと吹き付ける潮風。




この風景は、きっと……そう、何か、別のものに表現出来るはずだと考えてみた。すると、『乱暴な』、子どもたちが良くやってる…『取っ組み合い、ケンカ』と同じだと気がついた。


そう感じた海へ、思い切ってすーっと細い素足を入り込んでみた。


〈チャポン〉


「あぁ、冷たい……」


青や桃色の小さな魚たちと戯れながら、足先で激しくかき乱してみる。


一匹の赤い魚が、「おまえは侵入者だ! 強い奴はキライだ!」と興奮したように、その足をつついてきた。


少女は、かすり模様の着物を羽織っていた。裾をめくりながら遊びに興じてた。


〈ビューン〉〈ササッ〉


急に吹いてきた風で、前髪を乱され、その場で立ち止まった。


(熱い風、私に……理想ニライカナイから、なぜ?)


乱れた髪を整えながら、周りをぐるりと見渡した。しかし、いつもと変わらない風景が、目に映っているだけだ。


「あーっ」


波打ち際に、茶色の小さな木片が揺れているのが目に入った。


「今日はラッキーがいいわ」


手にすると、(わっ、えーっ、うそ!)と気持ちがときめいた。遥か彼方の知らない世界まで、引きずり込まれていくようだ。


それはただの木くずではなく、花の彫刻が入っていたからだ。小さな花びらが四枚交互に重なり、やや前向きに首を垂れる格好になっている。これまでに見たことのない形で、花の部分には薄い紅色が残っていた。


(きっと、この先のどこかの大地で咲いているのよ)


それを胸に当て、高まる鼓動を伝えながら水平線の彼方を見続けた。



遠方から吹き荒れてくるのは、激動の嵐なのか。いつもと違いどことなく薄暗い。



これまで、見たり聞いたりしたことが無い人間模様、いくさ、その劇場の幕が上がっていく。



万丈で波乱な愛と欲望、安らぎと暴力とが入り交じっているに違いない。



それらの始まりは、この出来事がきっかけとなった。


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