第304話 合流

 空中巨大コロシアムの出口は、入り口の正反対に位置している。だから12時方向へ直線的に進めば最短コースだが、俺は敢えて大きく遠回りする進路を取っている。

 それはもちろん、怪しい気配を感じ取っているからだ。


「シュン、私もやっつけるよ」

 進路上の途中遭遇する残党オークは、ニーナもそう言って殲滅してくれている。

 ニーナが手にしているのは散弾銃ショットガン

 魔物を回収するつもりがない今の状況なら魔物を粉々にしてしまってもいい訳で、だったらショットガンで粉砕していくのが手っ取り早い。MPの節約にもなる。


 三体の群れを瞬殺してしまったニーナが俺に尋ねる。

「正確なところは聞いてなかったけど。ショットガンは少し燃費悪くなってるんだよね?」

「いや、ここは魔封じの結界は無いから前と同じ」

「え? あの結界の中でも発動するように魔力消費を多くしたんじゃないの?」

「そうなんだけど、単純に上げといても結局追っかけっこになりそうだから、多段階的に変わるようにした。あのシャフトの中より強い結界でも、ある程度までなら発動可能にしたんだ。それも含めて自動で切り替わるから魔封じが無ければ今までと同じだよ」

 とは言えそれも、雷がレベル9だからこそ実現可能な技。


「そっか…。そういう改造だったのね。さすがね」

 そう言うとニーナは、少し離れた所に見えるオーク一体をショットガンの最狭の射線で狙撃した。

 そのオークの首から上が吹き飛んだ。


 俺は感心しながらニーナに声をかける。

「ナイスショット。今のでもうこの先には敵は居ない」

「了解」


 またしばらく進んで俺が足を停めるとニーナも隣で立ち止まった。

 俺達の目の前には、人の背丈ぐらいに土が盛り上がった小さな土塁のようなものが在る。

 広範囲を照らしていたライトの光球の数を減らしてこの周囲だけにした俺は言う。

「あまり近付かないように。この土が盛り上がっている所、全部幻影だから」

「そうなの…? この階層は幻影多いね」

「だな。今から解析して解除するよ」

 そう言って俺は土手の脇へと近づいた。いきなり幻影の中に入らないのは、ここに来て判った微かな他の魔法の存在を感じているから。何かの魔法陣っぽいものが在ると俺は推測している。


 幻影も結界と同じように起点となっている箇所が必ずある。その起点の部分を破壊してしまえれば手っ取り早く無効化できるが、起点は幻影で覆われた中に在るとは限らない。むしろ外側に在ることの方が多いだろう。

 多少時間はかかるが、そういう訳で幻影の魔法を解析して辿って起点を探るのだ。


 その後、解析した結果でほぼ特定でき、土塁の裏に回った俺は地面の一点を見詰めた。

「見つけた。ここだ」


 ニーナも後ろを付いてきている。

「起点は一つだけ?」

「うん、そんなに広い範囲じゃないからだろう」

 と答えるとすぐに、俺はショットガンでその地面を撃ち抜いた。


 様子がさっと切り替わって見えてきたのは、土と草と木ばかりのこのコロシアム内では初めて見るダンジョンの石畳の上に描かれた直径約5メートルの魔法陣。


「……」

 ニーナは黙ったままその魔法陣を凝視している。

 俺は当然、その魔法陣の解析。


 すぐ、解ってきたことをニーナにも説明する。

「固定転移魔法陣だ…。一応は双方向。そして対になっている相手先は一つ」

「やっぱり転移なのね。で、どうする? レッテガルニやゴブリン軍団の時みたいに書き換えて停止させる?」

「取り敢えず書き換えで停止させとくよ。破壊してしまうのはいつでもできるし」

 ニーナは納得するように、うんうんと頷いた。

「おそらくここからオークが出てきたんだよね。転移元はオークの巣かも知れないけど、それは後回しね」

「そうだな。いきなり飛び込んでいきたくはないし、それはあとで考えよう」



 ◇◇◇



 さて、その頃の他のメンバー達一行。

 三つ目の橋を渡ったところで、食事などを済ませた全員それぞれが座ったり寝転がったりして休んでいる。


 ガスランとフェルが、どちらも背中は橋の手すりを為している壁に預けて互いに肩を寄せ合ったまま熟睡中。モルヴィはそんなフェルの膝の上で丸くなっている。

「モルヴィ、ちょっとそこから移動してください」

 囁くような声でモルヴィにそう言ったレヴァンテは、モルヴィが膝から降りてしまうとガスランとフェル二人に毛布を掛けた。

 モルヴィは小さく喉を鳴らしてレヴァンテにお礼を言うと、またフェルの上に乗って丸くなった。


 まだ起きているのはエリーゼとレヴァンテ。

 エリーゼが、渡ってきた橋の方に顔を向けて言う。

「レヴァンテ、私さっきからね。シュンが近づいてるような気がするの。ちょっと戻って見てくる」

「探査で何か感知できているのですか? ニーナもシュンさんも全く危ない様子はなく、ただ、今日は夜になってからも時折ショットガンを撃ってるようだということは私も解っていますが…」

 ここは空中庭園ごとに探査が阻害されている。生体魔力波を遮断する隠蔽からの派生なのでその実現方法は異なるが、まるで一つ一つがダンジョンの別階層のような状態になっているということだ。


 エリーゼはレヴァンテを見て少しだけ微笑んだ。

「ううん、探査とかそういうのじゃない。でもね、私には感じるの」

「それは、もしかして精霊の導きのようなものなんでしょうか?」

「どうだろうね…。悪いけど、ここの警戒はお願いね」

「分かりました。モルヴィも居ますから、こちらのことは心配しないでください」


 エリーゼが椅子から立ち上がると、ガスランが毛布をめくって自分にもたれ掛かっているフェルを毛布の上に静かに横たえてから立ち上がった。

「エリーゼ、俺も行く」

「うん…。起こしてしまってごめんね」

「いや、半分寝てただけ。話し声はずっと聴こえてた」



 橋を渡ってオークが居た空中庭園に戻ったエリーゼはすぐに探査で事実を知る。


 泣きそうな、でも喜びいっぱいの笑顔でエリーゼは叫ぶ。

「シュン! ニーナ!」

 同時に発動させた風魔法でその大きな声をシュン達の方へ送った。



 ◇◇◇



 転移魔法陣の書き換えが終わって、ニーナと出口の方へ向かい始めたその時。

 探査に良く知る人の反応が現れた。


「シュン! ニーナ!」


「あ、エリーゼの声ね」

「うん、たった今向こうから戻ってきたって感じだな。ガスランも一緒に居る」


 ニーナが空に向けて火球を一つ打ち上げた。

 俺もライトの光球を打ち上げる。


 小走りで出口の方に向かった。

 木立を抜けて姿が見えてきた時には、既にエリーゼとガスランが手を挙げていた。

 エリーゼが俺に飛びついてくる。


 抱き締めた後、軽くキスをしてエリーゼを見詰め直すと、涙で潤んだ眼でやはり俺を見詰めて微笑んでいる。

 ガスランもやって来てニーナと俺とハイタッチ。

 エリーゼはニーナと抱き締め合う。


「皆、無事。少し疲れ気味だけど」

 ガスランのその言葉に俺は頷いた。

「シャフト降りるの大変だっただろ」

「シュン達も入ってみた?」

「ここに来る前に少しだけな。魔封じの結界には驚かされた」


 と、そんなことを口々に喋りながら四人で橋を渡る。


 橋を渡り切った所にはフェルがニコニコ微笑んで待っている。

 そのフェルを筆頭に、この時間ならば寝ていたであろう全員が俺達を出迎えてくれている。

「シュン~! ニーナ~!」

 大きな声を発した甘えん坊フェルが飛びついてくるのはお約束。

 しっかり受け止めてニーナと二人で抱き締めてやる。


 女性陣が次々とニーナをかわるがわるに抱き締め始めた。

 ウィルさんが俺にニヤッと笑いながら言う。

「やっと合流できたな」

「遅くなったから、そろそろシュン達の方から来るんじゃないかと思ってた」

 と、これはシャーリーさん。


「無事で何よりよ」

「すみません。こんな夜遅くに」

 俺がそう答えるとセイシェリスさんはプッと吹き出して笑い、そして微笑みを浮かべたまま俺の頭を優しく撫でた。



 この空中コロシアム。

 セイシェリスさん達は空中庭園と呼んでいるが、これが全部で4つあり、そして4つで行き止まりであることを俺は全員へ説明した。

「ひとつ前の所も転移魔法陣があったし、一番奥は特に怪しいわよ」

 ニーナがそう言うと、全員が考え込んでいた。


 合流してすぐに判ったのは、バステフマークの五人の消耗が大きいこと。

 俺と話し合っていた通りに体力温存の方針をかなり意識していたセイシェリスさんだったが、やはり魔封じの結界内での戦闘は体力的にも精神的にもかなり消耗したと言っている。

 シャフトを出てこの空中コロシアムに入ってからも、多くの者が初見のトレントと迷路。あたかも人間の軍隊のような遠距離からの弓と魔法を主たる攻撃手段として選択していたオーク。そんな気が抜けないコロシアムが二つ続いた。


 エリーゼが出したとても遅くなってしまった晩飯を俺は少し。ニーナはたくさん食べて、ウィルさんやガスラン達もいろんな話をしながらその食事に付きあった。



 さて、ニーナを含めてそんなガスラン達ほぼ全員は、もう今は既に熟睡モード。

 皆が寝静まって、食事後に始めていた全員のショットガンの改造を終えた俺はすぐに偵察へ出る。レヴァンテにあとの警戒は頼んだ。


 入り口からだが、一応はエリーゼ達が中の様子はチェック済みだと聞いている。

 それを裏付けるように、入り口を入ってすぐの所から広げた俺の目いっぱいの探査に引っかかるものは無かった。


 この三つめの中も二つ目と同じような様相だ。

 起伏に富んだ土がむき出しの平原と草原が半々ぐらいの割合で広がり、所々の木立とそんな起伏、背丈のある茂った草は人間程度の大きさの魔物ならば姿を隠すのに適した遮蔽物となり得る。


 時計回りでここを囲う壁に沿ってゆっくりと歩いた。

 見つけるべく傾注しているのは、ひとつ前のコロシアムでも見つけたような幻影で隠された箇所、そして更なる隠蔽が施されたような箇所だ。



 違いに気が付いたのは、そうやって歩き始めて少し時間が過ぎた頃。

 外周の四分の一ぐらいまで進んできていた俺は、このコロシアムの中心からかなり出口寄り、奥の方に居る隠蔽を施された存在に気が付いた。

 その数は三つ。

 大きなものだ。

 その大きさのせいで気付き易かったのは事実。

 自分に掛けている隠蔽を更に念入りなものにした俺は、もう少しそれらに近付いて見ることにした。


 そして、フィールドから空中コロシアムを見つけた時と同じように、近付いたおかげで看破が進んで次第にそれは何なのかが見えてくる。


 俺は思わず呟いてしまう。

「これは…」

 見覚えがあるフォルム、そしてその存在感。間違いないだろう。

「ドレマラークをここに配置しているとはな…。しかも一度に三匹かよ」


 そろそろ夜が明け始める時刻だ。

 ドレイク種は確実に暗視のような視力を持っているが、明るくなって今以上に相手から気付かれやすくなる可能性を考えて、俺はそこで偵察をやめた。



 ◇◇◇



「さあ、手筈通りに行くぞ」

「「「「「了解」」」」」

「うっしゃ」

「気を付けて行きましょう」

 セイシェリスさんの号令に全員が静かに答える。


 ニーナはセイシェリスさんと俺を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。

「じゃあ私は先に上がっておくね。シュン、タイミングは合図出して」

「オッケー。上がり過ぎと土魔法のブレスに気をつけろよ」

「解ってる。イビルドラゴンの時みたいなドジは踏まないわ」



 静かに壁沿いを時計回りに進む皆と離れて、俺は逆回りに壁沿いをかなり速いスピードで走った。

 三匹は互いに50メートルぐらいの間隔を取るように位置していて、未明に見たとき同様、腹を地面に付けてじっと伏せている。


 俺は皆の位置とニーナの位置を確認すると、光を込めた女神の剣を抜いて最も奥の一匹の元へ縮地で飛んだ。


 渾身の力で振るった剣が魔法を斬り裂く。

 隠蔽魔法は100%純粋な闇魔法だ。俺が光魔法を纏わせた女神の剣なら斬り裂いてしまえる。


 バリバリーーンッッ!!

 と、大きな音を響かせて隠蔽魔法が砕けて消えた。


 ヴォァァァオオォォ…


 驚きか、静寂を破られたことへの怒りか。そのドレマラークが吠える。

 俺はすかさずそいつのすぐ目の前の地面にドレマラークの頭の大きさとほぼ同じ直径3メートルほどのライトの光球を出すと、次の一匹の元へ縮地で飛んだ。


 次の一匹の隠蔽を俺が斬り裂いた時、とんでもない勢いで落とされた巨岩が、反射的にライトの光球に噛みついていた最初の一匹の後頭部に堕ちた。


 声も出せない程にそいつは頭を地面に叩き付けられた。


 そして俺は三匹めの隠蔽魔法も斬り裂いて無効化してしまう。


 ヴォァァオォォ…

 ヴァァオオァォォ…


 二匹の吠える声が大きく響く中、また縮地で飛んでいた俺は最初の一匹めの尻尾を斬り裂く。

 これには切羽詰まった危機感を抱くほどの痛みを感じたのだろう、首をもたげて声を出し始めたそいつの頭に、更にニーナが岩を落とした。

 またもや、がくんと頭を地面に落としてしまったそいつの尻尾の同じところを俺は斬りつけてそこから先を斬り飛ばしてしまう。


 その直後に見せた、少し頭を上げてグワッと口を大きく開くそのドレマラークの動作には見覚えがあった。

 これはブレスを吐こうとする予備動作だ。

 おそらくは苦し紛れに周囲にブレスを撒き散らすつもりだ。


「やらせないよ。てか、それを待ってた」

 俺は縮地でドレマラークの鼻先へ。

 左手に持っているのはショットガン。

 銃口を、大きく開けているそいつの口の中へほとんど突っ込まんばかりに突き出した。そして引き鉄を引く。


 ズガガガガガガガガンンンンンッッッ!!!


 ショットガンの無数の光雷の刃が、そのドレマラークの後頭部を内側から突き破って奴の背中の方へ迸った。


 ニーナが二匹目の頭に岩を落とした。

 こいつはさすがに上に敵が居ると分かったようで、岩でつんのめるもすぐに立て直してニーナを探すように頭を持ち上げた。


「ニーナ、もういいぞ!」

 俺は大きな声でニーナに言うと、頭を上げているそいつの足元へ飛んだ。


 ニーナはすぐに飛んで離れて、残っているもう一匹のドレマラークの方へ向かう。


 前足と喉に連続で斬りつけた俺は、敢えて自分の姿を見せつけて奴が出口の方を向くように誘導。

 そして俺が更に出口の方向に距離を取ると、案の定そのドレマラークは俺に向かって飛び掛かってきた。


 巨体のせいで鈍重に思われがちなドレマラークは、実はかなり敏捷性が高い。辺境一の俊敏さを誇るヘルハウンドに引けを取らない動きができるのを、俺達も実際に目にしている。

 狩る側には、それを発揮させない上回る速さが求められるのだ。

 チクチクと脚や胴そして顔も斬りつけて誘導し、残るもう一匹からの距離を離していきながら、そのもう一匹を狩り始めた他のメンバーの様子を俺は見る。


 ガスランとウィルさんが鼻先で構えて、フェルがレヴァンテと共に尻尾の方へ回り込んだ。クリスはそいつの右の胴の方から隙を伺う。

 ニーナの爆炎がドレマラークの頭の周囲で炸裂。

 威力を抑えていることもあるが、魔法防御については折り紙付きのドレマラーク。それでも多少の苦痛は感じているはずなのに、どうやらそれくらいの痛みへの耐性は強そうだ。

 しかしニーナのその爆炎の目的は、視界を遮ること。

 爆炎の火が消えると同時に飛び込んだガスランとウィルさんが首に剣を振るう。

「撃て!」

 セイシェリスさんの号令でセイシェリスさんとシャーリーさん、そしてエリーゼとティリアの四人がショットガンを奴の顔面に集中砲火。


 その直後クリスが飛び込んで胴を深く斬りつけた時、フェルはドレマラークの尻尾に飛び乗ってその背中を走り始めた。

 クリスが振るったさすがのアダマンタイト剣が、ドレマラークの物理防御の高さに打ち勝って深く抉った。


 ヴァオオォ、ヴァオオァォォ!


 さすがにこれは相当な痛みなのだろう。クリスに抉られた身体の右側にドレマラークは大きく頭を向けた。

 しかしタイミングを計っていたフェルが、ドレマラークの背中を蹴ってその頭を目掛けて斬りかかった。顔面を剣で薙ぐと、ヴォルメイスの剣はドレマラークの右目にヒットする。そしてフェルが渾身のスピードと体重と膂力の強さを乗せたまま振り抜いた時にはその右目は完全に破壊されていた。

 剣を振った勢いのままフェルがドレマラークから飛び降りると、レヴァンテが注意が自分に向けられるように尻尾を斬り飛ばす。


 ヴァ、ア、ア…オオォ


 一つ一つの痛みに反応する余裕もなくなり、ドレマラークは全身を震わせて残った目で懸命に自身に危害を加えてきている対象を探す。

 クリスが続けて右の後ろ足に斬りつけたと同時に、懐に飛び込んだガスランがドレマラークの喉元を斬り裂いた。ドロッとした血が流れる。

 そしてウィルさんは、さっき斬った首の同じところに更に深く食い込む一撃。


「撃て!」

 またもや顔面への集中砲火。但し、この時にはエリーゼはベラスタルの弓に持ち替えていた。

 苦痛と怒りの咆哮を発するために開けた口に、狙い澄ましたエリーゼが放つ雷撃を纏わせた矢が何本も飛び込む。

 顔へのショットガンの雷撃と口の中の爆発で悶絶するドレマラーク。


「動きを止めるよ!」

 そこにニーナの加重魔法が発動。

 事態を打開すべく闇雲に暴れまわりそうな様子だったのにニーナによって動きが止められたドレマラーク。

 その首の両側からウィルさんとクリスが渾身の剣を撃ち下ろした。そして続けてフェルとガスランの二人も同じ所へ剣を振る。

 そこに真上からニーナがショットガンを一点集中して連続で撃つと、大量の血を噴き上げながらドレマラークの力は尽きた。


「よし、見事」

 俺は皆の戦闘の終了を確認してしまうと、目の前に居るドレマラークへの仕上げ。


 女神の剣に纏わせるのは、今度は雷魔法。限界まで籠めている。

 縮地で飛び込み、下から切り上げるようにしてドレマラークの首を斬り裂いた。

 雷光の輝きは通常の剣の長さを遥かに超えて巨大な剣の形となり、ドレマラークの首を一刀両断。

 ほとんど抵抗を感じることのないその剣を振り抜くとすぐに、ドシンッとドレマラークの身体が崩れ落ち、首から先が転がった。



 かなり近くまで来て、俺の仕上げの様子をじっと見つめていたレヴァンテが呟く。

「雷神の剣…」

 釣られるように一緒に付いてきてレヴァンテのすぐ隣で呆気に取られていたフェルが、レヴァンテに説明を求める表情を見せた。


「邪龍の群れを討ち払った雷神が使ったとされる巨剣の伝説があります。学院の図書館にも確か、その話が載った本がありますよ」

「レヴァンテ、学院に戻ったら真っ先に読むからどの本か教えてね!」

 目をキラキラさせてそう言ったフェルに、レヴァンテはニッコリ微笑む。

「はい。分かりました」

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