第272話

 爆弾を初めて皆に使ってもらった時のように、最初は俺が使って見せる。

 第9層に降りてすぐの通路で、壁に向かって俺は散弾銃ショットガンをぶっ放した。


 ズガガガガッンッッ!!

 ズガガガガガガッンッッ!!

 ズガガガガガガガガガガガッンッッ!!


「「「「「……」」」」」

「ふ、ふふ…。あははははははは…」

 ニーナが少し壊れたっぽい。


 エリーゼには構想段階の頃から時折話していた。しかし実際に出来上がったものを見せたのはガスランだけで、他の皆には今回が初お披露目だ。

 そのエリーゼは半ば呆れている。

「聞いてはいたけど、こんなに凄いものだったのね…」

「なるべく音は小さくしようとしたんだよ。けど、どうしてもこれが限界。まあ逆に、俺が撃った時の音と違うから判りやすいだろ」


 消音装置のようなことも考えたんだが、早々に諦めて音をなるべく低減する方向で調整した。そのせいで俺が魔法として撃つ雷撃散弾とは少し音が違って聞こえる。

 これはこれでアリだと思う。俺が撃ってるのかショットガンで撃ってるのか音だけで判別がつくということだからね。


 ふむふむと頷いたエリーゼが続けて尋ねてくる。

「どのくらいの回数撃てるの? 燃費で悩んでるようなこと言ってたよね」

「今こいつには小魔石を3個詰めてる。ゴブリンのなんだけど…。回数と言うか、連射モードで今の射程が短い設定だとだいたい2時間ぐらい」

 エリーゼに、えっ? という驚きの表情が浮かぶ。

「2時間? ずっと撃ち続けられるの?」

 魔石の詰め替えは簡単に素早くできるよう工夫したので、そこはしっかり詳しく説明するつもり。


 俺とエリーゼの会話を聞いて少し落ち着いてきたのか正気に戻った様子のニーナだが、心なしか目が血走っているような気がする。そして何故か俺を睨む。

「シュン? 以前言ってたようにこれで私も散弾が撃てるんだよね?!」

「もちろん。ニーナが大好きな爆弾と同じと思ってくれればいい」

 ニーナは大きく息を吐いた。

「ふぅ…。想像以上よ。聞くと見るのじゃ大違い…。近接でこれが使える意味はとんでもなく大きいわ。自分のMPは使わずにこれだけの魔法を撃てるなんて…。しかも、連続で2時間って…。爆弾の時も驚いたけど、これは…」


 そこまで言って今度は考え込むように腕組みをして黙ったニーナは、爆弾は遠距離攻撃だからね。と、つけ加えるように呟いた。

 爆弾を誰よりも使いこなしているニーナは戦闘時のその使いにくさも良く理解している。だからこそ、実際に目にしてこの散弾銃ショットガンの使い方のイメージが沸いてきているようだ。


「そう。爆弾は自分も距離を取らなければいけない遠距離の破壊兵器だけど、この散弾銃ショットガンは対人、対魔物の近接武器だ。この前グリーディサーペントと戦った時に手数の少なさを痛感して、早く作り上げてしまおうと思ったんだ」


 まだ呆然としているのはフェルとケイレブの二人。レヴァンテはどうやらラピスティと絶賛解析中の模様。

 そのレヴァンテが言う。

「シュンさん、この威力にこの魔力消費の少なさはどういうことなんでしょうか」

「企業秘密と言いたいとこだけど、ラピスティならそのうち解析できるだろうしな…。うん、俺の雷魔法は今レベル9なんだよ。そのおかげだ」


 そして、やっと我に返ったフェルが騒ぎ始める。

「シュン私にも撃たせて! 散弾撃ちたいよ~!」

 その表情は一瞬で夢から醒めたかのようにキラキラと目が輝き、興味津々で仕方ないという感じになっている。


「解ってる。ちゃんとお前にも用意してるから」


 このショットガンは普通の魔道具と同じように誰でも使える。

 だが、個人認証のロックを掛けるつもりだ。俺たち以外は使えないように。

 レヴァンテの認証だけはちょっと特別だけど、問題ない。



 各自に一丁ずつ持たせて扱い方を説明。そして最初は一人ずつ試射をさせた。それはケイレブにも。シンプルな作りなうえに操作が簡単なせいもあって、皆、飲み込みが早い。


 そんな事をしているうちに、撃ち続けている散弾の音を聞きつけた魔物が近付いて来た。基本的に階段を降りてすぐのスペースには魔物はあまり寄り付かないのだが、これだけ長い時間、同じ場所に留まって音を立てていたら当然だろう。


「丁度いい、早速実戦テストに移ることにしよう」

 そう言って俺は布陣を指示する。


 把握しておくべきはこの散弾の射程と射出の広がり、角度だ。

 選択できるモードは幾つか用意していて、射程と散弾の広がりをそれぞれ選択可能にしている。ダンジョンで使い勝手がいいのは射程を短めにして、射出の広がりもそれほど広がらないようにしておく設定。銃は片手でも取り回しが容易なので、広がりは無くても連射で補える。


 第9層はゴーレムが大抵10体ほどの団体で行動している。その団体ゴーレムに遭遇すると、ゴーレムから呼ばれるようにすぐにガーゴイルが飛んでやって来る。その数は多い時では30匹ほどになる。

 それらを俺以外の全員が一斉にショットガンで撃つと、そんな群れでも瞬殺である。この程度の群れに6人のショットガンだと火力過剰にもほどがあると思う。

 ニーナは笑顔満開である。

「これ、癖になるわ。快感よ」

「うん、凄く楽しい」

 同意の頷きを見せたエリーゼも気に入ったようだ。

 フェルとケイレブは二人でゴーレムたちの残骸とショットガンを見比べたり、銃を撃つ構えをして興奮気味に何か話をしている。


 皆がそんな風にざわめいている中、ニーナは俺の方を見ると何か悪巧みでもしているようにニヤリと笑う。

「次、私一人でやらせてくれない? 二つ持って撃っていいでしょ」

 俺もニーナに笑顔を返しながら頷く。

「いいよ。元々そういう想定だし」

 そのイメージがあったから、片手でも取り回ししやすい形、重さバランスにこだわった。


「詰めてる魔石の魔力残量はくれぐれも常に確認するようにしてくれ。装填の仕方はさっき説明したとおりだけど、何度も練習していざという時にもたつかないように」

 皆にそう声をかけて、また通路を進み始めた。


 その後、次に遭遇した群れに対して、一歩前に出たニーナはそのゴーレムたちを引き付けてから両手に持った二丁のショットガンをぶっ放した。


 あっという間の殲滅だった。



 ◇◇◇



 俺達は、ショットガンを使いこなすためにひたすら狩りを続けた。同時にショットガンの微調整も何度か行い、その仕上がり具合に俺はかなり満足している。

 ちなみにこんな狩り方でも経験値はしっかり通常通りに取得出来ていて、ケイレブは立て続けにレベルアップをしていった。


 そしてやって来た第10層。

 この階層の通路と壁に囲まれた広場はそれぞれで出現する魔物が異なる。ここからは、また本来の狩りのスタイルに戻す。

 ショットガンだと素材としての価値をかなり損なってしまう結果になり兼ねないという理由もある。


 初っ端、以前も狩ったことがある広場で剣と弓でワーグの群れを殲滅し、その死体の回収をしている時にフェルが苦笑いを浮かべる。

「ショットガンに慣れてしまうと、普通の狩りがもどかしく感じてしまう」

「まあ、ショットガンはゴーレム用と思った方がいい。あとはスタンピード級の魔物の群れに対峙する時だな」

 俺がフェルにそう応じると、エリーゼが言う。

「グリーディサーペントみたいなのもだけど、フィールド階層のサイクロプスの群れも、だよね」

「そうだな。あそこのサイクロプスがもし集まってくるようなことがあれば、普通に戦っていたら数で押し切られてしまうだろう」



 通路は、見覚えのある下り坂に変わった。

 フェルがニコニコ微笑みながらケイレブの方に振り返る。

「ケイレブもうすぐ着くよ」

「ゲート? だよね」

「そう。ダンジョンからの不思議な贈り物、ゲートがある広場」


 近付くと、幻影で隠されていて通路側からだと中の様子は見えないが探査でゲート広場には人の反応が有るのが判ってきた。

「誰か居るな。一応警戒しとこうか」

「うん…。バステフマークの人たちかな…?」

 エリーゼも人が居ることには気が付いている。だがそれが誰なのかは判らない。

「いや違う。考えられるのはギルドの職員だけど…」


 広場に入った俺達の目に見えてきたのは、家だった。

 ゲートの近くに建つ家は二軒。その家の前では見覚えがある数人のギルド職員が何やら作業をしている。


 突然現れた俺達に最初は緊張した様子がうかがえた彼らは、やって来たのが俺達だと判ると安心した表情に変わる。

「アルヴィースの皆さんでしたか。お疲れさまです」

「お疲れさまです。家…、と言うかロッジ持ってきたんですね」

「はい、テントは狭いですからね」


 これはフレイヤさんの思い付きだろうなと思う。

 この広場をいつかは宿場町のようにしようとでも考えているのだろうか。


 彼らが居る近くに俺達もテントを設営する。

 ケイレブはゲートが気になって仕方ないようだ。

 設営作業をしながらガスランがケイレブに説明を始めると真剣な表情でゲートとガスランの顔を交互に見ながら話を聞いている。

 ゲートについては概略としてはケイレブも聞いているのだろうが、実物を見ながら、そして実際にゲートを使った者からの話には興味津々だ。



 その日の夜。

 いつものように見張りをしながら本を読んでいた俺は魔力の蠢きを感知する。

 それは決して強大な物ではなく、どうかすると気が付かずに見過ごしてしまいそうなほどの微かな反応だ。


「レヴァンテ、発生源は特定できるか?」

 俺は、やはり見張りの為に俺の前の椅子に座って同じように本を読んでいたレヴァンテに小さな声でそう囁いた。

 レヴァンテは北の通路の方に視線を向けている。

「窓の向こう側なのは間違いありませんが、その先はここからでは判りません」


 窓というのは、フィールド階層を見下ろすことができる所。最初は扉があったがそれを守護していたレイスを殲滅してからは扉が無くなって開いたままになっている。

 その窓はとてつもなく広いフィールド階層を囲う壁に開いていて、フィールドの下から千メートルぐらいの高さに位置している。


「俺も同じだ。窓まで行ってみるぞ」

「畏まりました」

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