第206話
眷属と主の間は魔法的パスで繋がっている。これは人の一人一人の中にある魂と肉体の繋がりと同質のものだ。魂がその器である肉体に定着している状態は、魂と肉体が繋がっているということ。その繋がりに魔法的パスを通して介入し魂に干渉する仕組みが眷属化である。
しかし俺が持っている並列思考のようなものが無ければ、眷属を常に制御し続けることは不可能だ。それを裏付けるように、主が眷属を完全に操ることが出来るのはせいぜい同時に2体までだと言われている。だから、寝たきりの主でもなければ制御を手放すことが当たり前で、それでも眷属足らしめているのが魔法的パスを維持し続ける隷属契約、すなわち魔法契約である。
「彼女はこちらの質問にかなり答える雰囲気になっていたそうよ。特に北方種族自治領のことを」
「それをイレーネが勘付いたから…」
フェイリスの話に、ニーナが悔しそうな顔を隠さずに応じた。
城のフェイリスの部屋に戻って俺達4人とフェイリスは話をしている。いつもの女近衛騎士は、ここ最近ずっとフェイリスに付き従っていてろくに寝ていないらしく、城に戻ってすぐにフェイリスが下がらせた。今は替わりの近衛騎士二人が部屋の外に立っている。
フェイリスが俺に向き直って言う。
「眷属に呪いを送り込めるなんて、初めて聞いたわ」
「うん、俺も知らなかった。ただ…、これが出来るからこそ隷属契約と呼べない程の条件が緩い眷属化だったんだろうと思う」
「本人が了承しやすい?」
俺はエリーゼの言葉に頷いた。
「救いは、あくまでも呪いだということかな。呪いの魔法を送り込んで一旦は定着させる必要があるからその手順に少し時間がかかる。そしてそれは眷属の側が静かな状態じゃないと出来ない」
「静かなってことは、眠っている時ということね」
「おそらく、それで間違いないと思う」
フェイリスに肯定の頷きを返しながら俺はそう言った。
ガスランが口を開く。
「眷属化されていた三人が全員女性というのは何か意味があるのかな。ルミエル含めて四人とも」
「あっ…」
ニーナが声を漏らして、すぐに続けて言う。
「イレーネは女性しか眷属に出来ないんじゃないかということね」
フェイリスが、どう思う? という目で俺を見た。
俺はガスランが言ったことを、施設で魔法契約の解除をしていた時から考えていた。
「俺もその可能性は高いと思う。サキュバスの特性なんだろうと言ってしまえば終わりだけど、サキュバスにとって人間の男は自分が生きるための養分で女は下僕であり将来の苗床だから、そういう違いがあってもおかしくないと思う」
「なんだか、そう聞くとまさに悪魔、化け物ね」
「あの人当たりのいい顔の下にはそういう化け物のメンタリティが隠れている」
正直、メンタリティなんて人間的な言葉では表せないものだと思ってる。それだけ悪魔種は異質なものだということ。魔族が悪魔種を毛嫌いして絶滅させていった理由が解るような気がする。
人間社会に溶け込んでうまく立ち回って、そんなことは全て悪魔種にとっては当たり前のこと。本能的に人間らしく自然に演技が出来るのだ。その最終的な目的を考えると、それは人間が、良い肉質の牛を育てるために手間暇を掛けて愛情を注いで育てるのと似ている気がする。
◇◇◇
長い間あまり訓練らしいことが出来なかった俺達は、城の中で念入りな訓練を始めていた。すっかり待ち状態になってしまったので、この際とばかりに連日訓練に時間を費やした。
そうして数日が過ぎた時に、フェイリスが指示したイレーネ捕縛部隊からの知らせが届いた。
「イレーネとルミエルと二人に同行している護衛以外は捕縛完了。二人は途中で商隊から離れて先行したらしいわ。既に北方種族自治領に逃げ込んでしまったみたい」
「「「……」」」
「北方種族はなんて言ってるんだろう…」
「まあ、のらりくらりって感じみたいよ」
フェイリスが同時に指示していたイレーネ商会ラズマフ支店への捜査も一旦完了。支店長以外は捕縛済み。この支店長は女性で、おそらくイレーネ達と合流したと思われる。
帝都のイレーネ商会本社で捕縛した者達が、眷属だった女性達含めて次第に口を割り始めていて少しずつ情報が集まってきた。
そこで浮上してきたのは、魔鉱石と聖域。
時折イレーネ商会が帝都に持ち帰って販売していた魔鉱石は資金稼ぎの為に必要なだけを販売していたようで、実際にはこれまでにかなりの量を購入しているということが判って来た。
そして、イレーネは一人で聖域方面に行くことがあるという話。
ニーナはなぜか妙に納得した感じで言う。
「聖域…。そこに繋がるのね」
「宗教的な施設って言ってなかった?」
これはエリーゼ。
「施設と言うか場所って感じじゃないかな。まあ何かあるんだろうけど」
「嫌な予感しかしない」
そのガスランの言葉には完全に同意だ。
そして、フェイリスが俺達全員を呼んだ。
「一緒に北方種族自治領に行って欲しいの」
「一緒にって…」
「私のルーツがある場所だから、当然行くわ。それに同じルーツを持つしかも皇帝が来れば聖域だとか言って拒めないでしょ。まあ拒まれても無理やり入るけど」
確かに拒みはしないかもしれないが…。おそらくフェイリスは、聖域については以前調べさせたと言っていたから、それが不十分だったと悔んでるんだろうな。
「うーん…、行くにしても先遣隊とかはちゃんと出すんだよな」
「それは当然ね」
「フェイリス。俺の予想だと、お前もターゲットだぞ」
「食いついて来ればいいわ。シュン達が返討にしてくれるんでしょ。それにその意味で言えばシュン達も狙われるわよ」
「俺は男だから、あいつらにしてみたらただのエサだけどな」
フェイリスはニヤッと笑って言う。
「そうね。食あたりしそうなエサだけど」
プッとガスランが吹き出すと、皆がニヤニヤ笑い始めた。
少し準備がしたいとフェイリスに言ったら、どうせ軍の準備に三日はかかるとのこと。
うん、それだけあれば十分だろう。
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