第113話
第7階層のゴーレムの出現パターンは確かに変わっていた。
これまでは単独行動だったゴーレムが、ほとんどが二体から三体で行動するようになっている。ただ、下の階層のように周囲から他のゴーレムを呼び集めるような感じはない。
「これで、ゴーレム狩りは減るんでしょうね」
「強いパーティーだけ残るかも」
ニーナとエリーゼが言うように、これまでのような大人数で時間をかけて何とか一体を狩るやり方は減るだろうと思われる。
「ツアーみたいな形は第6層抜ける為に残るかもな。ミノタウロスが多いと厳しい時があるだろうし」
「臭いのはダメ」
と、喋りながらも、ガンガン走ってゴーレムを粉砕しまくって進んだ。
翌日は第8階層を進む。
この階層は前回までと出現パターンに変化はないように思う。
そして、あっさり第8階層の最奥に到着。
街でじっくり行った2週間の訓練の成果は確実に出ている。例えば、動きの速さはステータスが上がったことで得られていて当然なのだが、動きに無駄が無いことや身体の使い方、これはステータスの向上で得られるものではない。
むしろステータスが上がったことで、少なからず感覚的なギャップが生まれる。そこを矯正して上がった身体能力を100%発揮できるようにすることが必要だ。
俺達は、第8階層の最奥の安全地帯をベースキャンプに定め、翌日からはすぐ下の第9階層をマップ作成を意識しながら攻め続けた。
分岐を一つ一つ確かめながらマップを埋めていく作業。そして一時間に一度程度は遭遇するゴーレムの群れとそれに呼び寄せられる他のゴーレムとガーゴイル。全てを粉砕してまた歩いて通路を確かめていく。
攻撃の主担当を交代しながら、連携も都度確認しているのでパーティーとしての戦力が日に日に増していくことが実感できた。ガスランの斬撃は強度や速さが上がり、一度に放てる数も増えてきた。剣術スキルのレベルが上がったからなのだろう。
「やっぱりこの階層は広いね」
エリーゼが、出来上がっているマップを見ながらしみじみとそう言った。
今回この階層を攻め始めて既に5日間が過ぎて、その日は6日目である。
「そろそろ、ベースキャンプを移した方がいいかもしれないな」
昼夜の別はダンジョンの中に居ると判らなくなるが、大半の冒険者がそうであるように、俺達も時計を見ながらそのリズムは外と同じになるように気を付けて過ごしている。夜はなるべくノンビリ過ごし、皆でゲームをして遊んだり気分転換を図っていて、最近は俺が作ったトランプを使って遊ぶのがブーム。ガスランが強くてニーナがやられて悔しがっていたりする。
思い切ってベースキャンプを移すことにした俺達は、その中間安全地帯を起点にして更に第9層の探索を続けていた。
「おっ、久しぶり」
ガーゴイルとゴーレムの群れを殲滅し終わって呟いた俺のその言葉にニーナが鋭く反応する。
「レベル?」
「うん、上がった」
そう答えた次の瞬間に俺は立ち眩みに襲われる。以前のような気を失う程じゃないが、グラグラッと揺れる感じがして頭痛。
頭を押さえた俺を、気が付いたらエリーゼが支えてくれている。
「シュン、ちょっと休もう」
「うん、じゃあ少しだけ」
近くに魔物の反応は無いので、その場で座り込んで休憩。皆、自分が好きな飲み物を出して喉を潤す。
「鑑定スキルのレベルも上がったよ。この辺のが上がるといつも頭痛が凄いんだ」
「前の、探査の時もそうだったね」
エリーゼが言ったのは、探査に俯瞰視点スキルが組み込まれた時の話だ。
「知覚認識系のスキルが上がると、そうなのかも」
ニーナのその言葉が正解な気がする。
また数日が過ぎた。
俺達は、その日の探索を終えることにしてベースキャンプに戻る。ここまで13日間をこの階層で過ごして、俺はやりたいことも出来ていたので、そろそろ街に戻ろうかという気もしている。何とかこの階層も攻略してしまいたいと思っていたが、まだまだこの層は広そうだ。
ペースこそさすがに落ちて来たものの、今回も三人のレベルアップは続いている。もう三人とも常人のステータスなどは遥かに超えてしまっていて、こんなになっていいのかと俺なんかは逆に不安も感じるほど。本人達は至って平然としていて、まだまだという感じだけどね。
まあ、そういう俺も、久しぶりのレベルアップで上がったステータスは、前回のゴブリン軍団殲滅の時と同じように爆上がりもいいとこだった。
街に戻ることを話そうかと思っていたその日の夕食後、エリーゼが淹れてくれたお茶を皆で飲んでいるとエリーゼの電話に着信。相手はフレイヤさんしか無い。
電話に出たエリーゼの顔色がさっと変わった。
エリーゼは俺達を見て言う。
「スタンピードが発生したって…」
◇◇◇
第9層を最速で戻って、階段を上がった第8層の安全地帯でテントを出した。ここで朝まで休んで、その後は一気に地上まで上がる予定。
スタンピードの一報はドリスティア方面から。
ドリスティアから南西へ一日ほどの距離にある村が壊滅。スタンピードの魔物の群れは人が多い所へ向かうと言われていて、その話の通りに北東のドリスティアに向かったらしい。
「ドリスティアは内側、ダンジョンに対しての防御力は高いわ。だけど外からの攻撃に対してはおそらく脆い」
フレイヤさんは、ドリスティアは最悪の状況になっているかもしれないと。そして、もしそうなったら次の標的はおそらくはスウェーガルニになる可能性が高い。
壊滅した村の周辺からスウェーガルニへ逃げ延びてきた僅かな人達の話から推定された魔物の数は、最低でも1万。最悪は5万とされた。主な魔物の種類はゴブリン、オーク、グレイウルフに山岳地帯最強と呼ばれるレッドウルフ。そして、単眼の凶暴な人食い巨人サイクロプス。
各階層を安全地帯にも極力止まらずに一気に走り抜けて、とにかくひたすらに外を目指したおかげで思っていた以上に早く外に出ることが出来た。
まだ日が暮れていないダンジョンフロント。ダンジョンから出てすぐの所に在るギルドの出張所に入ると、中は騒然としていた。
既にスタンピード発生の連絡はスウェーガルニからここにも届いていて、冒険者たちが騒いでいるようだ。職員は大声で冒険者への通達事項を繰り返している。
「最新情報を教えて貰えますか」
俺がその職員にそう声をかけると、職員ははっと目を見開いて大きな声で答える。
「ああ、良かった。アルヴィースの方々ですね。そろそろ出てくるはずだと聞いてました」
俺達がフレイヤさんから電話で聞いている以上の情報はほとんど無かったが、スウェーガルニ支部から、スウェーガルニ周辺の全てのDランク以上の冒険者はギルドの指示に従い街の防衛に従事せよという緊急特種通達が出ていた。予め想定された幾つかの非常時にのみ発令される冒険者ギルドの伝家の宝刀である。
これは冒険者としての義務条項の中に明記されていることで、従わない場合の罰則は重い。尚、Eランク以下の冒険者は免除されている。
「アルヴィースの方々には迎えの馬車が来ています。それですぐ街のギルド支部へ行っていただけますか」
「分かりました」
アルヴィースという名が職員から呼ばれた途端に、騒がしかった冒険者たちは一様に静かになり、俺達と職員のやり取りを清聴している。
「皆さんも、なるべく早く街区内に戻ってください。Dランク以上の人はギルド支部へ行って指示を受けてください」
職員は、静かな今がチャンスとばかりに冒険者達へ声高に話を続けた。
馬車に乗る時に、四人の冒険者が俺達に声をかけてきた。
「アルヴィースの皆さん」
「ん? ああ、君たちは」
ゴブリンを懸命に狩っていた四人組だった。ペコリと俺達にお辞儀をしている。
「お疲れさまです。お願いがあります」
「お疲れさん、どうした?」
「私達も一緒に連れて行ってください」
馬車は大きめの2頭立てだったので全員乗れないことは無いが、多分スピードは落ちる。御者は首を横に振って、彼らに急ぐからダメだと言った。
「乗合馬車も商人の馬車ももう少ししたら動くみたいだから、それに乗って行きなさい」
ニーナも彼らにそう言った。
「手伝いをさせて欲しいんです。必ず支部に行きますから、私達を使ってください」
納得はできたのか、御者に我が儘言ってすみませんと謝ったリーダー格の女の子が、俺に向かって真剣な表情で、そう言った。
「若いっていいわね」
馬車が走り始めて少し経ってから、ニーナがポツリとそんなことを言った。
ブッと吹き出したのは俺とガスラン。エリーゼも笑いを堪えきれない。
「ちょっと、何がおかしいのよ!」
「いや、だってさ…」
「うん…」
「ニーナ、年幾つよ。あの子らも、いいとこ3つ下ぐらいじゃない」
「え、いやまあ…。それはそうだけど…」
「ニーナが言いたいことは分かる。彼らは現実を知らなすぎると思う。そういう意味じゃ、かなり子どもっぽい。でも、あの純粋さは良いなと思ったんだろ」
「そ、そうよ。可愛いじゃない」
「それは否定しないよ。ニーナが年寄り臭いこと言うから可笑しかったんだ」
「なっ!」
それから馬車に揺られながら軽い食事を摂って、俺達はしばしの睡眠をとることにした。全員あっという間に熟睡モード。俺は意識の半分は目覚めたまま、探査の範囲を極限まで広げ続けていた。
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