第89話

 さて、そういう訳でひたすらレッテガルニへ向けて南下中の俺達は、途中の小さな町の宿泊を経て、あと一泊、野営の後には目的地レッテガルニへ着こうかという所まで順調に来ていた。


 俺が御者台に居るエリーゼ達に声をかけると、もう少しでその日の最初の休憩地に予定している停車場に着くだろうとのこと。

 ミレディさんと地図を広げて、今この辺みたいですよと話をしているとエリーゼが御者台から器用に馬車の中を覗き込んで言う。

「シュン、そろそろ着くよ。先客居るみたいだけど」

「うん。あ、ホントだな。一応警戒しとこっか」

 それから10分ほどで停車場に到着。ここは野営で使う目的ではないタイプの休憩所で、それほど大きなものではない。


 先客の馬車は一台。離れた場所に停めるようにエリーゼに言ってから、ミレディさんとニーナには警告を告げる。ガスランにはエリーゼが説明中。というかガスランも勘づいてるか。

「先客は男8人。あまり柄の良くない連中です。なるべく馬車から離れないでください。出来たら降りない方がいいんですが…、そういう訳にも行かないでしょうからクリーンボックスを馬車のすぐ横に出しますね」


 馬に水をやりながらガスランとエリーゼは警戒。俺が少し奴らの方に向かって前へ出ると、やはり来た。男たちの二人が近づいてくる。

「若いくせにいい装備だなお前ら」

「そうか」

「俺達にちょっと貸してくれねえか」

「貸さないよ。ていうか返す気ないだろお前ら」

「んだとこらぁ!」


 殴りかかってきた男のその手を掴まえてひねり上げる。

「ア痛っ!」

 もう一人も飛びかかってきたので、すかさずカウンターで顔面キック。

 そいつは声も出さずに地面に崩れ落ちた。

「まだやる?」

「はなせっ、この野郎ぉー!」

 

 馬車の所に残っていた六人も近付いてくる。既に全員が抜刀状態。

「そいつを離せ」

 意外に冷静な喋りに、おや? と思うが、エリーゼが既に色を見ているようだ。

 手をひねって掴まえていた奴をそいつの方に蹴り飛ばしてから。


 電撃(スタン) ビビッ!


 その冷静な喋りだった奴を除いて残りの六人は電撃を浴びて昏倒、静かになる。

「さて、何が目的だったか話してもらおうか」

 残した一人はすぐに無言で剣を突き出して来るが、俺は剣を抜くこともなく躱して足を引っかけて転がした。

 またすぐに起き上がった奴のその右手を、俺は今度は抜いた自分の剣の腹で叩いて奴の剣を弾き飛ばした。

 そうして首元に剣先を突き付けるとやっと大人しくなったが、俺を睨む睨む。


 ガスランとエリーゼがロープを持ってきて八人を縛り始める。当然武装は解除。

「目的を聞き出してくれ」

「了解」

 ガスランに短くそう言って、俺は一旦馬車に戻る。


 ニーナはミレディさんの傍に居るように。そして俺とエリーゼは奴らの馬車の中を調べる。

「エリーゼ、奴らどんなだった? 俺は悪意・害意としか分らなかった」

「明確な殺害ね。私を見てからは楽しみたいのも交じって来てたけど」

「ふむ…金や物を奪うのは二の次なのか…。野盗にしては全員身なりが良い気がするんだよな。剣もまあまあの物ばかりだし」


 あ、と言ってエリーゼが馬車の中で見つけたのはマジックバッグ。

 解析してみると、そんなにいい物じゃない。容量は最低レベルでしかなく時間遅延もなし。けれど生体魔力波認証は付いている。

 それを俺が教えると

「もしかして、これ死体運搬用かな」

 エリーゼがそんなことを言うが、おそらくそれも間違いじゃない。

「まあ、それも含めて奪ったものを入れる為だろうな」


 すぐにバッグの中を見てみたい気もするが、一旦皆の所へ戻ることにする。奴らの馬車から馬だけをエリーゼに引いて行かせて、残った馬車は丸ごと俺の収納へ。見つけたマジックバッグは別にしている。


「喋った?」

「いや、すぐに味方が探しに来る開放しろしか言わない」

「だろうな。俺こいつ尋問してみる」


 ガスランとそんな会話をして、俺は電撃で気を失わせた一人。最後に近付いてきた奴を馬車の裏に引き摺って行く。エリーゼとガスランも心得たもので、先に尋問していた奴を馬車の方が見えないようにしてしまう。


 俺は、連れて行った奴にキュアを掛ける。すぐに効果が出て気が付く。

 ひと通り尋問してみるが、返ってくる答えはあまり大差なし。

 仕方ないので、そいつのたるんだ腹の肉を摘まんでグイグイと捻じると絶叫。

「ギャーー、いてえ、いてぇーーやめろ。あ゛あ゛あ゛ーーー」

 俺の身体能力で本気で捻じったら多分肉は千切れると思うから、手加減はしているがかなり痛いのは間違いないと思う。

「素直に喋る?」

「誰、が、喋、る、か、この、や、ろぉぉ」

 息も絶え絶えな奴の腹の別の場所を、つねる。またもや絶叫。今度は少し長い間。

 そして、つねるのを止めると同時にスタン。で、もう一度寝て貰う。


 少しだけそのまま時間をおいてから、ガスランたちの方に戻って俺は言う。

「あっちのエンリケが喋ってくれてるから、そいつら七人はもういいわ。街まで連れて行くのも面倒だし」

「了解」


 俺には、賊達全員の名前が鑑定で見えている。


 ガスランが気を失って縛られている者を一人ずつ停車場の裏の草むらの方へ引き摺って行く素振り、エリーゼが剣を首に当てながら尋問してた奴を同じ方向に押して行く。

「待ってくれ、待って。お願い、待ってください」

 さっきまでの冷静な表情は一変。エリーゼの言った通りだった。内心はかなりビビっているけど、頑張って冷静な演技をしているとのこと。

「ん? 待たないよ。もう聞きたい事は聞けるし」

「いや、エンリケより俺の方がいろいろ知ってます。俺がこの隊のリーダーでボスからの指示を聞いたのも俺だけです」

「んー、まあじゃあ、一応聞いてみるか。早く済ませて俺達出発したいんだよ」



 ……まあ、喋ること喋ること。俺には解る。ガスランが怖いんだよね。


 どうやら野盗の一団は、俺達を明確に狙っていたらしい。どこから情報が流れているのか疑問だが、その辺は後で考える事にする。

 野盗のボスが、とある人物から俺達の殺害を依頼されたらしい。その依頼してきたのが誰なのかはこいつらのような末端の人間は知らされていない。そしてこいつらのアジトはレッテガルニにある。

 野盗でも山賊でもなかったんだね。妙に小奇麗な感じだと思ったんだよ。ずっと山とかで隠れ住んでる雰囲気じゃ無かったし。要するに街の非合法組織って奴。

「ディアス」

 組織の名前は何か聞いたら、そう答えた。


 取り敢えず、そのアジトの場所の地図も書かせた。

 だけど、腑に落ちない。


 俺達の情報を持っているなら、どうしてこんな風に正面から襲って来ようとしたのか。それとも情報が不正確だったのか。

 聞いてみると、若い冒険者ばかりでどう見てもいいとこDランク程度の弱そうな奴らだと聞かされていたらしい。しかも女ばかりだと。

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