第45話

 朝訓練をして、朝食。いつもの日常。とは言え、今日まではお休み。


 エリーゼの剣術が、かなり良くなってきた。普通に強い。弓もレベルが上がったと言っていて、確かに一撃の強さ正確さ速さ、どれもワンランクアップした感じ。

 継続した訓練はやっぱり大切なんだな。ホントにしみじみ思う。だからこそ、俺もサボっていられない。


 オーク対策チームへの参加と貢献、その報酬額は、ちょっとどうかと思うぐらい高額だった。報酬明細は当然あるので見たら、キングなど上位種討伐での貢献がやっぱり大きいんだね。


 そして更に、大量のオークからの素材や魔石、食材。そして奴らの装備。これらは、大量であることと、それ故の市場価格への影響などから、ギルドの買取査定が終わるのは少し時間が掛かるらしいが、その結果の分配は、間違いなく俺とウィルさんを筆頭に、先行した2パーティーが多くなるみたい。しかしキャンプに残っていた人達が、先行した俺達を支えてくれていたことは紛れもない事実なので、それを考慮したうえでの分配をお願いした。

 

 そういう訳で、成金である。凄くお金持ちになった気分だけど、あくまでも泡銭だと思うことにする。



 オークの横穴については、調査チーム先遣隊がベースキャンプ設営と経路整備を行いつつ、残党狩りをしている。基本的には対策チームに参加していたメンバー+α。

そして、横穴からの魔物の出現は、あれ以来確認されていない。


 当然ながら俺達も調査チームに参加することが自動的に決まっているが、先遣隊からは除外されている。


「早く参加したいのは解るけど、まだ調査のための準備段階だから、待ってて」


 フレイヤさんが一番苦労したのは、セイシェリスさんの説得だったみたい。




 さて、指輪である。女神の指輪の二つ目。鑑定した結果はこれ。


 母の愛の証

 神性絶対防御

 継続の種子


 そしてこの指輪は、外せる。なんとなく、外せるような気がして試したら、あっさりと。じゃあ、元々のもそうかと思ったら、それは、やはり外せない。


 デザインは二つとも同じで、石や台座は無いシンプルな物。まあね、戦闘時には変な出っ張りなんか邪魔だから、そうじゃないと困る。ただ、装飾というか細かな紋様は刻まれている。地味な色合いだが、よく見るとほんのり濃紺のような色合いのが一つ目。ほんのり深紅っぽい方が二つ目。ぱっと見は、どちらも、いぶし銀という感じなんだけどね。


 これって。決まりでしょ。母の愛というのは一つ目のと違うけど、内容が結構ダブってるし。

 エリーゼ用だね。あの女神、ひとこと言ってから渡してくれよ。



 夕食を食べてから、


「エリーゼ、これ着けててほしいんだけど」

 そう言って指輪を見せる。


「あれ、それってシュンの… あ、着けてるね。二つ持ってたの?

 っと、少し色が違うのね」


「うん、細かいことは省くけど、俺が着けてる指輪ってのは、いろいろと人には言えない魔法付与、神の祝福みたいな、まあ、効果ははっきりしてないから、縁起物みたいなものなんだけどさ」


 指輪がググッと微かに震えた。もちろん俺が着けてる方。


「うん、最初は気になってたんだけど、なんか自然というか、それがシュンって感じで当たり前になってるよ、その指輪」


「俺も気が付いたら着けてたって感じだから、まあ感覚的にはそんな感じ。

 それでね、こっちのもう一つの方をエリーゼに着けていて欲しい」


「えっと… それを、私に?」

「うん、エリーゼにずっと着けててほしい」


「え…」

「…」


 あ、今更ながら恥ずかしくなってきた。こっちに結婚指輪とかそんな習慣あるんだっけ。しまった調べてから話すべきだった…。


「えっと…、その、説明を続けていいかな?」

「うん…」


「この指輪に刻まれた意味は『母の愛の証』。きっと、これを着けていたら、エリーゼのお母さんの思いが、エリーゼ自身に伝わって暖かな気持ちにしてくれるんじゃないかと、俺はそう思ってる」

「そんなもの貰っていいの?」


「うん、着けててください、お願いします。パーティーの絆みたいなものにもなるし」

 と言って、俺は指輪をエリーゼに差し出した。


 エリーゼは、指輪を受け取って少しの間見つめていた。

「母の愛の証…シュンが、私にくれるのね」


 エリーゼが指輪をつけた時、俺には、エリーゼを優しく微笑んで見つめているエルフの女性の姿が見えた。神々しいほどの慈愛に満ちた美しい女性。


「ねえ、エリーゼ…。エリーゼのお母さん、優しそうな人なんだね」

「うん、大好きなお母さんよ」


 エリーゼは嬉しそうに、左手の薬指にはめた指輪をいつまでも見続けていた。

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