第40話
崖上を辿った時に見た下の様子で、比較的オーク達が少ない方角から横穴を目視できる距離に近づくのは、ほぼ直線的に進んで良さそうだが、最悪1時間程度はかかると予想。
出発する直前、
「シュン、そこの白っぽい木にスタン撃ってみてくれる。音を抑える感じで」
と、指差しながらセイシェリスさん。
「了解。行きます」 (スタン) ビッ
「うん、いい感じね…。音はそんなに響かない。森のおかげかな。うん、今朝言った通りに、もしオークに遭遇したら、まずスタン。よろしくね」
「やっぱいいな。シュンの新必殺技は」
ウィルさんが、俺が撃った木に触りながらこっちを振り向いて言った。
あ、いや。雷撃の方もあるんすけどね。
セイシェリスさんが、皆を見渡しながら言う。
「皆も、解ってると思うけど、極力オーク全体に伝わるような攻撃は、なるべく無しでね。そうなったら、シャーリー先導の全速撤退で。殿はウィルとシュン」
(スタン) どさっと倒れた2体のオークに、セイシェリスさんが止めを刺す。血をなるべく流さない為に魔法。そしてすぐに二つの死体を収納。
横穴の近くから離れてきていた2匹を倒した。俺達が近づいたのは、木の伐採作業の主流とは、横穴を中心とした半円の90度以上違う方角からだが、少し集団もばらけて、辺りをうろついてる感じが今回はある。そういう2匹だったようだ。
そうしていると、もうすぐ、横穴が目視できそうな所まで来る。探査で見えるオークの集団の位置が、そう教えてくれている。そして、前回見えなかった、他のオークよりも強い反応の個体が一つ。ここに来て、やっと姿を現してきている。
そして…
見えてきた横穴の中、入ってすぐの所に、ひときわ身の丈の高いオークが居る。上位種であることは間違いない。
(セイシェ、あいつをやろう。今やっとくべきだ)
ウィルさんが、囁いた。
セイシェリスさんは、少し逡巡している様子。しかし。
(シュンの雷撃、全力全開。直後に状況確認、後退撃破か撤退か別途指示。いい?)
皆が頷く。
(やっちゃえ、シュン)
セイシェリスさんの少し茶目っ気がある言葉の調子に、俺は緊張がほぐれる。
(ライトニング、フルバースト) ズガガガッ
入口から半身程出てきて居た、オーク・ジェネラルを初撃で引き裂くことを優先し、その周囲にいる全てのオークに照準したライトニングが炸裂。
途端に、全てのオークが動き出す。周りを見回し、右往左往している。慌てて横穴に向かい始めるのも。しかしこちらに目が向いてきているのが数体。
「シュン何匹やった?」
「ジェネラル含めて、6匹」
セイシェリスさんが、指示する。
「シャーリーは後方確認。一旦横並び、全員魔法と矢で。接敵したらウィルとシュン。合図で後退撃破に移行」
雷とウィンドカッター、そして矢。こちらに向いた奴を雷撃。ウィルさんも弓。
木々の合間にもオークは見えるが、単発になって効率が悪い。
救いは音と光で、奴らを混乱させていることか。
風を切る音、雷音、そして雷撃の振動。
「シュン、俺の右に来い。前に出て二人でお出迎えだ」
と、ウィルさん。
皆が倒した分も合わせて約30匹は倒したことが確認できていた。
残り20? いや40ぐらい、増えてるのか…。
この時点で、俺達は完全に捕捉された。
伐採していた奴らも、一旦は横穴に向かっていたがこちらに気付く。
木の陰に見える、横からの奴らを優先して雷撃。どうしても単発になる。
そして別角度からエリーゼの矢とセイシェリスさんの雷で更に1匹。
その時、嫌な予感がして横穴の方を見た。ほぼ条件反射的に、そこへライトニング最大火力。…ズガッーン、横穴の中に音が反響している。
しかし探査に、次々と現れる倒した数よりも多い反応。
まだ、今、雷で引き裂かれた奴らを見ているが、どんどんそういう個体が増える。
多すぎるだろ。嫌な予感しかしない。
「上位種、2匹目、3匹目撃破! 穴から新手、約30、40、まだ増えてる!
エリーゼ、逃げろ!!」
木々の間からこちらに顔を向けた奴、横穴から離れている奴、それを優先して雷撃を放ちながら、皆に聞こえるようにそう叫んだ。
奴らに散開させてはいけない。
エリーゼに絶対に近寄らせない。
俺は、自分の姿をさらけ出して、ゆっくり歩き始める。
近づいた一匹を二つに切り飛ばして、オーク全員に向けて威圧する。
少し離れた一匹が、怯んでいる。難なく首を切り飛ばす。
両手に剣、オークが作った広場の中央へ進む。
横穴の前に増え続けている、オークの大群に立ち向かう。
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