第31話

 昼に停車したのと同じような停車場で、野営の準備をする。他に野営する旅の一行は無し。これは安心材料だと俺は思う。魔物より危なく警戒すべきは、やはり人間だと思うからだ。


 休憩所の半家屋の壁を背に2台の馬車と馬。その前の焚火を中心にした警戒を交代で冒険者が行い、残りの冒険者は護衛馬車で休む。と、そういう流れになる。


 休憩所に竈があったので火を起こしてエリーゼが肉を焼き、セイシェリスさんはシチューを温め始める。皆で話してとにかく多めに料理しようということになって、全員でいろんなものを腹いっぱい食べようという魂胆だ。俺も肉の串焼き、ボイルしたソーセージ、紅茶、果物などを収納から大量に出す。そしてエリーゼの手伝い。


 ルナマリアさんがやって来て「いい匂い~」とニコニコしている。


 俺、この人が喋るの初めて見たかも。


 エルンストさん達も嬉しそうだ。チーズやパン、エールを水で割ったものなどいろいろ馬車から取り出してくれる。


「皆で食べると楽しいね」

 俺がそうエリーゼに話してると、シャーリーさんが

「シュン、当たり前の話はいいから串焼きもっと出せ。エリーゼは肉を追加だ」

「どんだけ肉好きなんですか」

 と、皆で大笑い。


 ルナマリアさんが、ぽつりと。

「こんな護衛の人たち初めて」


「安心して、私も、こんな護衛の仕事初めてよ」


 セイシェリスさんがそう言って、二人一緒に笑っていた。


 ウィルさんは、黙々とただひたすらに食べていた。あ、肉が足りなくなったのはこの人のせいです。



 特に問題はなく夜が明けて、最後の見張り番だった俺はこんな時はコーヒー…。などと思ってしまいながら温かいお茶の準備を始める。

 そろそろ皆起き始めるだろう。


「シュン、寒くなかった?」


 昼は直射のせいもあり結構暑さを感じていたが、日が暮れてからは肌寒さを感じるほどだった。解っていたことなので、毛布や服の上に羽織るローブも準備していた。


「あ、うん。大丈夫。ローブ羽織って焚火の傍にいたから。馬車の中の方が逆に俺は寒く感じたよ」

 俺はそう答えて熱いお茶をカップに入れてあげる。


「ありがとう。うん、毛布持ってきて大正解だったね」

 エリーゼはそう言ってカップを受け取り微笑んだ。



 その後、前日同様に行程は進み、特に問題なく夕方には目的地であるヴィシャルテンに着いた。宿の人に、馬車と馬の世話などの指示をするウィルさんの話が終わるのを待って皆で一緒にチェックインする。


 エルンストさん達も同じ宿だが、ロビーで別れる。

 帰りの出発が明々後日の朝なので、明後日の夜にその確認と打ち合わせをすることになった。


 部屋割は、男女で1部屋ずつ。男部屋は二人部屋だが、女部屋は4人部屋を3人で使用する。


 セイシェリスさんが、

「取り敢えず一旦ゆっくりしようか。ちょっと横になりたい人も居るかもしれないし」


「ああ、そうしよう。あと1時間後か。ま、その頃に集まろう」

 ウィルさんのその言葉で解散。


 この宿には風呂があるので、ウィルさんとすぐ、男二人で風呂。

 ゆっくり浸かって、命の洗濯~とか言ってたら

「おいシュン、飯食べよう。行くぞ」


 ウィルさんってよく食べるんだよね。


 また腹いっぱい食べて、ベッドで寝られるのを幸せに感じながら眠った。



 ヴィシャルテンは、スウェーガルニより小さな街ではあるが、昔の治世者の意向で図書館の蔵書量が多いことで有名だ。その話を聞いた俺は、ここヴィシャルテンでの滞在の間、その図書館に行くことを一番の目的にしようと考えていた。


 エリーゼと一緒に朝からまる一日、図書館で本に埋もれて過ごした。俺は、いろんな伝承に始まり、魔法関連の書物を探しては片っ端から読んだ。エリーゼも魔法関連が中心。


 夕方前になって、さすがに二人とも疲れ切って宿に戻ると、エルンストさんとマギーさんにばったり会う。

 エルンストさんが

「シュン君たちも、あとで一緒に食事どうだ?」

 と言ってくれたので、風呂など済ませた後に同席することに。


 俺が風呂から上がったら、ウィルさん達が戻って来たので、エルンストさんからの話をして、皆で食堂へ。


「どこか面白いとこありましたか?」

 俺の方を見ているマギーさんから尋ねられ、一日図書館に居た話をする。

「さすがに疲れました。でもここの図書館は、噂通りに本が多いですね」


「どんな本を?」

「魔法関連が大半ですが、各地の伝承みたいなものも、結構探してみました」


 エルンストさんが言う。

「シュン君は、魔法が得意ではないと聞いたと思うが、だからなのかな」

「おっしゃる通りです。不得意だからと、諦めるわけにはいきませんから」

 俺がそう答えると、エルンストさんは大きく頷いた。


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