第23話

 雑貨なども扱っている服飾店にも在ったなとそんな店に立ち寄った俺は、腰にベルトで着けるタイプのポーチを一つ買って帰る。一応は冒険にも使用できそうな品物。



 どうしてマジックバッグはバッグの形なのか。理由は、あまり無いらしい。


 物を出し入れするという概念的なもの。

 そして、まあ高価なものではあるし、時間停止の物になると途端に宝物級だとか。そんな話もあるぐらいなので、目立たない形どこにでもある物のように見えるというのが、前提として大事になったからなのだろう。



 宿の自分の部屋で、そのポーチを手にして考える。


 えっと、まずは時空魔法で疑似異次元空間、亜空間…。


 それは大きさを指定した方が…。ポーチの口から……座標と接続…、サブ空間…側の方…時空魔法のトレースと移動で…、立体的……可変にするから…トリガー…。UIモードは…、……。…鑑定と同じ…個体トレース………


 フル稼働の並列思考で膨大な処理をこなし、プログラムコードを幾つも同時に書いていくようなイメージで構築していく。



 途中エリーゼからドア越しに「ご飯どうするの~」と聞かれたが、「先に食べてて」と答えて作業に戻る。


 夕食の時間帯が終わる頃に、食堂に降りる。エリーゼは、宿の明日の仕込みなのかイリヤさんの手伝いをしながらおしゃべりタイムみたい。マスターは飲み客の相手。最近、このパターンよくあるんだよね。見てて微笑ましい。

 エリーゼはイリヤさんの手伝いついでに料理を教えてもらっている。野営の時でも工夫して少しでも美味しいもの食べたいからね、と。


 食事をしっかり一人前、腹に入れてそれでもまだ甘いものが食べたいので果物。イリヤさんがサービスしてくれる。


「シュン、何してたの? なーんか怪しいぞ」

 と、エリーゼ。


「うん、魔道具? って言っていいのかな、作ってた」


「魔道具?」


 出来上がったら見せるからと約束して、俺はまた自室に籠った。


 夜、エリーゼが眠る前に顔を出してきた。「できた?」と。


 夏になったせいでエリーゼが寝るときの格好は薄着になっていて、これが結構悩ましい。頭をもたげてきそうな邪念を切り捨てつつ、答える。


「もう少しかな。試行錯誤してるとこがあるから。あ、エリーゼごめん」


「いいよ。明日お休みで、てことでしょ。朝訓練は一人でやっとくから」


「悪いな。真っ先にエリーゼに見せるからさ、多分朝までには出来ると思う」



 何度も確認テストを続け、夜が明ける前に完成と言っていい状態だと判断した。

 寝る時間も無いので、このまま起きて居よう。

 完徹、久しぶりでした。


 そして、ずっと頭ばかり使い続けたせいで妙に身体を動かしたくなっていて、エリーゼと一緒に朝訓練をこなす。


 訓練と朝食を済ませて、俺の部屋にエリーゼを招き入れ「大声出すなよ」と言ってから、出来上がったマジックバッグを見せた。なんとなくだけど、元が可愛い感じなのでマジックポーチと呼ぼうかな。


 試しに出し入れする為に夜中にごそごそと庭から集めてきていた、石ころや木の切れ端、そして消えてしまったとしても惜しくない小さな魔石、銅貨、非常食のパック、水が入った水筒、水が入ったコップ、などなど。

 一通りやって見せて更にもっと大きい物という意味で、椅子、デスク、野営グッズなども。ベッドも出し入れできるのは確認済みだが、今はやめておく。


 エリーゼがフリーズ。俺には、すぐには解凍できない。


「…ちょっと、ちょっと…え? まさか、作ったって、え? ええぇぇぇぇ~~!」


「こら、大声出すなっていったろ!」


 持ってきていた水差しからコップに注いで、エリーゼに水を飲ませる。


「ちょっと使ってみて欲しいんだよね。ユーザー検証って感じ。最初は貴重品じゃない物、無くしてもいい物とかで。あ、俺の物を出し入れするとかでいいからさ。使った感じを教えて欲しい。例えば…、あ、いや。取り敢えず一度使ってもらってから説明しようか」


 再起動したエリーゼが目を血走らせんばかりに目を見開いてポーチを睨む。そして、徐に俺が出し入れした物を入れ始める。入れる手を止めて、また出したり。何度も何度も続ける。


「シュンこれって、どのくらいの大きさの物が入るの?」

 エリーゼの声が掠れている。


 水をまた注いで渡しながら

「多分だけど、この宿の大きさぐらいのはず。その辺は検証する必要あるよね」

 と言った。



 昨日フレイヤさん立会いの下に試しに使ってみたギルドが所有するマジックバッグの操作感と遜色なく仕上がっている自信はある。むしろ俺が作った物の方が親切設計だし、何より出し入れにかかる時間はほぼゼロタイム。超高速仕様になっている。


 そんな感じで自信があるとは言え、まだ改善すべき点はあるかもしれない。

 それと言うのも、使う状況などを幅広く想定していくと、出し入れのしやすさ、特に物を出す時のその容易さやその感覚への馴染みやすさ。そういった使用感が一番大事だと思っているので、その事についてエリーゼの意見を参考に更に微調整したりしていく。


 二人で俺の部屋で一息ついて、買ってきた昼食を食べる。でも、もうずっとエリーゼは興奮が醒めない。これで商売するつもりはないとすぐ言っておいたのは、エリーゼ的にはポイント高かったみたいで、ニコニコして、狩りの時にとか野営でもダンジョンに行った時にも、買い物の時…。などと夢が広がっている様子。


 その日は、更に微調整や主に操作感についての意見を交わしたりして終わった。翌日からはまた二人で仕事をするが、エリーゼには検証を兼ねてポーチを使い続けてもらいたいと言ったら、エリーゼは驚く。

「え? どうして私?」


「だって、最初からそのつもりだよ。エリーゼの為に作ったんだから。て言うか、1週間ぐらい様子を見たい。それで大きな問題が無ければ、次に作るつもりの物に着手しようと思うんだ」


 基本、前衛の俺は身に着けた物の破損を意識しとかないといけないので、自分が使う物は丈夫な素材で作った方がいいだろうと思ってる。


 エリーゼにそういう話をすると、

「了解。そうだよね。ポーチごと切られたりしたら大変だしね」


「まあ、そこはいろいろ想定しないとね。それに、もう一つ大きな問題が有ってさ…」


「ん? まだ何かあるの?」


「そのポーチ、俺にはちょっと可愛すぎる」

と言ったら、エリーゼも「確かに、これ女の子向けだよね」大笑いした。

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