第3章 Dランク
第22話
「ねえ、シュン君。真面目な話、そろそろ真剣にパーティー名考えない?」
フレイヤさんがそう言った。
「あ、すみません。なんか、まだ特には必要感じないので…」
「エリーゼはシュン君に任せてるって言うけど、実は楽しみにしてるのよ? 最初の時のこと覚えてないとは言わせないわよ。それに、指名依頼しづらいじゃない」
フレイヤさんが結構、おかんむりだ。
ギルドとしてもパーティーには呼び名をつけるよう奨励していて、それは同じ名前の冒険者が居た際に〇〇のAさん、△△のAさん、という風に呼び分ける為だったり、パーティーそのものを評価対象とする際やパーティーへ指名依頼する際に、呼び名が無いと扱いづらいからだったりする。
パーティーを組んで2か月。
俺がこの世界に転移してきてから、2か月ちょっとが過ぎた。
今の季節は夏真っ盛り。地球の北半球で言うところの7月。スウェーガルニは、割と年中温暖な気候らしい。夏は暑すぎず冬は寒すぎない。そういう事も人が集まる要因になっているんだろう。冬は少しの間だけ雪が積もる時期もあるらしいが、冒険者が全員休業状態に陥るほどではない。
尚、少し前に、地道な討伐と採取だが低ランカーとしては圧倒的な討伐数と採取量が評価されて、俺とエリーゼは揃ってDランクに昇格しているのでパーティーとしてもDランクパーティーということになる。
経済状況は、かなりいいと言って良いだろう。
基本的に訓練バカになっているから二人とも無駄遣いしないし、地味だけど効率よく狩りをしているので利益率が高く懐に余裕ができている。
───パーティー名か…、やっぱり必要なのかな。
巷では、シュンとエリーゼのパーティーとか、シュン君のパーティー、銀髪パーティーなんて言われてる。
以前フレイヤさんには冗談半分に、フレイヤ・ファミリアでいいんじゃないですかね。俺達二人ともフレイヤさんの生徒だし、なんて言ったことがある。どっかのダンジョン中心に活動してそうなチーム名だけど。
フレイヤさんは、
「そんな名前にしたら、私が二人を契約魔法か何かで縛ってるように聞こえて嫌だから、却下」
と言って露骨に嫌がった。
うん。楽しみにしているエリーゼの為にも、ちゃんと真面目に考えて決めないといけないんだろうな。もっと実力がついてからでいいと思ってたから、中級と言われるCランクに上がってからでいいんじゃないかとか、そんな感じで話したこともあるんだけどね。
最近は、休日はエリーゼと別行動することが増えてきた。それでも食事は一緒に取ることが大半なのだが、エリーゼも、俺やフレイヤさん、ベルディッシュさん、イリヤさん、マスターだけではなく人付き合いが少し増えてきていた。
という訳で、休みの日の午後。エリーゼは買い物に出かけてしまったし、俺は、「双頭龍の宿」の食堂のテーブルで一人、悩み続けているのだった。
夕方、フレイヤさんに頼んでいたことがようやく実現できることになっていたので、俺はギルドへ。
今日はギルドが所有しているマジックバッグを使わせて貰う。どこかに持って出かける訳ではなくて、ギルドの副マスターであるフレイヤさんの目の前で、少しの間バッグを触らせてもらうということ。
ギルド所有の物は貸出可能なのだが、その為の保証金が高額でしかも連帯保証人が必要など敷居が高い。なので、ギルドの建物内でギルド職員のフレイヤさんの目の前で、という条件で格安でお試しさせてもらうようにお願いしていたのが、貸出から返却されたこのタイミングになったという次第。
購入のための参考にしたいからと言うと、納得してもらえた。
その不思議な仕組み、使い勝手を実感してみたいというのが表向きな理由。実際は、魔法解析してみたいだけだったりする。
俺は、魔法解析スキルを取得してから魔法が使えるようになった。それは呆気ないほど簡単に。自分の目で見たり直接認識したものをスキルで魔法解析して、それが完了した魔法は、問題なく発動できる。但し、俺が取得している光魔法の範疇に収まるものならば、という条件付きで。
時空魔法については、女神の指輪の解析は予想通り全く出来ず、それ以外は目にすることもないので試せていないが、おそらく低レベルなものならば可能だろうと思っている。低レベルの時空魔法にどういうものがあるのかは知らないけど。
そして1ヶ月以上前に、宿のクローゼットにある、便利で重宝している大型収納に使われている魔力波の個人認証の仕組みを調べようと取り組んだことがあるのだが、最初は苦労の割に成果が上がらなかったものの…
(光と時空だけってのがネックなんだよな、何度見ても認証部分はダメだ… 属性増やさないと見れないのか… なんだろう、水? 火? な訳ないよなぁ。
スキルは結構たくさん持ってる方だと思うんだけど、器用貧乏? いやむしろ無い物ねだりだよな…
ん? 持ってる魔法以外のスキルの発動を意識して、それと魔法解析を組み合わせたらどうなるんだ?)
コツコツと毎日長い時間をかけて続けていた訓練の成果で、かなり上がりづらくなっていた鑑定のレベルが上がり、やっと少しだけ人や魔物などの生物も鑑定で見れるようになっていた。それと同時に、生物ではない「物」の鑑定で見える情報は以前よりも格段に増えていた。
そのレベルが上がった鑑定を、魔法の効果が発揮されている所に意識して向けなから解析してみると…
俺は思わず歓声を上げた。
「お、来た来た!!」
(これで良かったのか~! 魔法とは呼ばれない探査と鑑定の組み合わせは、いつか出来るんじゃないかと思ってたけど、こっちの可能性もあったのか)
但し、並列思考フル稼働で解析しても、なかなか終わらない感覚。
ここに至ってからは日々の脳内訓練時間を少し削り、この認証の解析にも時間を費やした。そのせいで並列思考のレベルが上がっていたのには、後日気が付いた。
フレイヤさんが案内してくれたギルドマスターの部屋で、マジックバッグを受け取る。使用方法のレクチャーを受けて、持っていたお金を出し入れしたり短剣を入れてまた出してみたり…。
そうそう。スウェーガルニ支部のギルドマスターの存在感が皆無なのをフレイヤさんに尋ねたことがあるんだけど、長期療養中なんだそうな。だから今のスウェーガルニ支部はフレイヤさんが実質的には管理しているということ。まあ、副マスターはもう一人いるらしいんだけどね。
それで、マジックバックの仕組みは、びっくりするぐらいに簡単に解析できた。こういうのって、コロンブスの卵? 的な。
いや、俺の時空魔法のレベルが高いお陰だな…
それはさて置き…
(ん? あー、これって… あれ? もしかして、俺にも作れるんじゃね? え? も一回解析してみよう! やばい!)
更には、このマジックバッグは時間停止が不完全な廉価版だと講習会の時にも聞いてはいたが、停止が不完全というよりも最初から遅延になるように作られているというのが、俺には理解できた。
マジックバッグを持って固まっていた俺を面白そうにフレイヤさんが見ていた。
「ありがとうございました。かなり理解できました。やっぱりいいですねマジックバッグって」
俺がフレイヤさんにバッグを戻しながらそう言うと、
ん? と俺の言い回しが気になったのか、少し不審げな表情をしたフレイヤさん。
「うん、そうね。冒険者もBランク以上になると持ってて当然な必須アイテムみたいに言われるものだけど。シュン君ならもう持っててもおかしくはない、むしろ持つべきだと私は思うわ。冒険のやり方が劇的に変わるわよ」
「実際、どのくらいの人が持ってるんでしょうか。ぱっと見判んないから、意外な人が持ってたりとか」
俺がそう尋ねると、フレイヤさんは少し考え込んで
「うちの支部で言うと、私が個人的にも持っててギルドにはこれがあるでしょ。そしてウィル達も去年買ったわね。結構居るわよ。流石に時間停止の物は見ないけどね」
なんだ、フレイヤさんも持ってたのか。もっと早く見せてもらえたかもしれないな。などと思いつつも。
「高い物ですからね。よく考えて決めます」
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