第32話 見えない星に願いを


 それ以降、僕らができることは、PVが伸びるのを祈ることと、ツイッターで宣伝のツイートをするくらいだった。

 そして。

 あのイラストがはまったのか、二十四日の午後にはラブコメの日間ランキングの三位まで上昇。アンチコメント分で溜まっていたポイントも生かして週間ランキングでも五位にランクインした。

 それだけでもPVは跳ねたのだけれど、

「見てっ、文哉!」


 「かけかけ」でお気に入りの小説が完結した……涙

 最終話神だった、どっちも凄かった! いや、イラストも文もすごくない?

 小並感


「あの人がまたツイートしてくれてる……!」

 僕の部屋、肩と肩とがぶつかるような距離感でパソコンの画面とにらめっこして宣伝作業をしていた僕らは、再びのそれに頬を緩める。

 そのツイートは、今までの二度のツイートを超える反応があり、PVは恐ろしいほどの伸びを見せた。やっぱり、有名な人が呟くって、それだけで効果があるんだなって身をもって実感した。

 そのおかげと言ってはなんだけど、最終話の個別PVは3千くらいまで一気に伸びた。コメント欄は久田野のイラストの感想と、最後のシーンに対する鳥肌が立ったといった、僕の文に対する肯定的な感想が半々といった感じになった。

 その盛り返しもあってか、当初ポイントのほとんどを占めていたアンチコメントはその割合を減らしていき、シンプルによかったという内容のコメントがついたポイントも数を増やしてきた。

 健常な形でランキングはさらに上昇していき、完結四日後の二十八日には週間総合ランキングで三位まで滑り込む結果になった。

 その時点で、PV数の合計は約9万。

 残り三日で1万PV。もう、無理だなんて思う数字じゃない。

 二十九日。9万4千。まだ勢いは残っている。

 三十日。9万7千。少しずつ、完結ブーストの効果が弱くなってきたか。でも、あと少し……。

 三十一日、十二時。9万8千。平日だし、夕方以降の伸びに全てを祈るだけ。

 二十時。9万9千。あと、あとちょっと……!


 二十三時半。残り、100PV。いてもたってもいられなくなった久田野は、晩ご飯を食べ終わったらすぐに僕の家に来て部屋で一緒に作品管理画面でPV数の増加を見守っている。

 一分ごとに更新ボタンを押しては、増えるPVに一喜一憂する。椅子に座る僕の肩から乗り出すようにして顔を画面に近づけるから、もう距離なんてものはほとんどない。

 残り十五分。あと、30PV。間に合うか……? 正直ギリギリだ……!

 残り十分。あと、15PV。もう、心臓の早鐘は減速しない。頼む、増えろ、増えろ、増えろ……!

 残り五分。あと、7PV。もう、跳ねるこの鼓動が、僕のものなのか、久田野のものなのかわからなくなってきた。だって、すぐ近くにいる幼馴染も、表情を硬くさせて、ずっと小声で「お願いお願い」って言い続けている。

 残り三分。あと、4PV。

 残り、二分。カウントは、99999を指している。つまり、あと1だ。

 そして、八月三十一日二十三時五十九分。僕は、ごくりと唾を呑み込んでから、更新ボタンを押す。切り替わった作品管理画面には。


 100000PV


 燦然ときらめいて見える、最初は不可能にしか思えなかった数字が、そこにはあった。

 一拍置いて。息を吸い込む音が揃う。そして、一秒後。

「「やっ、たああ!」」

 我を忘れて、僕と久田野は喜びを爆発させる。深夜ということも忘れて。ちなみに、今日は両親どちらも家にいる。

 このときばかりは、感情を抑えることができなかった。お互い弾けるような笑みを浮かべては、部屋中を飛び跳ねては動き回って、抱き合って。

 さながら、試合終了間際に勝ち越しゴールを挙げたサッカー選手ばりに、僕らは成し遂げた奇跡に浸っていた。

 まあ、すぐに母親から「うるさい」と怒られ、そして「もう少し静かにいちゃつけ」ととどめを刺されて僕らはようやく落ち着いた。


 その後、隣りあわせ、部屋の床に寝転がりながら、歓喜の余韻を味わっていた。

「ほんとに……できたね」

 興奮冷めやらぬ、といった声色で久田野は話す。

「部活……続けられるね」

 彼女はぎゅっと僕の右手を握りしめて、感極まったように続ける。

「これで……まだ……一緒にいられる……」

 どんな感情だって、極限に達すると涙に繋がる。それが、まさしく今だったのだろう。

 嬉し涙を、隣の彼女は目に浮かべた。

「まだ……一緒に……」

 見上げる先はただの白い天井のはず。だけど、僕にはそれが夏の夜空広がる星空に見えてしかたなかった。

 時折通過する流れ星に、輝く無数の星たち。

 高二の夏の終わり、また、今日から二学期が始まる。

 なんか。安心したら、眠くなってきた……。やっぱり疲れていたのかな……。今は、ちょっとだけ……休みたい、かなあ……。

「あ、あのね……私……前から言いたかったんだけど……」

 徐々に意識は見上げる星空に吸い込まれていく。彼女の声も、おぼろげになっていく。

「わ、私、文哉のこと──あれ……? ね、寝てる……? ……もう、文哉のバーカ」

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