第2章 更新開始!
第9話 奇跡の序章、悲劇の伏線。(ページ下部作者注あり)
ゴールデンウィークが明けた五月六日、木曜日。部室から見える桜の木は完全に葉桜となり、辺り一面に舞い降りていた薄桃の光景は、生い茂る緑へと容貌を変えていた。
そのうち、季節は梅雨を経て、この葉が擦れて揺れて、セミが鳴く声を鬱陶しく思う夏がやって来るのだろう。
生徒会が出した期限、二学期の始まりまで──つまり八月三十一日──は、四か月を切った。投稿サイトに露出する期間が短くなればなるほど、瞬間的に稼がないといけなくなるPⅤ数は多くなる。時間はあるようでないんだ。
そして、今日の部活では、久田野が黒板を使ってどうやって多くの読者を呼び込むか、ということについて熱弁していた。
「──つまり、さっき文哉に渡したプリントからもわかるように、週間ランキング上位百作品に入れば劇的にPVは伸びるってこと。これがトップテンにはいるようになるとその効果はおおよそ五倍以上。八月末までにあのアホ会長が提示した無謀な数字を突破するためには、このランキングに乗って動線を確保することが重要になるのはわかるよね?」
……アホ会長に無謀な数字、ね。まあ、後段は認めるけど、アホ会長は言い過ぎじゃ……。
あっちにも予算の配分とか部室の振り分けとか事情はあるらしいし……。
「う、うん……」
「だから、当面の私たちの目標は、まずラブコメ部門の週間ランキングトップ百入り。それをどうにか更新開始二週目……できれば初週には達成したいけどね」
「で、できるかな……」
ランキング入りとか、想像しただけで震えてくる。思わずそんな弱音を吐いてしまう。
「できるかなじゃないのっ、やるしかないのっ。わかる? 文哉。部活を続けるためにはこれしかないのっ」
すると間髪入れずに久田野が持っていたチョークを僕に向ける。
「わっ、わかったって……やる、やるから……」
「あ、あと。文哉の『かけかけ』のアカウントのIDとパスワード教えてよ」
「……え?」
「いや、私もPV数の変遷とかはちゃんと追いたいし、もしイラスト投稿して不具合とか起きたらいちいち文哉のパソコンから修正行かないといけないの面倒だし。そ、れ、に。私が文哉のアカウントでログインしないと、生徒会から不正なPV数水増しって言われるかもなのも嫌だし」
「……あ、ああ。僕のメールアドレスわかる? それがID。パスは──」
と、僕は自分のアカウントにパスワードを久田野に教える。(※作者注)
「……わかっているとは思うけど、勝手に何かやったりしないでよ?」
「当然よ。ただ、投稿分の原稿は必ず一度下書き状態にして。公開する前に私も読むから。できれば書き溜めは一週間くらい余裕を持ってもらえると、私がイラスト描き下ろしたいってなったときに潰しがきくし」
「わかった……。今日から原稿作業入るから、出来上がり次第都度下書きにするから……」
「うん。それじゃあ、頑張ろう? 文哉」
「……頑張ります」
最後の言葉、久田野は柔らかい笑みを僕に向けた。しかし、僕は迫る期限と難しい目標を目の前にして、か細くそう答えるに留まった。
少しだけ、窓の外の桜の木が風に揺れていた。
(※作者注……作品中に出てくる「かけかけ」は架空の小説投稿サイトです。今回投稿させていただいている「カクヨム」様とは一切の関係はありません。なお、「カクヨム」様では、利用規約第6条3項により、第三者とアカウントのメールアドレス・パスワードを共有する行為は禁止されています。また、その行為により同規約第4条3項の3に抵触し、会員の利用制限または、会員登録の取り消しが行われることがあります。決して真似しないでください)
(参考URL "利用規約",カクヨム, https://kakuyomu.jp/legal/tos 最終閲覧日2020年1月21日)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます