愛もエモさもない世界で何を叫んだらいい

よなしろ かなた

第1話 君

大学生になって半年、やっと学校生活にも慣れて講義をサボることを覚え始めた。周りの友達とリアペの代筆をしあったり、レポートに追われて徹夜したり、それなりに楽しんでいる。その中でもサークル活動が1番楽しい。大学入学時の説明会で、1年生に向けての発表で、バンドサークルを観に行った。ベースのカッコよさに一目惚れして入ることを決めた。正直なところ先輩たち怖いし、話すの得意じゃないし、てか楽譜とか読めないしって感じでなんで入ったんだろうって思ってた。今ではみんなに来月のライブどうしようかと話を振るまでになったが。

「ねね、やりたい曲ある??なんかやろ」

あかねがこっちを向かずに話しかけてくる。

「えー!私もやりたい!誘ってよー!」

このかが部室に入ってきてすぐに近寄ってくる。この2人はサークルに入ってすぐの頃、初めてバンドを組んだメンバーでなんだかんだで信頼してるし、また組みたいと丁度思っていたので2つ返事で了承した。

 あかねはギタボだ。綺麗な声の人が多い中カッコいい歌声で聴いてて気持ちがいい。よくコーラスでハモるが、なかなか声の相性がいいと思っている。このかは、女子という女子を集結させた感じだが、着々とドラムの腕を上げてきていて、最近はかっこいいと思うことの方が多い。私はといえば、ベースをやっているのだが、全然成長が感じられなくて日々焦っている状態だ。

「お疲れさまでーす」

各々がおつかれーと返していく。あ、今日は寝癖付いてるんだ。と、思っていたら目が合ってしまった。ふうたくんと、目が合った、え、どうしよう、笑えばいいのか?とりあえず笑っておいた。向こうもよく分からないけどって感じで少しだけ口角を上げてくれた。そう、好きかと聞かれたら分からないのが、どうにも彼にだけドギマギしてしまう。

 彼はベースを高校の時からやっているらしい。とてもうまい、ほんとに、ガチで。語彙力がないのは許してくれって感じだけど、本当に素晴らしいとしか言えない。実は一目惚れなのか、顔が好きなのか、分からないんだけど、まあ気にはなっている。どちらかというと推しに近い感覚ではある。

 私はサークル内でカメラを撮る仕事をしているのだが、彼のライブ中はどの角度から撮ってもカッコいい。それに、目の前で見れることを特権だと思ってしまう自分がいる。ここまでくれば好きだろそれはって感じかもしれないがそういうわけでも無いのだ。彼女がいるのだが、最近浴衣は何が良いかと聞かれて、灰色とかはどう?彼女の浴衣可愛いだろうな、なんて話をするぐらいなのだから。純粋に憧れなんだと思う。ベースを弾いている時の彼が好きだから。それに普通にカッコいいし、そもそも私は到底彼の横に並べるような人間ではないと自負している。そんな彼に恋をしてることに気づくのはもう少し先の話だった。

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