第16話
「えええ、どうしてそんな事したんですか?」
「あの煙がドライアイスだとすぐ気づいたの、啓太の仕業だって事も。だから忍び込んだ証拠を隠蔽しようと思ったのよ」
「隠蔽工作?」
「例のロシア人ハーフの男の事を調べ様と思って事務所へ行ったの。それで書類を見ていたら消防車が来たじゃない、すぐ入って来られたら困るからボヤを起こしたのよ。そのあと服を着替えるのに少し手間取ったわ」
「何に火を付けたんですか」
「あの部屋の窓際に枯れた観葉植物があったでしょ、すぐそばの棚に『スピリタス』があったからそれを注いで火を付けたわ」
「スピリタス?」
「アルコール度数が96度のポーランドのウォッカよ」
「ウォッカってそんなにアルコール度数が高いものがあるんですか!」
「殺菌用にも使えるわよ」
「でもよく考えたら放火ですよね?」
「疑われない様にやったわよ! ウォッカの瓶もころがして、電気コードも引きちぎって事故に見せかけたわ。消防車も来てるんだからすぐに消せるでしょ」
「大丈夫かなあ??」
「少し酔ってたから変な事しちゃったかしら」
「服だって盗難ですよね」
「何十着もあるんだから、1着くらい平気よ」
「ドンペリで少しはしゃぎ過ぎたんじゃないですか?」
「うるさい、これも仕事なのよ!」
「???」
「だいたいあんたが煙を出したから、こんなことになったのよ」
「だってロコさまがさらわれると思ったから……」
「私はさらわれたかったわ!」
「えええ、そんなあ。何されるかわかりませんよ」
「大丈夫よ……多分?」
あーあ、助け出そうと思ったのに余計な事をしちゃったのかなあ。
「啓太、ロシア人ハーフの男の事、何かわかった?」
「はい、マルコヴィッチっていう名前で顔写真も撮りました」
「あらそう、マルコって書いてあったのはマルコヴィッチの事なのね」
「なんか目黒のマンションに住んでいる様ですよ」
「私が見つけたのは車の貸し出し記録で、白いベ〇ツのカブリオレがマルコって言う人に貸し出されているのよ」
「じゃあ、ベ〇ツのカブリオレが駐車してある、目黒のマンションを探せばいいんじゃないですか?」
「そうね! あんた中々やるじゃない。明日は目黒へ行って調査しましょうね」
「ところで僕は川崎市に住んでるんですけど」
「あら、そうだったわね。じゃあ今日は宇都宮のホテルに泊まっていいわよ」
「ロコさまの所にお泊りしたいな」
「あんたバカじゃないの、そんなこと出来る訳ないでしょ!」
とほほ、やっぱりダメか。一目惚れしちゃったんだけどなあ……。
だけど今日1日色んな事があって疲れたなあ、ホテルの部屋でマムシドリンクでも飲むか。
◇ ◇ ◇
次の朝、僕はホテルのロビーで待っていた。だが、全身がだるい。やっぱり昨日の夜マムシドリンクを飲まなきゃ良かった。1日中眠れなかったんですよ。
8時半ごろ、ロコさまが僕を迎えに来た。今日はスリムのジーンズにブレザーを着ている。ホテルの宿泊費を清算すると、ホテルの前に停めた車に乗って事務所へ行く。机に向かうと、ロコさまはパソコンをチェックしていた。
「あら、昨日のホストクラブの火事が記事になっているわよ」
「なんて書いてあります?」
「歌舞伎町のホストクラブ『HUG』でボヤさわぎ、消防署と警察が出火原因を調査中。電気ショートによる発火と不審火の可能性の両面で調べている。ですって」
「ヤバくないですか?」
「昨日の事は忘れましょ」
!?ったく大丈夫かなあこの人 これで良く会社の社長が務まるな……。
「啓太、今なんか言った?」
「何も言ってませんよ」
「あっそう。そろそろ下の喫茶店が開くから、そこで打ち合わせをしましょう」
「ここでも打ち合わせ出来るんじゃないですかね?」
「喫茶店『ダルマチア』の2人にも手伝ってもらおうと思ってるの」
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