第15話
お、亀ばばあがいた。なんか店員に当たり散らしてるな、見つかったら大変なことになる。おや、キョロキョロし出したぞ、僕をさがしているのかも。早く人ごみに隠れなくちゃ。
ロコさまどこに行ったんだろう? 見つからないなあ。あらー、消防車が2台も来ちゃった! いたずらだとバレたら僕が疑われるな。ああ、どうしよう。
あれ、さっきいた事務所の窓が開いたと思ったら煙が出て来た! モクモクと上昇しているぞ、ドライアイスなら下にこぼれて来るはずなのに?
いったいどうしたんだ、本当の火事になったのか? 消防車が梯子を伸ばして消火作業を準備している。おいおい、放水が始まっちゃったー。
おや? ビルの入り口から大きな手提げカバンを持ち、パナマハットを被ったグレーのスーツ姿の人が出て来た。あのフルラのサングラスはロコさまが使っていた物と同じだぞ! もしかして……。
僕は大股で歩く、パナマハットを被った人のあとを付けて行った。
さっきの薬屋がある路地を曲がって、薬屋の中に入った。僕も行かなくちゃ。
ドアを開けると、また呼び出しボタンを連打してるぞ!
『いややややややーん』
「うるせーな、なんだよお兄さん」
「おじさん、さっきマムシドリンクを買った者よ」
パナマハットを取っちゃった。
「え、男かと思った!」
「ロコさま、どうしたんですその格好」
「あら、啓太。私だと良くわかったわね」
「はい、そのサングラスでわかりました」
「あんたら何をごちゃごちゃ言ってんだ、なんの用事だよ」
「おトイレ貸してください」
「はあー?」
「おじさん、ここで着替えさせてもらえないかしら」
「なんだトイレか、この奥にあるよ」
「ありがとう」
ロコさまはおやじが立っている所に割り込んでから、店の奥へ入って行った。
「おい、兄さん。どうしたんだいあのお姉さんの恰好」
「僕にもさっぱりわかりません」
「さっき、消防車のサイレンの音が鳴ってたな」
「ええ、ホストクラブ『HUG』でボヤ騒ぎがあった様ですよ」
「え、あんたらに教えた店か」
「そうです」
「……」
しばらくして、ロコさまが着替えて出て来た。
「このお洋服と帽子、おじさんにあげるわよ」
ロコさまは、おやじに洋服の入った手提げカバンを手渡すと、おやじの頭の毛糸の帽子を取ってパナマハットを被せた。
「お似合いよ、じゃあまたね。さあ行くわよ啓太」
「……?」
店を出ると、ロコさまは無言のまま大股歩きで新宿駅の方向へ歩き出す。僕は後ろを追い掛けるのがやっとだった。
「ロコさま」
「……」
声を掛けても全然話をしてくれなくて、新宿駅で2人分のキップを買うと、埼京線に乗った。何か怒ってるのかな? でも大宮で新幹線に乗り換えて席に座ったら、やっと声を掛けてくれた。
「啓太、なんで煙なんか出したのよ!」
「ロコさまを助けようと思って」
「何それ?」
「それが、大変だったんですよ。ちょっと働けって言われてスーツに着替えたら、亀ばばあとか言う変なおばさんの所へ連れて行かれて、放り込まれたんです」
「放り込まれた?」
「ソファーに座らされたら、そのソファーが回転したんです。そしたら暗い所で2人だけになって、食べられそうになりました」
「え、食べられたの?」
「なんとか逃げ出しました」
「それで?」
「事務室に隠れていたらロシア人ハーフの人が店に来て、オーナーも来て2人で話をしていたんです」
「どんな話?」
「ロコさまをさらってホテルへ連れて行けって」
「まあー」
「それでロコさまを救出するためにドライアイスで煙を出して、火災報知機を押したんです」
「なるほど、わかったわ」
「でも、外に出て見ていたら、事務所から本当の煙が出て来たんですよ」
「それ、私が火を付けたの」
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