第13話
あらまー、ロコさま、あんなにはしゃいじゃって。両手を頭の上にあげて手拍子なんかしてるけど、大丈夫かなあ。
おお、僕に気づいたようだ。こっちに向かって手を振っている。あーあ、知ーらない、ドンペリなんか頼んだら幾ら取られるかわかんないぞ。あれ、靴を脱いでソファーの上に乗っかっちゃった!
「おい、お前何立ち止まってんだ! 早くこっちへ来い」
「え、何するんですか」
色黒いお兄さんが僕が着ている上着の後ろえりをつかんだと思ったら、お店の端のほうの席に連れていかれたんだ。こ、これが亀ばばあ?
「亀姉さん、今日獲れたての若いのをお持ちしました」
「あーん、どれよ」
背もたれの高いソファーの真ん中に、アラフィフで少し太った女性がどしりと座って、その両わきにお兄さんたちがいる。髪はアップでしもぶくれの顔にほぼ逆三角形の眼鏡を掛けて、チンチラの様な目で僕をじろじろ見てるんだ。
「あーら、可愛い顔してるじゃない。こっちにいらっしゃい」
いやー、呼ばれちゃったよ、やだなあ。
「亀姉さん、何か追加しましょうか?」
「じゃあ、ゼクトワイン1本とフルーツ」
「ゼクトとフルーツ入りましたー」
「「ありがとござまーす!」」
「おい、早く亀姉さんの隣に座れ!」
なんか寒気がして来た。嫌な予感がするぞ、亀ばばあは舌を出して唇をぺろぺろなめている。ぶるっ! 隣に座っていたお兄さんたちがどくと、また色黒の兄さんが僕の腕を引っ張って、亀ばばあの左隣に座らされたんだ。
「あなた名前は、なんて言うの?」
「け、啓太です」
「お幾つ?」
「24ですけど」
「あらやだ、あなたスニーカーなんか履いてるの」
あらら、僕のニュー〇ランスのスニーカーを見られちゃった。
「今日来たばっかりで、働かされているんですよー」
「じゃあ、今度イタリア製の革ぞこの革靴でも買ってあげるわよ」
「ええ、それって高いんじゃないですか?」
「銀座で10万から15万円くらいかしら」
いきなり高級な靴買ってくれるんだ、高級時計も粘れば買ってくれるのかな。あれ? 僕は何をしに来たんだっけ。
「お金持ちなんですか?」
「呉服屋をやってるのよ、あなたも1着作ってみる?」
「はー」
女性のお相手をするだけでお金貰えるんなら、悪くない仕事なのか。
「あなた私の好みよ、気に入ったわ」
おおお、両手で僕の手を握って来た!
「あら、まだ女の子知らないでしょ」
「ひえー、なんでわかるんですか!」
「手を触ればわかるのよ♡」
やばい、僕の肩に頭を載せて来た。くんくん、椿油の匂いかな? そんなにすりすりされたら服も顔もベタベタになるぞ。
「亀姉さん、ゼクトとフルーツをお持ちしました」
「じゃあ、あれしてくれる?」
「畏まりました!」
え、何するんだ? テーブルを動かしてるぞ。亀ばばあは床から足を持ち上げている。なんか変だな……。
「おまえ、早く足を持ち上げろ!」
「は、はい」言われるままに足を持ち上げたけど。
「放り込みまーすっ」
掛け声とともに、お兄さん二人がソファーを回転し始めた! あらら、真っ暗になっちゃった。色黒のお兄さんがゼクトワインとグラスとフルーツを持って来て小さいテーブルの上に置くと、スタンドの電気を点けた。
「どうぞ、ごゆっくり」お兄さんはカーテンを閉めて出て行ってしまった!
「さあ、飲みましょう」
「は、はい」ワインボトルを取ってグラスに注いだよ。
「「カンパーイ」」
一応ホストの役目を果たさないといけないのかな。亀ばばあはワインを一口飲むと僕のグラスも取り上げてテーブルの上に置いたんだ。
「えへへ、あなた美味しそうね♡」
「え、」
やめてくれーーー!
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