第11話

 今度はホストクラブだってー、怪しい所が多すぎるなあ歌舞伎町は。待てよ、ホストクラブだと僕は入れないから外で待ってればいいのかな。ロコさまはお財布から2万2千円を取り出しておやじに渡している。


「おじさん、領収書をくださいね」

「えーっ、何だよ面倒くせーなあ。こんな領収書どこに出すんだよ」

「ちゃんと出す所があるのよ、早く書いて頂だい」


 おやじはぶつぶつ言いながら領収書を書いて、ロコさまに渡した。


「おいお姉さん、このゲルは買わないのかい」

「……それも買うわよ」

「領収書は?」

「いらないわ」


 また良くわかんないことしてる! なぜ買うの? 何に使うの?


 支払いを済ませると、僕はカウンターの上にあったマムシドリンクとゲルをカバンに詰め込んで店を出る。スパイカメラの録画も停止したよ。


「マムシドリンクはあんたにあげるけど、ゲルはよこしなさいね」

「はー?」鞄から取り出してロコさまに渡したけど。

「なんでこれ買ったんですか?」

「! もうー、変な想像しないで。調査報告書に書くためよ」

「それなら領収書……」

「いちいち細かい事を聞かないの、返事に困るようなことを女性に聞くのは失礼よあんた。女の子と話をしたこと無いんじゃないの?」

「……」

「ね、返事に困るのって嫌でしょ!」


 また怒られちゃったなあ。ロコさまはサングラスをしまうと、スマホを取り出して地図アプリを開いてた。


「このすぐ近くにあるわ、ホストクラブ『HUG』。ここ料金が高そうね」

「お店の中に入るんですか?」

「どうしようかしら、取りあえず店の前まで行きましょう」


 ロコさまは、また大股で繁華街を歩きだした。道の両脇から客引きっぽいお兄さんが寄ってくるんだけど、素早い身のこなしでいなしながら通り過ぎて行くんだ。


「啓太、このビルよ」

「ここですか、またネオンサインがけばけばしいなあ」


 ロコさまはビルの入り口にあるホストクラブ『HUG』の案内板を見ている。


「あらまあ、初回限定サービスは2時間で3千円よ」

「本当にそれだけで済むんですかね」

「多分ね、だってリピーターにならなかったら儲からないじゃない」

「なるほど、じゃあ行って来て下さい。僕はどこかで待ってますから」

「あんたも調査しに行くのよ!」

「え、なんで?」

「ここに『ホスト募集、常時受け付け』って書いてあるから、乗り込んでロシア人ハーフの子の情報収集して来て」

「えー、嫌です。捕まって帰れなくなったらどうするんですか?」

「そんなことも出来ないんじゃ、うちの会社で雇ってあげられないわよ。さあ行きなさい!」


 僕は背中を押されてエレベータに無理やり押し込まれたんだ。うーん4階がホストクラブ『HUG』だな、ぽち。そうだ、またスパイカメラで録画しなくちゃ。


 エレベーターのドアが開いた途端、もうそこは店の中だった!

 低音のドラム音が響く音楽とミラーボールの光に圧倒されていたら、色黒のお兄さんが駈け込んで来た。するとエレベータのドアが閉まらない様に足で止めて、低い声で話かけて来たんだ。


「そこの兄ちゃん、なんの用事?」

「えーと、ホスト募集って書いてあったから……」

「そこに突っ立ってないで、早く出て来いよ」

「はいっ」


 怖いなあー、と思いながらも色黒のお兄さんのあとを付いて行った。

 ドリンクカウンターのすぐ横にカーテンがかけられている。そこをくぐると、狭い通路にお酒の空瓶が山積みになって置いてある。その奥にあるドアを開け、机と長椅子が置いてある部屋に入った。


「オーナー、若い子が応募してきました」

「こっちに座らせろ」

「はっ」


 机の後ろに座っていたのは、オールバックの濃い金髪でサングラスをかけた男。色黒のお兄さんは僕の腕をつかんで、革の長椅子に座らされた。


「お兄さん、年はいくつだ」


 サングラスを取りながら話しかけて来た。おおお、鋭い目。でも色白で外国人みたいな目鼻立ちだ、格好いいなこの人。


「24ですけど」

「女に好かれそうな顔してるじゃないか。でも体つきがきゃしゃだな、お前何やってたんだ?」





「ワ、ワクチン作ってました」

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