第14話
その日以来、フィルの士官学校での振る舞いは人目を引くほどに変わった。算術も
「今となってはフィルはあの時決闘を避けていてよかった。何せ負けていれば死んでいるし、勝っていても良くて退学、悪ければ牢屋行き。士官学校の首席卒業間違いなしと言われるほどの者になることなど出来なかった」
「よくぞ
学校での評判を伝え聞いた両親は大いに喜んだが、フィルの関心は士官学校の先にある
「ご無沙汰しておりました」
昼に訪ねたガンドウの屋敷は、夜とはまた
「噂は聞いているよ。
「知りません。私にとったらどうでもいいことです。ガンドウさん、例の件、迷宮の覚醒が近いという話はどうなっていますか。遅くとも一年以内には、って話だったじゃないですか。もう一年経ちますよ」
「ああ、あれはね、収まったよ」
「収まった」
「そう。
と手をひらひらと振るガンドウにフィルがにじり寄る。
「す、済んだで済むもんか。あんたのあの言葉を支えにして下げたくもない頭を下げたし、どんなつらいことがあってもどうせ死ぬと決まった身だからと耐えることが出来たんだ。それを今更、済んだの一言で済まされたらこの私の武人の
「べら棒め、口のきき方には気を付けるが良いよ。お前さんあん時何と言った。決闘をこっちから引っ込めるなどできない相談だと言っておきながら結局、
ガンドウの怒っているような励ましているような
「いや、恐れ入りました。武人として恥ずかしい考え違いをしておりました。お許しください」
「今日はあっさりと謝ったね。判れば良いのよ」
「しかし最後にもう少し恨み言を言わせてほしいんですが」
「ほんに最後だって言うなら聞くよ。何だい」
「迷宮のこと、ヤバスさんと『何とか』したんだったら、その時に私にも声をかけてくれれば良かったんだ。も一度お二人とご一緒できればって、あの時みたいに連れてって貰えたらって、少し楽しみにしていたんだがなあ」
何やら痛いところを突かれたと見えて、ガンドウが気まずそうにそっぽを向く。
「実はそれ、少し考えたのよ。
「じゃあ呼んでくださいよ」
「ヤバスがね、二人で行きたいと言ったのよ」
「はあ」
「あ
「ほう」
「で、まあ、お穴の中、二人だけ、それあ
「これは
ガンドウもからかわれ始めていることに気付いて急にへどもどし始める。
「おおお
「そっちやってもう80なりかけやん。何でいっつも年の話で片付けようとするんかなあ?」
完全に不意を突かれて二人ともぎょっとガンドウの後ろに目をやる。
「今80と160やろ。でもこれが230と310になってみいな。そんなに年の差、言うほどありますかねえ? あと見た目はどう見てもウチの方が若いよ。それは100人に聞いたら100人がそう言うよて、それは迷宮で二人の時に話したはずやろ。それにあんまり人に乙女の年の話したらあかんで。それはあかん。ウチいつも笑うてる思うてくれたら困るわ、なあフィル」
「私を巻き込むのとガンドウさんのこと、もうこの位で。堪忍してください」
「せやな、堪忍できんこと、
実に一年ぶりに気持ちの良い人たちと会って、気持ちの良い笑いを腹の底から出せる幸せ。
剣と魔法と江戸っ子と~人情果し合い指南 宮武しんご @hachinoji
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