「レビュワー」後編

 差出人不明のレビューを受け取り、勢いに任せて感想を書いて、『千一夜物語』を読み耽った翌日。


 朝早く図書室を訪れた茜は、忘れ物入れから封筒がなくなっているのを見つけた。

 ちゃんと持ち主に届いただろうか。そう思いながら返却ポストを覗くと、同じ茶封筒が入っていた。

 誰かがまたポストに入れてしまったのかな。少し悲しくなった。

 しかし、中身を確認してびっくりした。同じ原稿用紙だが、内容が違う。二通目は、こう始まっていた。


「図書委員長 河東さま、

 お返事ありがとうございます。もうすでに紹介されている作品とは知らず、大変失礼しました。

 お詫びの気持ちと、また非常に熱のこもった感想を頂いた嬉しさから、もう一つレビューを書きました。ご笑納ください。」


 今回のレビューは、前作と比べると突出して面白いものではなかったが、それでも1日で書き上げたにしては随分な出来だった。


 しかし、この手紙で一番茜の心を突き動かしたのは、レビューの後に添えられた一文だった。


「もしこのレビューに興味を持たれ、また河東さんが迷惑でなければ、この次はもっと興味深いレビューを頑張って送りたいと思います。よろしければ感想をください。」


 どこかで見たことがあるその言い回しが、昨日読んでいた本のそれを真似ていると、茜はすぐ気付いた。

 これは、この人なりの『千一夜物語』だ。相変わらず差出人は書かれていないが、その方が面白いかもしれない。


『よろしい! このひとのレビューに飽きるまで、きっと感想を書き続けよう!』


 茜は『千一夜物語』の王よろしく心の中で誓いを立て、昨日のようにレビューに対する感想を書き始めた。


 昨日と同じように忘れ物入れに置いた封筒は、翌朝にはポストに入っていた。

 今回のレビューは、『阿Q正伝』だった。




→第一話『阿Q正伝』より「逃げろ! キューちゃん」(仮題)に続く

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文芸めちゃんこ創作レビュー集 みねね @minenenewriting

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