第7話:幼馴染はイジメられっ子

 ある日のこと。

 学校の放課後で帰り支度をしていると、雪羽に二人の女子が話しかけてくるのが見えた。


「おい。ちょっとついて来いよ」

「えっ? な、なに?」

「いいから。来いっつってんでしょ!」

「あ……う、うん……」


 相手の態度に気圧されたのか、雪羽はしぶしぶ席を立って女子の後を追っていった。


 なんだろうなあれは。

 嫌な予感がする。俺も付いて行ってみよう。




 雪羽達の追っていると、校舎の裏側に辿り着いた。ここはひとけの無い場所だ。


「――――くせに……」

「――んだって? 聞こえねーよ!」


 突然、そんな怒鳴り声が聞こえてきた。


「なぁ。お前のせいだってこと分かってんのか?」

「そ、そんなこと知らないよぅ……」

「うるさいな! アンタのせいで迷惑してるだよ!」


 なんだなんだ。

 さっきの女子二人が雪羽を責めてるのか?


「わ、私は何もしてないのに……」

「はぁ? お前が誘惑したんだろ? じゃなけりゃお前みたいなやつに告ったりしないだろ!」

「そうだそうだ!」

「え、えぇ……」


 何の話だろう。

 雪羽が困惑しているのが目に浮かぶ。


「お前が竹中の気を引こうとしたんだろ? そんでキープ君でも増やそうとしたんじゃねーの?」

「うっわサイテー。とんだビッチじゃねーか」

「私はそんなことしてない……」

「はぁ!? 嘘ついてんじゃねーぞ! じゃあなんで竹中の気を引こうとしたんだよ!?」

「だから……それは向こうが勝手に……」


 ……ははーん。

 何となく読めてきたぞ。


「とにかくだ! 竹中がアタシらを避けるようになったのはお前のせいだろうが!」

「マジでムカつくわー。こんなネクラ女に取られるなんてよぉ」

「うぅ……」


 やっぱりな。

 どうやら雪羽に告白した竹中のことで揉めてるらしいな。

 あの女二人は、竹中に惚れてるらしい。けど振り向いてくれないのは、雪羽のせいだと思っている。

 だから八つ当たりをした……ってところか。


 ……アホらし。

 惚れた男が取られたと勘違いしただけじゃねーか。


「おい! なんか言ってみろよ! クソビッチがよぉ!」

「チョーシに乗るなよテメェ!」


 あーあ。

 仮にも女なんだから、そんな汚い言葉使わなくてもいいのに。

 どう考えてもあいつらに問題がある。だから竹中に相手されないんだろうが。


 全く。仕方ない。

 雪羽はずっと縮こまってるし。助けてやるか。


「おい。その辺にしとけよ」

「なっ……響!」

「……ッ!」


 スマホを片手に持ったまま近づいていく。


「寄ってたかって弱い者イジメとか、くだらねーことしやがって」

「べ、別にアタシらはイジメてたわけじゃ……」

「そ、そうだよ! ちょーっと聞きたいことがあっただけだよ! な、なぁ?」

「そ、その通りだよ! 普通に会話してただけだって!」


 なに言ってんだこいつら。

 そんな言い訳通じるわけないだろうに。


「ほお? あくまでイジメじゃないと言いたいわけか?」

「あ、ああ」

「そ、そんなことするわけないじゃん!」


 なんでバレないと思ってるんだろうなこいつらは。


「まぁいいや。判断するのは学校側に任せるとするわ。さっきの場面、スマホで撮ってあるから」

「なっ……!?」

「マジかよ……」


 うちの学校は、イジメに対して厳しく取り締まるほうである。先生達も目を光らせているし、暴力行為が発覚すれば退学ものだ。

 にも関わらず、イジメが無くならないってのはどういうことなんだろうな。

 世の中から犯罪が無くならないのと同じ理屈だろうか。


「わ、悪かったよ! 少し興奮しすぎただけっての!」

「ま、まさかセンコーにチクったりしないよな……?」

「さぁな。それはお前たち次第だ。二度とこんな真似しないと約束するなら、今回のことは忘れてやる」

「……チッ。もう関わらねーよ。これでいいか?」

「ああ」

「もう行こうぜ。やってらんねーよ」

「くそっ……」


 そして二人は逃げるようにして立ち去って行った。


 ふぅ。

 ひとまずこれで一安心かな。


「あ、あの……リョウくん……」

「全く。何してんだお前は。あのくらい自分でケチらせよ」

「で、でも……」

「そんな態度だから舐められるんだよ。もっと強気にしていればいいんだよ。そうすりゃあんなアホみたいな連中に狙われることもないだろ」

「う、うん……」


 雪羽は昔からこうだ。小学生の頃から変わってない。

 常に弱気で大人しくしているもんだから、ちょくちょくイジメられることもあった。

 その度に俺が助けてやってるんだよな。


「リョウくん……」

「何だよ」

「あのね……あ、ありがとう」

「……このくらい大したことじゃないっての」

「で、でもね……私、すごく嬉しかったよ。絶対助けに来てくれるって、信じてたもん」

「あのなぁ……いい加減、俺に頼らずに何とかしろってんだ」

「えへへ……」


 こいつは本当に学ばないな。

 俺が居なかったらどうするつもりなんだろうか。


「まぁいい。さっさと帰るぞ」

「うん。あのね。今日はハンバーグにしようと思うの。よかったらリョウくんも食べに来ない?」

「お。いいね。腹減らしてからいくわ」

「楽しみにしててね! ガンバって美味しく作るから!」


 そんな会話をしつつ、一緒に帰宅することにした。






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