人類殺す

あるむ

プロローグ

いつ見ても、最悪な夢だーー俺が10の頃、あれは、そう。狩りの腕を父さんに認められてから数日経ったくらいだっただろうか。『三人の勇敢なる旅人』とやらによって、俺の世界で一番愛する家族は俺以外殺された。俺は『ドラゴンに攫われた哀れな少年』として、生かされ、こうして本物の家族とやらの元で人間として生きている。

「行ってきます、マリダさん」

今日は、俺の20回目の誕生日というものらしい。こんなクソみたいなお祝いモードの家の中に居るより、ドラゴンの事が少しでも学べる図書館に籠って静かに本を読んでいる方がずっと良い。母親の女に軽く挨拶をして、家を出る為扉に手をかける。

「ドラークくん……今日、誕生日よね? 偶には勉強だけじゃなくて、お家でゆっくりしたらどうかしら?」

誕生日だからこそ、家に居るより図書館でドラゴンと戯れたいんだよクソが、と思うものの口には出さない。俺にはドラゴンに攫われたショックで記憶喪失になってしまったという都合の良い設定があり、それでも憎きドラゴンに復讐する為日夜問わず勉強をしていると母親は解釈して頂いてる。実際は全くの逆なんだが。

「……夕飯までには帰りますね」

そうにっこりと微笑んで、母親の返答も待たずに外へ出た。もう二度と帰るかバーカ、と心の中で悪態を吐きながら。


「やぁーっと来たか! 待ちくたびれたぞ!」

家の外に出ると、仁王立ちをしたウザいのーーいや、ライアが居た。まあ、何故かわからないが自然体に近い状態で話せる唯一の奴だ。可哀想な子として連れられてきたばかりの頃、村のクソガキ共に孤児だからという理由だけで虐められてたのを助けてやったら勝手にくっ付いて来るようになった変な年下の女で、朱色のピョンピョンした跳ね毛に申し訳程度の三つ編みをしている。オレンジ色の瞳はキラキラと澄んでいて、見ていると吸い込まれそうで怖い程だ。

「……約束してねぇんだけど」

はぁ……と大きい溜息を漏らしてしまいつつ、 そっと横を通り過ぎようとしたのだがーー

「ちょっ……まてーい! 約束はあたしの脳内でしたから大丈夫! あたしも行く!」

……思い切り腕を掴まれた。コイツ、力つええんだよなぁ。

「脳内で約束したとか俺に関係ねぇし腕痛いから離せ」

「うー……これでいいか?」

離せと言ったのに腕を組まれた。馬鹿じゃねぇの、コイツ。まあ、良いか……なんて妥協してしまうのはコイツに絆されている証拠だろうか。

「図書館着いたら速やかに離せよ」

「うぇー……」

などと馬鹿に戯れられる内に図書館に着いた。馬鹿は児童書コーナーに放置し、俺は深海を連想させる程暗く、俺以外に立ち入る者なんて余程の物好きしかいないであろう禁書が置いてある立ち入り禁止エリアの封印を解き、足を踏み入れた後にまた同じ封印を施す。こんな薄気味悪いところに好き好んで来る奴は俺以外居ないだろう。この街は無駄に大きいが馬鹿しか居ないのだ。ふ、と。濃い魔力の気配がした。そちらの方に視線を向けると、一冊の黒い本が誘う様に浮かんでいる。

「禁書、か……?」

それは魔力が込められているという禁断の書物である。名前の通りでしかないが、研究が進んでいない数百年前の時代ーー通称【失われた文明】に記された本であるらしい。なんでも、魔女と呼ばれる存在が魔法を封じ込めたのだとか。他にも色々と説はあるが、特に特筆すべき説は他に無い。

「……開いた」

その禁書は、俺の手に吸い寄せられるかのように掌に収まり、開いた。古代文字を使われているであろうその本は、何故だかよく分からないが『言葉』として文字がスラスラと頭の中に入ってくる。

「人類を、絶滅させる魔法……」

短くも、簡潔なその呪文はこの禁書の示す通りであると人類が全て一人残らず絶滅する呪文であるらしい。口角が自然と上がるのを感じる。やっと、やっと見つけた。


ーーー


「ドラーク! 良い本あったか?」

ずっと絵本を見ていたというライアに抱き付かれ、そのまま引きずりながら図書館を後にする。こいつめちゃくちゃ重くなったな。

「……ああ。取っておきのがな」

ーーさぁ、ドラゴンを虐げる人類を、皆殺しにしてしまおう。

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人類殺す あるむ @madorum

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