第80話 女神以外にも意外といろいろな存在に守られていた場合(3)



 ま、仮に殺したとしても、仕方がない、か。

 戦闘が始まってしまったのだから、命のやりとりになるのは避けられない。もしもの場合はあきらめてもらおう。


 それで、おれはというと。


 最初に、兵士長をあっさりと倒した。セリフ付きの重要人物だったのに、すぐに倒してしまった。

 まあ、それは、後ろで指揮するだけの口だけ兵士長ではなく、相当な武闘派だったということに原因がある。ま、それでもおれたちの相手にならないレベルだけれどね。

 でも、本人は自信があったらしくて、勇敢にも、一番におれの前へと飛び出してきたのだ。

 自信満々、堂々と、だ。だから、真っ先に、両腕と片足、さらに鎖骨をへし折って、気絶させた。


 そこから先は、やや怯えた表情をしながらかかってくる兵士たちをひたすら打ち倒していった。たいてい、二、三本、骨を折れば気絶して倒れる。


 兵士長が倒れたのに、兵士たちは引き下がらない。男爵の前だから、だろうか。


 まあ、三人がかりだろうが、四人がかりだろうが、ひらりひらりと舞うおれの服を切ることすらできない、弱い相手の骨を折る簡単な作業中な訳だけれど。


 怪我人の治療に使ってた礼拝堂で、どんどん怪我人が量産されていく残念な異常事態。


 ひたすら、昏倒する兵士が増えて、かかってくる兵士が減っていく。


 あれほど必死に、東の外壁を守っていた兵士たちが、町の中の神殿で次々に倒れていく。城を落とすのなら、中から落とすのがよい、とはよく言ったものだ。

 さっきの兵士長がどこかの間者だったとしたら、見事なものである。この怪我人の山のせいで、辺境都市アルフィは陥ちることになるだろう。


 神殿の礼拝堂は混乱を極めつつあった。






 そこに、登場したのはお姫様だ。


「やめてっ! お父様っ! オーバさまが何をしたって言うの?」


 奥の部屋から飛び出してきたキュウエンは、おれを擁護し、男爵を非難する。


 キュウエンの救援。


 失礼。

 失言でした。


「キュウエンさま?」

「まさか・・・」

「亡くなられたと・・・」

「いや、生きているという噂も・・・」


 兵士たちに動揺が走る。そりゃ、もう、びっくりしている。辺境伯の間者に襲われて、殺されたということで、辺境伯憎し、という兵士たちの怒りにつながっていたのだ。


 どうやら神殿内の混乱はさらに加速したらしい。

 まあ、動揺して戸惑っているその隙に、一気に五、六人は打ち倒した。


 こんなことで動揺するなんて隙だらけだよな。

 まあ、兵士を100人くらい引き連れてきたんだ。殺される覚悟はしてんだろ。油断する方が悪いし、こっちの手加減で、生きてる分くらいは、マシ、だろう。


「オーバさまっ? もうやめてくださいっ!」


 キュウエンが泣きそうな顔で言う・・・いや、涙はもう流れてるか。


 いいや、やめない。

 やめる理由がない。


 女が一人、泣いたからって、戦いが終わる訳じゃない。


 こっちとしては、降りかかる火の粉を払っているだけなのだから。仕掛けてきたのはあっち。


 おれは、キュウエンを無視し、キュウエンの涙に動揺する兵士たちを次々と倒していく。隙だらけの相手を遠慮なく打ち倒す。


 クレアが飛び出しそうなキュウエンを押さえて、下がらせる。


 キュウエンの叫びは届くが、戦闘は終わらない。叫べば叫ぶほど、兵士の戸惑いが増して、隙が増える。お陰で楽に相手を倒せる。


 おれの周りでは骨が折れる音がひたすら響いていた。






 さらなる変化は外で起きた。


 スクリーンに、新たな光点が三つ、フィナスンたちとは反対側から現れた。これまた、味方を示す青の光だ。

 しかも、膠着状態にあったフィナスン側とは違い、三つの光点が動くと一気に兵士たちの赤い光点が消えていく。

 三つの光点は、動きの速さがフィナスンたちとは段違いだ。王都の密偵である巡察使と、その仲間たち。一人ひとりがレベル10という手練れ。並みの兵士たちじゃ、相手になるはずもない。


 しかし、あいつら、容赦ないよな。スクリーンから光点が消える、というのは死んだということだ。


 この前も、門衛が死ぬのだってお構いなしだったし。


 まあ、その方が、この場合、たぶん正しい。

 敵を殺して何が悪い、という話だ。


 あっという間に、外では30人以上が死んだらしい。一人十殺。怪我人どころか、死人が増えてる。

 恨むなら、あいつらを恨んでほしいものだ。こっちはまだ手加減をして、殺さずに止めている。


 神殿の外では、反対側が総崩れとなり、フィナスン側も、フィナスンたちが確実に優位に立っていく。

 この状況から考えると、王都の密偵たちはこっちの味方、というか、おれの味方だと考えられる。ま、光点が青いんだから、考えるまでもないか。


 しかし、いったいどうして、味方をしてくれるのか?

 理由が分からない。こいつらまで、おれを王都の関係者だと勘違いしているのだろうか? その可能性も0じゃないけれど・・・。


 ついに、その、すばやい光点が三つ、神殿内に飛び込んできた。


 入ってきた瞬間に、入口付近の兵士たちがばたばたと殺されていく。


「なにっ!」


 男爵が驚きながらも抜剣する。


 三人が神殿内に入った途端、入口付近の兵士たちが次々に切り捨てられたのだ。そりゃ、驚くだろう。

 ついでに、ガイズも切り捨てられた。残念ながらガイズはやっぱり弱かった。


 おれの周りにも、軽く30人を超える兵士たちが倒れているが、骨折していても、気絶していても、別に死んではいない。痛めつけてはいるが、こっちは手加減しているのだ。

 入口付近にいて、おれに向かってこなかった奴の方が殺されてしまうとは、皮肉なもんだな、と思う。


 しかし、あの三人は本当に手加減なし。容赦なし。そして、敵対する者の命に価値なし。


 兵士長がレベル4の部隊じゃ、相手にならないのも当然か。


 周囲の兵士たちがいなくなり、三人が男爵を取り囲む。

 一対一なら、男爵にも勝利の目があっただろう。


 しかし、三対一では、さすがに男爵でも厳しい相手だ。


 七、八合、銅剣を交えてから、男爵の左肩は切りつけられて血が流れ、銅剣は叩き落され、喉には銅剣が突きつけられていた。むしろ、三対一でよくそこまで切り結べたと思う。実は男爵、かなり強い。


「やめろっ! 殺すなっ!」


 おれが慌てて叫ぶと、三人はそこで初めて動きを止めた。


「お父様!」


 叫びながらもがくキュウエンをクレアが押さえる。


 神殿内での戦闘は、そのまま収束していく。


 なんだか、一番いいところをかっさらわれてしまったような気がする。

 王都の巡察使、なかなかやるな。


 兵士長、男爵、フィナスン、キュウエン、王都の巡察使、これでもか、というくらい、どれだけ一気に姿を見せたんだか。


 ここの神殿は待ち合わせ場所なのか? ハチ公前か? アルタ前か? はたまた銀の鈴か?


 これでカスタの町のナフティが来たら、今回の関係者が勢揃いのような気がする。いや、ナフティだけが今は仲間外れでさみしい気持ちなのかもしれない。


 騒がしかった神殿内は、ようやく静けさを取り戻そうとしていた。





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