第37話 女神の作戦で獣を狩る場合(4)
セントラエムの説明は分かりやすかった。
納得できる部分もある。
「・・・勝ったら、取り放題って、ならないのかな?」
「もちろん、そういう道も、あります。聖君を目指すか、暴君を目指すか、という話になりますけれど」
「つまり、ナルカン氏族を見捨てたら、暴君扱いになるってことか?」
「まあ、一般的に言えば、そうですね。屈服させる、というのはそういうことでもあるのです。しかも、ナルカン氏族では英雄的存在の長老、ニイムに約束させましたし」
「そこも、おれを束縛する方の設定かよ!」
弱肉強食の社会、というのは自然界的な要素が強くて、大森林ではもちろん、大草原での獣と人間の関係でも、そうなのだと思うけれど。
人間同士の関係は、もっと複雑だ。
「だから、ニイムは出戻り娘ではなく、氏族の箱入り娘を、二人も差し出したのです」
「・・・送り返そうか」
「そうすると、新たな火種を抱えることになりますね。人質を送り返すというのは、宣戦布告のようなものです。ナルカン氏族だけでは到底、スグルに対抗できない。当然、姻戚関係のある氏族に呼びかけて・・・」
「はい、分かりました。送り返したり、しませんから!」
「それでは、チルカン氏族と、ヤゾカン氏族、どっちの氏族の力を削ぎますか?」
「うーん。その話の前に、今夜もお客が来たみたいだ」
スクリーンに映る赤い点滅が、おれたちを囲もうとしていた。
暗闇での戦いを避けるため、おれはこの三日間、投石による攻撃だけにしぼっていた。
まあ、全力投石だけれど。
運動スキルのスキルレベル最大での投石。
メジャーの先発エースクラスの投球以上の・・・という自己評価も怖ろしい。レベル制で、スキル制のこの異世界だから、できること。
そして、『投石』スキルが、今さらながら、身に付きました。
別に大草原らしいスキルじゃないのが、残念だという訳でもない。例えば、この世界でならば、「トイレ掃除」というスキルがあったとすれば、それが身に付くことで強くなれるのだから、どんなスキルでも基本はありがたいものだ。
ただし、スキルがあろうとなかろうと、既にできている実感のあることがスキルとして身に付いたとき、ちょっとだけだけど、喜びが少なくなるというかですね、そういう感じがあるんです。
もちろん、謎の獣軍団、九頭全て、追い払い済みです。
スクリーンで見る限り、それでも一定距離にいるので、まだこの馬の群れをあきらめてはいないようだけれども。
こいつら、しつこいよなあ。
そう考えて、ひらめいた。
・・・実は、おれと合流する前から、この獣たちに夜襲をかけられてたんじゃないのか?
だから、おれが近づいただけで、猛烈に襲いかかってきたんじゃないか?
もっと言えば、おれと合流する前は、群れから犠牲が出ていたんじゃないか、とも思う。
夜に、妊娠したメス馬とか、かよわい子馬とかが狙われたら・・・。
まあ、怒りに震えるよな。
でも。
それも、明日の朝で終了させる。
ここまでは、作戦通りだ。
翌朝、馬の群れを分ける。
おれと一緒に、襲撃する、全力疾走の突撃組。
後方からゆっくりやってくる妊娠組。
おれ以外のナルカン氏族を運ぶ、輸送組。
不思議なことに、馬の群れには、うまく指示が入る、気がする。
スクリーンは起動させて、赤い点滅の位置も把握済み。
脳筋馬がおれを乗せようとしてくれるが、おれは脳筋馬の首をなでて、それを丁重に断る。
え、なんで? みたいな顔をしているが、そっとしておく。
「それじゃ、行くぞ」
おれはそう言うと、走り始めた。
突撃組が全力で付いてくる。
輸送組は羊と同じペースで動く。
妊娠組はゆっくりと。
先頭は脳筋馬ではなく、おれ。
十二頭の突撃組を引き連れて、その先頭を疾走する。
なんでそんな速いの? みたいな顔をする脳筋馬。
実はまだ、『高速長駆』は使ってない。
赤い点滅に動きらしい動きはない。
ただし、二頭、偵察っぽい動きをしているから、こっちの行動には気づいたようだ。
まあ、おれたちが攻めてきたとしても、関係ない、くらいに思っているのかもしれない。
ここで、おれはさらに加速する。
『高速長駆』スキルを全開で使う。大森林よりもはるかに走りやすい、この大草原なら、馬の最高速度よりもおれの方が速い。
じわじわと馬たちも引き離して、赤い点滅へと進んでいく。
見えた。
・・・あれは、図鑑とか、テレビとかで、見たことがある。
超有名どころじゃねーか。
そういうメジャーな存在が、こっそり夜中に夜襲とかしてんじゃねーよ。
おれは、『高速長駆』の最大スピードを活かして、『大跳躍』スキルを使い、空を舞う。
あいつらの、視覚の外から。
上空からの。
必殺の一撃。
クリティカルダメージを約束された大技『大飛蹴撃』のスキルを使用。
そうして、群れの中心の。
オスのライオンのでっかい腹に、おれの飛び蹴りが突き刺さった。
オスのライオンのステータスはレベル5。みるみるうちに生命力が減っていき、死亡。『一撃必殺』スキルも稼働したのかもしれない。
一声、吠えることすらできずに。
途絶えたボスの命。
突然の、群れのボスの消失。
混乱するライオンたち。
そこに猛スピードの馬の群れに追われた偵察ライオン二頭が、十二頭の馬を引き連れてやってくる。
さらなる混乱がライオンたちを襲う。
馬に踏まれるライオン。
馬に蹴られるライオン。
馬に追われるライオン。
脳筋馬のやつ、噛みついてやがる。
混乱しているライオンたちを、おれは川の対岸へと追い払っていく。
確か、方角としたら、ナルカン氏族から北西方向。
なんていったっけ・・・そうそう、ヤゾカン氏族のいる方だ。
ボスをやられたライオンの群れは、それぞれがダメージを受けながら、おれと馬たちに対岸へ追いやられ、さらに、その向こうへと追われた。ヤゾカン氏族に迷惑をかけてくれると嬉しい。
ライオンの群れを遠くへ追いやった後、おれは倒したオスのライオンのところへと戻り、死体を小川へ運ぶ。
まずは血抜きから。
ライオンの肉って、どうなんだろう?
まあ、とりあえず、解体したら、ここで食べよう。
食べてみないと、うまいかどうかなんて、分からないしね。
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