第37話 女神の作戦で獣を狩る場合(3)



 ナルカン氏族の中で、強者はだいたいレベル4だった。ニイムだけがレベル6で、これが特例クラスなのだとしても、ジッドのレベルは8で、圧倒的に上。


 剣術も大草原では天才の名をほしいままにしていたらしい。


 レベル差と剣術の力量で、十人以上を打ちのめして逃走したってのは、ジッドならできること。


「ニイムおばあさまにこの話を聞いて育ったわたしたちにとって、エレカン氏族の天才剣士は憧れなんです」

「へえ・・・」


 その。

 憧れの剣士は、さ。


 そのうち会えるかもしれませんよ。


 ただし、かっこいいイメージばっかり持ってると。

 残念な食いしん坊姿だったり、情けない腹ペコ姿だったり。

 そういうところで幻滅してしまわないように、気をつけてほしいと思う。


 ちなみに、うちの村には、その天才剣士と互角に戦う棒術の戦士がいるんだよね。でも、産休中だから、その戦いはしばらく見られないよな。


 あ、その天才剣士を手加減してあしらう、巫女少女もいるか・・・。


 ところで、さっきの話。

 後継ぎの長男の暗殺はジッドの責任にされたってことは。


 どっかに真犯人がいるってことだろ?


 そういうところ、エイムもリイムも、気にならないらしい。


 ま、剣術で、ばったばったと切り倒して走っていくのが、かっこいいってイメージなんだろうな。






 川沿いを野営地に設定し、休息をとる。


 スクリーンの地図上では、赤い点滅も止まって、待機中だ。

 水を分け与えなくても、川の水を飲む馬たち。

 もちろん羊たちも。


 あ、人間たちも・・・。


 そうなんだ。


 いや、おれは水袋から飲んだけれど。


 調理は時間をかけずに、ネアコンイモの焼き芋で。


 族長くんの弟ガウラ、目が飛び出そうなくらい、一口目で見開いてしまった。焼き芋をよっぽど美味しいと思ったらしい。


 おれはひとつ丸ごと食べた。

 ナルカン氏族メンバーは半分個ずつ。


 あとは干し肉で。


 あ、干し肉も美味しい?

 それは良かった。


 食後に軽い運動。腕を前から上に・・・という体操を教える。最後の深呼吸まで丁寧に教える。


 それからカタカナ学習。今日は、お互いの名前を書く。書いて書いて書きまくる。


 アコンの村の話と、女神の話を聞かせて、馬にもたれてお休みなさい。


 そして、ひょこっとセントラエムが顔を出す。


 おれは、手を首元に出して広げた。


「ここに、乗れ、ということでしょうか」

「・・・引っ張りだしたら怒ったくせに。なんなら、掴みだそうか?」

「いえ、自分で出ます。すぐに出ます」


 セントラエムがおれの手の平の上にいる。


「今日は、役に立ちそうな話が多かったですね」

「そうか?」


「・・・ちゃんと聞いていなかったのでしょうか?」

「聞いてたつもりだけれど・・・」


「大草原での、次の標的を考えるよい材料がもらえたと思うのですが」

「ああ、十二氏族の話か」


 ジッドの話のことかと思った。

 あまりこれからの役には立たない、と思ってごめん、ジッド。


「スグルは、どの氏族を次の標的にしますか?」

「ん、予定通り、というか、予定以上のいい状態で、ナルカン氏族を屈服させつつ、関係を築くという離れ技をやってのけたからな。次は、セルカン氏族、かな」


「セルカン氏族ですか? チルカン氏族やヤゾカン氏族ではなく?」

「あれ、セントラエムはどうして、ナルカン氏族と不仲な氏族を次の標的に?」


「チルカン氏族やヤゾカン氏族の力を削がないと、ナルカン氏族が狙われてしまいませんか?」

「力を削ぐ? 交易相手にするんじゃなくて?」


「おや、そこから意見が交わっていませんでしたか。ナルカン氏族は、最終的には友好関係となりましたが、本来は戦をした完全な敵です。しかも、スグルは強力な武器を奪い、羊も奪って、ナルカン氏族を弱らせました。このままじゃ、チルカン氏族やヤゾカン氏族が手出しをしないとも限らないと思いませんか」


「・・・それは、あるね」

「ナルカン氏族は、十年間、スグルの庇護下に置いた訳ですから、守るのは当然ですし、そのさらに上を目指すべきです。つまり、ナルカン氏族が攻められる前に、チルカン氏族やヤゾカン氏族と戦っておけば、予想されるナルカン氏族の被害の程度が、抑えられるはずです」


「・・・十年間、おれの庇護下って、どういうことだよ?」

「羊を五頭ずつ、毎年受け取りに行くのですよね?」

「そういう約束で「荒目布」を売ったけれど」


「他の氏族に襲われて、約束の羊を渡せません、という話になった場合には、ナルカン氏族を助けて、他の氏族を討伐する、ということになります」

「なんで? じゃあ、来年くださいね、でいいよね?」

「・・・どうして、そう思うのですか?」


 セントラエムがあきれているらしい。


「どうしてって、そりゃ、羊は、「荒目布」との交換だから、布の代金みたいなもんだし・・・」

「・・・うっかりし過ぎです。よく思い出してください。そもそも、羊は布の代金ではなく、戦の手打ちとして受け取る、賠償でしたよね。つまり、強者が敗者から吸い上げる、税と同じですよ。ナルカン氏族はスグルに敗北し、従うことを宣言した。そして、税と同じく、毎年、羊を納めると約束した。強者が税を納める弱者を守らないなんて、大森林の王の名が地に落ちます」


「そういう話だったのか!」

「分かってなかったのですね」


 そういう、こっちの世界の常識・・・いや、待て。


 こっちの世界だからって訳じゃ、なさそうな感じがする。





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