第34話 女神が本体なのか分身なのか悩む場合(3)
突進される前に、おれは迷わず、『跳躍』スキルで跳び上がり、馬レベル5の面長な馬面に飛び蹴り三連撃を加え、再び状態を麻痺にした。
馬レベル5が、前のめりに倒れる。
やれやれ。
おれはひとつ、ため息をついてから、再び『神聖魔法・治癒』スキルで馬レベル5を治療する。
馬レベル5の麻痺状態がなくなり、目を覚ます。
さっきと同じように、四肢を踏ん張り、おれへの突進体勢をとる。
うん、そうなるよなあ。
おれは迷わず、もう一度飛び蹴りを入れ・・・。
あ、まずい。
このままでは、殺してしまう。
生命力が一ケタまで落ちている。
状態表示はまたしても麻痺。
三連撃は止められそうもない。
それでもなんとか、二連撃目と三連撃目は、鼻先をかするかどうかというぎりぎりの蹴りで済ませて着地。
脳筋馬レベル5はまたしても前のめりに倒れる。そして、その生命力が、カウントダウンを始める。
まずい、まずい。
殺したい訳じゃない。
おれはセントラエムへの祈りを込めて、右手に光を集め、『神聖魔法・回復』のスキルを発動させ、脳筋馬レベル5の生命力を回復させていく。
同時にセントラエムへの祈りを込めて、左手にも光を集め、『神聖魔法・治癒』のスキルを使用し、脳筋馬レベル5の馬面顔面骨折を治療していく。
そしてまた、麻痺状態を脱する脳筋馬レベル5。
またしても立ち上がり、四肢を踏ん張る脳筋馬レベル5。
うーん、これは、一発くらい、受けてやるかあ・・・。
そう思っていたら。
左右から、脳筋馬レベル5の首に、二頭の雌馬が噛みついた。
噛み切って殺そう、という感じではなく、突進をとりあえず止めさせるための、噛みつき、という感じだろうか。
脳筋馬レベル5は、え、なんで? どうして? という状態になり、首をきょろきょろと左右に動かす。
そのまま、おれの『神聖魔法』が二つ、光を失い、脳筋馬レベル5の治療と回復が終わった。
『「並列魔法」スキルを獲得した』
ん、久しぶりのスキル獲得とレベルアップだ。
ああ、そういうスキルがあるんだ。
左右の手で、ちがう魔法を行使したから、身に付いたんだと分かる。実に分かりやすい、新しいスキルだ。
確か、ジルも、『神聖魔法・治癒』スキルと『神聖魔法・回復』スキルをどちらももっているはずだ。村に戻ったら練習させて、このスキルも身に付けさせよう。
ひひーんっ、と馬たちが、一頭一頭、空に向けていななく。
それは群れ全体に広がり、やがて、次々と脚を折って地に伏せ、おれの方を見つめた。
この状況になって、脳筋馬レベル5も、何かに気づいたらしい。
噛みついていた二頭の雌馬が、脳筋馬を放して、脚を折って地に伏せた。
少し遅れて、脳筋馬も、脚を折って伏せる。
おれを取り囲むように、ひざまずいた馬の群れがいた。
なんか、これに似たようなことが、最近、あった気がする。
あ、ジルが大牙虎を屈服させた、あれだ。
おれは大草原入りした一日目に、野生の馬の群れをひとつ、屈服させた。
まあ、結果として、おれは脳筋馬レベル5の背にまたがって、大草原を移動していた。
馬たちは群れごと、ついてきている。
さっき、『乗馬』スキルというのを獲得して、レベルアップした。
『高速長駆』のスピードまではいかないが、かなりの速さで移動できるし、おれ自身の生命力などを消耗しないのも、助かる。
「馬での移動は、なかなか速いものですね」
「確かに。スキル使用じゃないから、能力値に影響もないな。楽をするパターンだから、スキルレベルは上がらなくなってしまうけれど」
「『乗馬』スキルのスキルレベルは上がりますよね」
「そりゃ、そうだろう」
話しかけてくるセントラエムに答えながら、流れる景色を見つめる。
安全第一と言って、おれの服の中にもぐりこみ、襟のところから顔だけを出して、しゃべっているセントラエム。
やれやれ、わがままな女神だ。
たてがみをつかんで、背に乗っているだけだと、とても不安定で、困る。
筋力があるから、振り落とされたりはしないけれど。
背に乗ったまま、ネアコンイモの芋づるロープで輪を作った。馬の背に輪の中心を置き、両脇に垂らして、足がちょうど置きやすい位置になるよう、中心に結び目をつくって八の字にすることで長さを調節する。
いわゆる、あぶみ、というものだ。何もなければ踏ん張れないが、この八の字のロープの輪に足をかけることで、踏ん張りが利く。
安定感が格段に良くなった。
そのまま、大草原に沈んでいく太陽を見ながら、馬の群れに囲まれて一泊。ひざまずいた脳筋馬を背もたれにして寝たら、結構温かかった。
夜中、セントラエムに起こされ、周囲を警戒。
スクリーンにはおれと馬の群れを取り囲む赤い点滅が七つ。
地図の縮尺を変えて、一番正確に相手の位置が分かる状態にする。
子馬や、妊娠している雌馬は、群れの中心で守っている。
雄馬が周囲を警戒しながら、うろうろとしている。
脳筋馬レベル5も、一緒に警戒している。
夜襲は、苦手だ。
相手が見えないってのは、恐怖だ。
こんなに怖ろしいことはあまりない。
おれはかばんから石をふたつ、取り出した。
スクリーンで確認した位置に、全力投石。
続けて二つ目の石もその隣の目標に全力投石。
どちらも、相手をとらえたらしい。
ダメージは小さいが、きゃんっ、と鳴いてから、走り去っていった。
石をぶつけていない奴らも、逃げていく。
大草原、怖い。
いったい、何者だったのだろうか。
翌朝、二時間ほどの移動で、大きなテントが遠くに小さく見えてきた。
目的地の、ナルカン氏族のテントにたどり着いたらしい。
さあ、交易交渉を始めよう。
とある大統領のように、強気で。
思い切って交渉する。
アコンの村のために。
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