第33話 女神が人体実験好きで、怖ろしい場合(3)



 河原でイノシシの解体をする。


 イノシシの解体は初めてだが、スキルが自然に教えてくれるので、おれの動きに迷いはない。


 前足の骨が折れていたのは見て見ぬふり。


 まあ、そこはジルの仕業だろう。


 心臓と肝臓と腸を回収したあと、その他の内臓をタイガがほしがったので、ごほうびの感覚で全て与えた。


 焼肉用の肉を切り取って、梨がなくなった代わりにパイナップルに漬け込む。


 今回、五日分に挑戦する。どうかお腹が痛くなりませんように。


 煮込み用の肉ブロックも確保する。


 残りは干し肉の準備。大きいから、かなりの肉が確保できる。


 処理に困った頭部をタイガに与えたところ、どこかにもっていった。隠したらしい。


 ちなみに、これから一か月ほど、タイガが何かを食べている姿は見ていない。

 一度食べると当分の間は食べなくても大丈夫な、大牙虎はそういう動物らしい。

 飼育して食べるなら、大牙虎の方が、森小猪や土兎なんかよりはるかにコスパがいいのではないだろうか? ま、こっちの生命に危険があるから、そうもいかないか。


 イノシシ肉は、大牙虎の肉が入手困難になった今、アコンの村の新しい支えだ。


 狩り過ぎないようにしよう。


 そして、これまた、びっくりするほど、うまかった。






 アイラのお腹がはっきりと大きくなったと分かる。


 もちろん、ナニはしない。


 後宮に来るときには、シエラが一緒に来て、おれにいろいろと話してから寝る日が増えた。シエラもそんな夜があるのは嬉しいようだ。


 このままだといつか樹上生活は苦しくなるからと、ジッドとノイハがオギ沼の村の跡地に出向いて、柱木を運んできてくれた。


 アイラ用とサーラ用の竪穴住居がノイハの指示で建てられていく。


 縄梯子を妊婦がのぼるのは、確かに難しいだろう。






 いろいろあるが、アコンの村の暮らしは順調だ。


 クマラとケーナが二つ、シエラが一つ、レベル上げていた。これでクマラのレベルは8、ケーナのレベルは3、シエラのレベルは2だ。


 目新しいスキルはない。クマラは『運動』と『殴打』、ケーナは『学習』と『運動』、シエラは『信仰』のスキルを獲得している。今後の成長が期待できる基礎スキルの獲得だ。


 その結果、二対二の立ち合いで、クマラは傷つきながらも大牙虎のタイガを倒し、戦闘面でも自信を深めた。それを見たセイハのようすは・・・誰にも言わずにおきたい。ちなみに、タイガはクマラに負けたとき、『苦痛耐性』スキルを獲得して、レベル8になっていた。


 立ち合いを禁止されているアイラが悔しそうにしながらも、クマラの成長を喜んでいた。


「子どもを産んだら、わたしもぶちのめしてあげるわよ」


 アイラがタイガの怪我を癒しながら、タイガに向けてそうつぶやいていたのは、聞かなかったことにしよう。






 ノイハが真剣勝負をしてほしい、というので、言われた通りに相手をした。


 そもそも、そういうことを言い出すとは、それ自体が驚きだった。


 ただし、立ち合いという訳ではなく、森小猪を狩るくらいの広い森の中で、弓術を駆使するノイハと戦う、というやり方だった。


 もちろん矢じりのない矢を使う。


 当たれば刺さるが、すぐに抜くことができる。

 まあ、当たらないし、おれの場合、飛んできた矢を掴み取ることもできた。


 ノイハの驚愕の表情は忘れない。

 でも、おれも驚いた。


 ノイハが、三本の矢を同時に引いて、射た。

 一本はおれの額、もう一本は胸、もう一本は大切なところに向かって飛んでくる。


 たてのラインだったので、三本同時にかわしたのだが、本当に驚いた。


 ステータスを確認すると、『住居建設』のスキルを獲得していたことと、もうひとつ、名前は分からないけれど、特殊スキルが増えていて、ノイハのレベルは8になっていた。おそらく、三本同時に矢を扱う特殊スキルがあるのだろう。


 勝負の結果はもちろん、おれの勝ち。


 ノイハは矢を射尽くして、おれの拳をみぞおちに受けた。


 ノイハが挑戦してきたのは、三本の矢を同時に使えるようになったから、試してみたかったらしい。


 いや、狩人としては、すごいんじゃないか、と本気で思ったし、そう告げた。


 ノイハは照れくさそうに、殴られたみぞおちをさすりながら、「だろ、だろ!」と言いながら笑った。


 樹上からの長距離攻撃なら、アコンの村で最強なのは間違いない。

 村の守備力は大幅に高まった。






 セイハは最近、竹筒サイズの土器を大量に焼いていた。


 竹筒は竹が減ってきたので入手困難となり、クマラに頼まれたらしい。クマラの目的は、稲の栽培実験だ。


 クマラの頼みとあっては、セイハが頑張らないはずがない。


 兄の影が薄い、というのはセイハにとっても辛いところ。

 だからセイハは頑張って、大量の竹筒サイズの土器ができた。


 クマラは大喜びで、ケーナの助けを借りて稲の栽培実験を続けている。


 セイハ、活躍できて良かったな。


 でも、レベルは上がってないから、おれの方をどうだ、という風に見るのはやめろ。

 上がってないから。


 何度も言うが、得意なことで活躍しても、上がるのはスキルレベルの方であって、セントラエムによると、そのスキルレベルも5まで上がると、なかなか上がらなくなるらしい。


 悲しそうなセイハが、おれに背を向けて歩いていった。


 頑張れお兄ちゃん!






 ジッドと話し合って、おれは大草原へ出かけることにした。


 きっかけは、二つ。

 クマラが織ったネアコンイモの芋づる糸からできた美しい白い布とノイハの弓術の成長だ。


 アイラが身重で動けない現状でも、ノイハが遠距離で牽制して、ジルとジッドとクマラが接近戦を行えば、大牙虎が相手でも村は守れる。

 タイガも、うちの村で人間を襲うようなことはない。というか、タイガも村の守備力として期待できる。アコンの村としての防衛力は十分に高い。

 それに、これまでに、大牙虎以外でアコンの村と敵対した存在もない。村は、おれがいなくても安全だと考えられる。


 そして、交易品としての価値が高いと考えられる、美しい布。


 これを利用しない手はない、とジッドは力説した。


 ジッドが、自分が行くと言っていたが、そこは、それ。


 おれも、いろいろな世界が見たい。それに、大森林とは異なる環境に行けば、新たなスキルを獲得できるはずだと考えている。


 さんざん話し合って、アイラやクマラ、ジルたちも納得し、おれが出かけることになった。


 大森林の向こう側、大草原。

 草原の民が暮らす大地。

 ジッドが生まれ育った場所。


 楽しみだ。





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