第34話 女神が本体なのか分身なのか悩む場合(1)
おれが転生してから百五十一日目。
アコンの村を出発し、まずは虹池の村の跡地をめざす。
『高速長駆』で約二時間。
全力で移動したおれは、生命力、精神力、忍耐力を消耗したが、無事に虹池の村の跡地に到着した。
虹池の村を最初にめざしたのは、ジッドとの話し合いの結果だ。
虹池から流れる小川は、大草原へとつながり、大草原を流れる河川へと合流しているという。
その合流地点から東の草原のどこかに、ひとつの氏族が暮らしているらしい。
どこかに、というのは、一か所に留まらず、移動して生活しているから。
今回の目的地は、その氏族のところ。
目的は交易。
こっちの手札となる品物は、クマラ特製の布。ネアコンイモの細い方の芋づるから採取した白くて丈夫な糸を使って織りあげた布。ただし、一番たて糸の本数が少ない「荒目布」がメイン。
他にも、大森林ならではの物品を用意しているが、それを使うかどうかは、その時の状況次第だ。
相手から受け取りたいものは、羊、馬、そして、男の子、または適齢期の女性。
そう、男の子、それに適齢期の女性だ。
人間が交換品目に入っているのはどうかと思わなくもないが、これもアコンの村の人口問題の解決のためだ。
アコンの村で暮らしているのは、まずはおれ。そして、オギ沼の村出身には、ジル、ウル、ヨル。ダリの泉の村出身には、ノイハ、セイハ、クマラ、アイラ、シエラ。虹池の村出身はジッド、ムッド、スーラ、サーラ、エラン。花咲池の村出身は、トトザ、マーナ、ケーナ、ラーナ、セーナ。
以上十九名。男性七名。女性十二名。
男性七名、だ。
今のままでは、人口の男女バランスが悪過ぎる。
おれが「王」として、複数の女性を妻に迎える予定ではあるものの、それでも、男女バランスが悪い。
既婚者であるトトザとマーナの夫婦や、奥さんに先立たれたジッドを除けば、十六名中、男性五名、女性十一名。
まあ、アイラは既におれの后だし、クマラはおれの婚約者なので、そこをさらに引いたとして、男性四名に対し、女性九名となる。
成人で適齢期なのはノイハとセイハ。年齢的には成人間近でなんとかなりそうなケーナ。年齢的にはちょうどいいのだが、おなかに赤ちゃんがいるサーラ。
バランスの問題で、男の子を増やしたいという大人組の依頼。
一方で、トトザやマーナは、年齢との釣り合いでケーナをおれに娶ってほしいという願いがあるようで、アイラとクマラという、ダリの泉の村の出身者ばかりが「王」との関係を深めている現状はよくないとさかんに言う。
この点はジッドも同意見で、スーラはいつかおれに嫁がせると宣言している。
正直なところ、本人の意思を尊重してほしいけれど、ひとつの国をつくろうとして、いくつかの村をまとめていくには、そういう政略結婚も大切だと分かる。
だから、スーラがそれでいいのなら、将来的にはジッドの希望は叶えたい。
また、トトザとマーナの希望も、ノイハやセイハの適齢期に合うケーナではなく、少し離れたラーナなら、おれとの年齢差は出てしまうけれど、「王」という立場で、后に迎えて大切にしていくというのもアリだ。
ケーナをおれが娶ると、各村に対しての勢力バランスは取れるかもしれないが、ノイハやセイハの相手となるお年頃の女性が減るという事実。
まあ、年齢差があっても結婚するのはかまわないとは思うが、そうするとノイハやセイハの結婚は少し遅くなってしまう。
ヨルやシエラが十歳なので、成人まで待たせるとあと五年かかる。そうするとノイハは二十一歳、セイハは十九歳となる。
滝シャワーに異様なくらい興奮するノイハがあと五年も性欲を抑えられるはずがない。
ダリの泉の村や花咲池の村では、強引な夜這の習慣もあったようなので、ノイハがおれの感覚で言う性犯罪者にならないとは言えない。
いや、なる可能性が高いし、それは避けたい。たとえ、こっちの倫理観でセーフだったとしても。
だから結婚適齢期の女性も、アコンの村に迎えたい。ノイハとセイハのために。
人身売買的な、背徳感はちょっとどこかに置いておくとして、人口問題を解決したい。だから男の子と結婚適齢期の女性が目的のひとつなのだ。
羊や馬は、農耕と牧畜、そして食料の問題から求められているので、これも大切。
ジッドの見立てでは、そのチャンスがあるという。
村の長として。
大森林を統べる王として。
大草原から有利な条件を引き出してきたいと思います。
おれは虹池から流れ出る小川に沿って、走り始めた。
「スグル、何かいます」
唐突に、同行者が話しかけてきた。
おれは、スピードをゆるめて、歩く。
朝から固定しているスクリーンの地図を確認する。大草原へ入ったことで、今までには見たことがない範囲が示されている。川沿いに見える点滅は黄色。敵でも、味方でもない、中立の存在。今のところは、だけれど。
同行者は、おれの右脇にいる。
水筒とそのひもをブランコのようにして座っている。
ちょうど、ものさしくらいのサイズ。
十五センチ、というところか。
手乗りサイズのセントラエムがいる。
フィギュアか。
フィギュアなのか。
まあ、動くし、しゃべるし、かわいいのだけれど。
今回、おれが村を離れて大草原に向かうということで、ジルたちアコンの村の信者を守るために分身を残して、女神セントラエムはおれに同行している。
『分身分隊』のスキルで、おれに同行する本体と、村に残す分身に分かれたのだ。
そして、『実体創身』のスキルで、おれに同行しているセントラエムは実体を現わしている。
ただし、おれに同行している本体の持つ力が十分の一で、村に残してきた分身の力が十分の九になっている。
この場合、本体は村に残った方、分身はおれに同行している方になるような気がするのだが、そこは忘れよう。
おれのサポートは十分の一の力で大丈夫。
アコンの村で何かが起こった場合には、九割の力が必要になる。
黄色の点滅は中立的な存在。
拡大して確認すると、二、三十はいる。
水場に集まって、水を補給しているのだろう。
姿が確認できた。
あ、これは知っている。
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