第33話 女神が人体実験好きで、怖ろしい場合(2)



 そう言われてみれば、名乗りを上げる時、誰と誰の子、何とか、という風に名乗るよな。


 ・・・いや、でも、それは本質からずれている。

 おれの子じゃないよね?


「・・・ララザが父親で、間違いないのか?」

「サーラからはっきりと聞いた訳ではないが、そうだろう」

「マーナ、女同士、そのへん、確認してくれ」


 おれはマーナを振り返る。


「おれの子だから大切にするとか、おれの子じゃないから大切にしないとか、そういうくだらない考え方をやめるべきだろう。村で生まれる子は誰の子でも村の宝だよ。みんなで育てていけばいい」

「親が誰かは、とても大切なことだ」


 トトザが言い切る。


「生まれてくる子の母親はサーラだ。父親の代わりは、誰だと決めることもない。父親がララザだと嫌だ、という風にサーラが言っているのか?」

「・・・そうなの。ララザを知っている私たちには、その気持ちはとても分かるし、なんとかしてあげたいの。アイラがオーバの子を産んで、その後に産まれてくることになると思うし・・・」


 マーナが言う。おれの子と、ララザの子では、差別されて育つ、ということだろうか。

 トトザやマーナにとって、ララザとは、とても嫌な奴らしい。


「ジッドも、同じ意見なのか」

「おれは、オーバの決定に従う。あの時、サーラが決めたことに従ったようにな」


 ジッドは、おれに従うと言う。それも困ったものだ。

 まあ、おれは度量がせまいので、こういうことで困っても、サーラを受け入れるつもりはない。


「サーラが産む子の父はララザ。大牙虎と戦い、命を落とした花咲池の村の長の子。生まれてくる子は花咲池の村の長の孫だ。おれの子にはしない。でも、村で大切に育てる。それだけだ」

「オーバ・・・」


 トトザがすがるような目でおれを見る。

 おれは首を横に振った。


「サーラは短慮で、自分勝手なところがある。こっちから配慮しても、それを自分のいいようにしかとらないだろうから、そんなものはただの甘やかしにしかならない。トトザとマーナは知らないけれど、この村では前に、サーラがおれの妻になりたいと申し出て、おれが断ったことがある」

「そうだったの・・・」


「正確に言えば、おれはサーラとの結婚を断ったのではなく、女神を信じていて、女神の言葉を聞き取ることができる者でなければ、女神の守護を受けたおれは、妻にはできない、と言ったんだ。サーラが心を入れ替えて、女神を信仰し、女神の声が聞こえるようになれば、そのままアイラの次の后になっていたはずなんだよ」

「その通りだ・・・」


 ジッドがうなずく。ただし、本心は、複雑なようだ。


「そういう努力をせずに、この村を出ていって、花咲池の村に行ったのはサーラの自分勝手な行動で、その結果として妊娠し、子どもを身籠ったんだ。生まれてくる子どもは村の宝だけれど、その親はララザで間違いないのなら、おれの子として育てる必要はないし、おれはララザの子でも大切に育てたいと思う。だから、そんな見せかけでしかない、サーラのわがままにこれ以上、付き合う気はないよ」


 ・・・そんなことを言わずに、サーラとも結ばれたらいいのですが。


 セントラエムの発言は、この場では無視。

 嫌なものは、嫌だ。


 それに、産まれた子を育て、鍛えるのは全てこの村のため。


 花咲池の村のような、平均レベルが低く、弱いくせにのさばる奴が出るような村には絶対にしない。まあ、強くてものさばっちゃ、いけないけれどね。


 おれの子だろうが、ララザの子だろうが、しっかりと鍛える。

 教育の機会は均等にしていくのが、おれの基本方針だ。


 ・・・生娘ではないサーラとオーバが結ばれたとき、アイラとのときのような、スキル獲得が起こるのかどうか、確認したいのですが。


 この女神さんは、なんでもかんでも、実験だな、おい。

 この世界の、スキルとレベルについて解明していきたいと考えていることは分かるし、それはおれだって同じなのだけれど。


 愛情とか、そういうの抜きで、ちょっと怖いよ、セントラエム。


「それなら、サーラのことは、オーバの決定に従うとして・・・」


 マーナがサーラのサポートを打ち切ったらしい。


 そこからは、各村の出身者とオーバとのつながりを持つべきだ、という大人三人の共通の見解がおれにぶつけられた。


 やれやれ。

 アイラとクマラ以外にも、妻や婚約者をもたなければならないらしい。


 おれはノーコメントでその場を流した。






 五日間、雨が続いたあとのある日。


 大牙虎のタイガが何かを言いたそうにしている感じがして、ジルに確認してみると、ジルがちょっと出かけてくると言って、タイガの背に乗って村を離れた。


 ジル以外はいつも通りに過ごしていたが、昼過ぎの河原に、ジルとタイガが戻ってきた。


「オーバ、ジッド、ノイハ、手伝って」


 ジルはそれだけ言うと、おれたちが付いて来ると信じているのか、折り返して森へと入っていく。


 『長駆』のスキル持ち、しかも男性ばかりを指名したのは、タイガの背に乗るジルについて来ることができて、しかも力がある者が必要だったからだ。


 ジルとタイガに案内された先には、イノシシが仕留められていた。


 森小猪ではなく、大きな方のイノシシだ。

 しかも、成獣の、大きめのサイズ。


 群れの長とかじゃなければいいのだけれど・・・。

 タイガが誇らしげな表情をしている・・・気がする。


「ジル、このイノシシは、タイガが仕留めたのか?」


 ジルは黙ってうなずいた。

 おれはタイガの頭をなでた。


「この一頭だけか?」

「これだけ」


 ジルは短く答える。「この森では、採り尽くしてはいけないから」


 分かっていれば、それでいい。

 みんなにももう一度、徹底しておこう。


 狩りをするときも、多く狩らないことが大切。

 田畑を広げるときも、森の木を倒し過ぎないことが大切。


 ジッドとノイハは小躍りして喜んでいる。


 肉好きだからなあ・・・。


 棒にイノシシの足を結んで、三人で持ち上げる。


 かなり重い。

 三百キロ級だろうと思う。


 大牙虎とは肉の量がちがうだろう。


 重さに苦しみながらも、楽しそうに焼肉パーティーを語るジッドとノイハ。


 ふと、思いついたので、ノイハにこのサイズのイノシシを狩れるかどうか聞いてみた。


「いや、無理だろ、これは」


 あっさり無理だと言った。

 大牙虎、おそるべし。





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