第19話 女神の影響力が拡大していた場合(4)
最後は、アイラの希望で、おれとアイラ、ジッドとおれ、アイラとジッドが立合う。拳法対棒術、剣術対拳法、棒術対剣術だ。
棒術と剣術は似ているのかと思ったが、重さ対速さという感じで、やはりちがいがあった。いろいろとおれも勉強になる。
そのうち、銅のナイフでおれ用の木剣を作ろうと思う。
相変わらず、おれに手加減されたアイラがすねた顔をする。今日は耳をつまんで終了だ。ジッドも、最後は鼻を人差し指でピンと弾いて終了。
ジッドは自分の剣術に自信をもっていたので、そんなはずはない、というような顔をしていたが、おれにはジッドの木剣がかすりもしなかった。
サーラの視線がおれにからみついてくるような気がして振り返ったら、それをクマラが複雑そうな表情で横から見ているのも分かった。
アイラは自分が手加減されることにはすねるが、おれがジッドよりも強いことには満足そうだ。
この世界では、どうやら強さがモテ要素らしい。考えてみれば、種の本能的な保存という点で、それが当然のことなのだろう。
アイラとジッドの勝負は、おもしろかった。一進一退、その攻防は美しさすら感じる。しかも、この二人は、本気で得物を当てていく。見ているこっちが痛くなる。
最後は一日の長、ジッドの一撃でアイラが棒を落として終了。勝ったジッドも負けたアイラも満足そうだが、どちらも満身創痍。
互いに骨折するまでやるとは、この二人とはジルやウルは立合わせたくないな・・・。まあ、そんな風にジルたちを甘やかしてはいけないか。
アイラとジッドの強さに、セイハがどん引きしていたのは見なかったことにしよう。
『神聖魔法:治癒』のスキルで二人を光に包み、怪我を治療する。生命力は『神聖魔法:回復』で回復させる。一晩寝れば戻るんだけど、おれのスキルレベルを高めるために使う。
今日の滝シャワーは女性陣が先に入る。新メンバーのサーラともよく話をしてほしい。エランは男の子なので、ジッドの担当にして、男組に入れる。
ノイハがそう言って譲らなかった。なんで、そんなに滝シャワーの男女別に対してこだわりがあるのか、不思議な男だ。
夜、一人になって、セントラエムと話した。
「転生して、まだ二か月しか経ってないけれど、ずいぶん知り合いが増えたよな」
・・・そうですね。スグルの人望で集まったと言えるのではないですか。
「人望、ねえ・・・。一人ぼっちだった最初の半月は、今思えば、懐かしいけど、さみしいよな。セントラエムとの話も、はい、か、いいえ、だけだったし」
・・・そんなこともありましたね。
「今じゃ、ジル、クマラ、ノイハとも話せるんだよな」
・・・話す、というか、『神意伝達』のスキルレベルが高くなったので、信仰心の強い者には、私の言葉がきちんと届くようになっただけです。
「他には、誰の信仰心が強いんだろう?」
・・・アイラとウルは強い信仰心をもっていますね。いずれ、サーラもそうなるかもしれませんが、女神への信仰心というより、スグルへの想いという感じでしょうか。
「やっぱり、同じように祈りを捧げていたとしても、そういうちがいはあるんだ」
・・・見えないものを本気で信じる力は、たとえスグルというきっかけがあったとしても、そう簡単に手に入る訳ではないのでしょう。まだ本人は気づいていませんが、アイラは『神聖魔法・治癒』のスキルが身に付いています。スグルが教えれば、すぐに使えるようになるでしょうね。
「あ、そうだったんだ。それじゃ、明日から、自分の骨折は自分で治してもらおうか」
・・・骨折までは、アイラの魔力では難しいと思います。スグルは甘やかしてしまいそうですが、ジルとウルに立ち合わせて、あの二人が怪我をしたときに、アイラに神聖魔法を使わせるとよいかと思います。ジルとウルなら、お互いにまだそこまでの大きな怪我はしないでしょうから。
「甘やかしまで、ばれてるか。分かってはいるんだ。この世界で生きて行くのなら、アイラやジッドみたいに、本気で立ち合わなきゃならないってことは」
・・・それができるのは、この村だけかもしれないと、気づいていますか?
ん?
どういう意味だ?
甘やかしができる、ということか。
本気で立ち合うことができる、ということか。
その両方か。
例えば、ダリの泉の村やオギ沼の村、虹池の村で、みんなで強くなるために本気で立ち合ったとしたら、怪我人だらけになってしまう
。強くなる前に、死んでしまう可能性だってある。
でも、ここなら、おれが神聖魔法を使える。死なない限りは、怪我を治療し、生命力を回復させることができる。
だから、この村でなら、本気で立ち合ったとしても、大丈夫なのだ。
納得できる。その通りだ。
子どもたちを甘やかすことができるのも、おれが代わりに戦って、大牙虎を撃退することができるからだ。
・・・それに、ジルやウル、ノイハ、クマラ、アイラのような、女神を心から信じている者に対しては、私が直接、癒しの力を神術で行使できるようになりましたので、スグルの魔力でも力が及ばない場合には、お手伝いができますから。
え。
そうなんだ・・・。
いつの間に、そんなことに。
というか、セイハよ。
お前さん、大損してると思うぞ、本当に・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます