第16話 女神との対話で考えてきたことを説明した場合(4)



 羽のない矢で試射してみたが、かなりの張りの強さで、飛んだ矢の速さは驚くほど速かった。飛距離は20メートルなら平行で飛んだ。斜め上に発射すれば40メートルくらいは届いた。


 そこからは的当て遊びのような、弓の修行も始まった。


 材料はあるので、一日にひとつずつ、弓を作っていった。






 アコンの木三本を吊り橋でつなぎ、樹間には三段のバンブーデッキを用意した新居が完成した。


 樹上は三本とも屋根が設置されているし、バンブーデッキの三段目は床板兼屋根で、雨漏り対策も十分にできている。


 残念ながら、みんなと離れるのはさびしいからという理由で、新居に移り住みたいという村人はいなかったので、来客時の宿舎として機能させることにした。

 これもまた残念なことだが、大森林の深部にあるアコンの村には、誰も訪ねては来なかったのだが・・・。


 結局、時々、おれが一人で寝るようにしている。


 小川では下流へ一人で走って行って、稲とスイカを手に入れるのが日課になっていた。今では竹板は一本で、稲わらの屋根が土兎と森小猪を守っている。


 その土兎と森小猪だが、土兎が囲いの中の草を食べ尽くしたので、クマラの意見に従って、森小猪と土兎の位置を反対に入れ替えてみた。


 すぐに土兎は、森小猪が土を掘り返したために、埋もれてしまった草や葉を引っ張り出しては食べていた。

 森小猪は土兎が食べ尽くして土色に変えたスペースを掘り返して、何か、おそらく、根だと思うが、掘っては食べ、掘っては食べ、と囲いの中を耕している。


 土兎は全自動雑草取りで、森小猪は全自動耕運機である。ここはいずれ、囲いの竹を動かして、畑にする予定だ。そうすると、また別のところに畑の用地ができることだろう。






 栽培実験室では、種もみから芽が出て、稲の苗が着実に伸びてきている。田植えもあと数日でできるだろう。


 栽培実験室のネアコンイモは大量の芽を出していた。おかげで、ネアコンイモの収穫は遠慮がいらない。収穫後はすぐに次の種芋を植えられるのだ。もちろん、芋づるの長さを変えて、芋づるを利用するために植える分も十分に確保できている。


 クマラは、細い芋づるの皮をはいで、その内側の白い繊維を丁寧に引き裂き、長くて白い糸を作り出した。やっぱりクマラは天才なんじゃないかと思う。


 そのやり方をジル、ウル、ヨルに教えて、たくさんの糸を確保し、布を織り始めた。そして、ネアコンイモの芋づるの性質なのか、頑丈な布ができてきた。


 服にするには少々肌触りがよくないが、袋やかばんにするには最高の強度がある。服にしたら防御力が高くなりそうではあった。


 毎朝、毎昼、毎晩、大牙虎の動向はスキルで確認しているが、やはり動きはないようだった。






 おれたちの暮らしに大きな異変をもたらしたのは大牙虎ではなかった。


 それは、咲き始めたアコンの木の青い花とピンクの花、そして、それに集まるハチだった。


 樹間バンブーデッキの三段目や樹上には、昼間は全く近づけなくなった。二段目でさえ、ハチに襲われるかもしれないと思ったくらいだ。まあ、日中はほとんどツリーハウスにはいないのだから、怖いのは朝の寝起きの時だった。


 ハチが大量発生して猛威をふるっていた期間は、おれとノイハとセイハとムッドの男組が新居の一段目で、クマラとジル、ウル、ヨルが西階の一段目、アイラとシエラとスーラが東階の一段目で寝ることになった。


 ハチは五日間、猛威をふるったが、それでハチの期間は終わった。アコンの二色の花は散り、その花びらを地面に落ちる前にいくらか回収した。アコンの花びらには、毒消しの薬効があることが『神界辞典』で分かっていたのだ。なぜか、一度地面に落ちると効果が失われるらしい。


 ハチの猛威の最終日、夜の『対人評価』で、クマラのレベルが2から3に上がっていることが分かった。何かは分からないが、スキルを獲得したらしい。いい傾向だ。


 いつか、ハチの巣のありかを突きとめて、蜂蜜を手に入れたいと思った。


 花が散った後のアコンの木の枝には、実がなり、その実は毎日毎日、次第に大きくなっていった。


 その頃には実験用水田は田植えが終了していた。片方はそのままで、もう一方にはアコンの根元の土を少し混ぜてある。


 小川の下流の合流地点では、大きな魚を追いつめて捕まえた。


 ノイハの指示で倒木と石を用意した支流へと、下流から網で魚を追い、支流をある程度遡らせたところで、その上流に倒木と石でダムを造って流れを変え、一気に水量を減少させると、干上がった川底で体をくねらせる大きめの岩魚が二十匹以上いた。


 実に分かりやすくて上手い魚の捕まえ方だった。


 ノイハの指示でおれたちは、そのうち十一匹を捕まえると、残りは大きなやつも小さなやつも見逃してやり、再び水を流した。


 ウルがどうして全部捕まえないのか、と聞くと、


「全部捕ったら、二度と魚が食べられなくなっちまうんだ」


 ノイハが優しい笑顔でウルにそう教えた。


 狩りでのノイハはまるで別人のようにかっこいい。これこそ、ノイハのスキルの効果と言えるのかもしれない。


 魚はものすごく美味しかったので、いつかまた、捕まえたいものだ。






 そして、おれがこの世界に転生して約二カ月、正確には五十九日目の夜。


 ついにダリの泉の村から、大牙虎が動き出した。

 また、あいつらは食べ尽くしたのだ。


 今度はダリの泉の村人たちを・・・。




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