第14話 女神が見ている前で一線を越えてしまった場合(4)



 アイラは「初めて」だった。

 おれも「初めて」だった。この世界では、だけど・・・。


 おれの「初めて」をアイラが奪ったのか、アイラの「初めて」をおれが奪ったのかは、もはやどちらでもいいとして。


 降りしきる雨の中とはいえ、まだ真昼間だったとかそういうこともどうでもいいとして。


 おれが、自分の無数の分身たちを全力でアイラの中に解き放った瞬間。


 いつもの声が響いた。


『「覇王之道」スキルを獲得した』


 なんのスキルだか、よく分からないスキルをおれは獲得していた。


 スキルについては解明できないことも多い。


 意識して使おうと考える機会がくれば、考えればいい。


 しかし、いったい、どこまでレベルが上がるのか。

 自分自身が怖ろしい。


 それが終わった後、アイラはすやすやと穏やかな寝息をたてている。

 結果として、今、こうなっていることは、もう何を言っても仕方がない。


 ・・・スグル。この娘を『対人評価』で確認してみてください。


「セントラエム・・・?」


 そう言えば。

 セントラエムが見ていることを忘れていた。


 あれを見られてしまったか・・・。


 ・・・とにかく、はやく、確認してみてください。


 セントラエムが、慌てている? いや、驚いている?

 何があった?


 あれを見ていたことを指摘されたくないとか?

 いや、守護神が見てしまうのはどうすることもできないだろう。


 そんなことでセントラエムを責めるのはおかしいしな。


 おれはスクリーンを出すのを忘れて、そのまま『対人評価』をアイラに向けた。






 名前:アイラ 種族:人間(セントラ教:アコンの村) 職業:后、戦士

 レベル9 生命力21/120、精神力20/120、忍耐力12/120

 筋力61、知力53、敏捷59、巧緻59、魔力51、幸運24

 一般スキル・基礎スキル(4)、応用スキル(2)、発展スキル(1)、特殊スキル(1)、固有スキル(1)






 スキルの種類別の数が分かるようになっている。

 どうやら『対人評価』のスキルレベルが上がったらしい。


 いや、そこ、じゃない・・・?


 おれは『神界辞典』でスクリーンを開いて、もう一度、アイラに『対人評価』を使う。スクリーンに表示された状態で、じっくりと確認する。


 まず、所属がダリの泉の村じゃなくなった上に、セントラ教の信者で、アコンの村人になった。


 職業に、后、というのが加わっている。


 后・・・?

 きさき、だろうか?

 あの、皇后さまとかの、后?


 それだけじゃない。生命力とかが、人間の基本値となるレベル×10よりも多くなっている・・・って、レベルが4も上がってないか?


 さっき確認した時は、レベル5だったはず。


 示されたスキル数は9。レベルと同数だから、間違いない。


 いや、というか、これなら、大牙虎と戦えるんじゃないか?


 ・・・気づきましたか?


「セントラエム、いつの間にか、アイラはレベルアップしているし、ステータスの数値も、かなり高い気がするんだけど・・・」


 ・・・それだけじゃ、ありません。この娘は固有スキルを獲得しています。


 固有スキルを獲得?

 それがどうしたんだ?


「それは、おれだって、ほら、3つあるしさ」


 ・・・違うのです、スグル。固有スキルというものは、転生者が転生の広場で選択して得られるものであって、もともとのこの世界の住人には、あるはずがないもの、なのです。


「それは、つまり・・・」


 アイラが、おれと同じ、転生者だってことか?

 そんな馬鹿な・・・。


 あ、いや、ありえなくはないのか。


 元々のレベルが5というのも、こちらの住人にしては、高いと感じたっけ。

 転生するときに、転生ポイントでスキルを五つ獲得していたんなら、レベルが少々高いことも、納得できるのか。


 ・・・この娘が転生者かどうか、ということであれば、それは違う、と断言できます。


「え? どうして?」


 ・・・この娘には守護神がついていませんから。


 あ、そうだった。

 別の世界からの転生者は、その転生を担当した守護神が必ずついているんだ。

 おれに、セントラエムがついているように。


 じゃあ、転生者じゃないのに、固有スキルを持つってことになるのか・・・。


 ・・・この娘は、スグルに、そ、その、ええと、だ、抱かれたときに、固有スキルを獲得したようです。それに、スグルのステータスも、大きく変化しています。


 まさか・・・。

 確かに、さっきスキルをひとつ獲得したけれど・・・。


 スクリーンは出したままだったので、自分に『対人評価』を使う。






 名前:オオバスグル 種族:人間(王族:アコンの村) 職業:覇王

 レベル46 生命力542/560、精神力487/560、忍耐力421/560

 筋力278、知力345、敏捷290、巧緻211、魔力248、幸運115

 一般スキル・基礎スキル(11)、応用スキル(12)、発展スキル(14)、特殊スキル(6)、固有スキル(3)






 王族・・・。いったいどうして?

 しかも、職業、覇王。魔王と紙一重じゃないか。


 レベル×10に対して生命力などの上限がさらに+100になっている。

 いや、大牙虎と戦うとか、そういう点からはとても有利なのだけれども。


 どうやらおれは、王様になって后を迎えてしまったらしい。


 自覚は全くないけれど。






 セントラエムが、スキル獲得の実態について実験するために、クマラを寝所に呼ばないかと持ちかけてきたが、即座に却下した。


 何言ってんだ。

 そういうのは、実験とかで、することじゃないだろう。


 そもそも、クマラはまだ12歳!

 女神のくせに何を考えてるんだ、とんでもない。


 やがて、妹のシエラが目を覚まし、姉のアイラを起こす。


 目覚めたアイラは、妹のシエラと目を合わせ、それから回りを確認し、おれを見つけて微笑んだ。


「夢じゃ、なかったみたいね」


 どきり、とさせられる一言だ。


 土器の中でしっかり煮炊きし、温かくなったネアコンイモと干し肉のスープをアイラとシエラにゆっくり食べさせた。


 この三日は、森の中で何も食べていなかったというので、時間をかけて、最後の一滴まで食べさせる。


 食後は、アコンの群生地を目指す。


 アイラは自分で歩くと言ったが、それでは時間がかかり過ぎる。


 おれは、シエラを背負って、アイラを抱き上げ、二人の腕を首に回させると、右腕でアイラを、左腕で背中のシエラを支え、アコンの群生地に向かって走った。


 陽が沈む前には、みんなのところへ戻りたかった。


 それは、心の奥に、後ろめたい気持ちがあったからかもしれない。





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