第12話 女神のアドバイスで周辺を探索した場合(4)



 そのまま、小川に移動して、土器づくりへ。粘土を適量の水でこねて、平石の上で器の形を整えていく。器の底は、塊の粘土を平たくしたものだが、そこから上は、蛇のように長く伸ばした粘土を丸く重ねていく。

 おれも、ノイハも、ジルたちも、セイハの真似をしてみるが、セイハほどうまくはできない。セイハも鼻高々だが、それ以上にクマラが嬉しそうだ。本当は平石ではなく、木片がいいらしいが、なかなか木片は手に入らなかった。


 セイハは作業をしながら、窯づくりの指示を出した。河原でもっとも高い約三メートルの斜面を階段上に削らせて、粘土の土器を置く。窯はできるだけ細くしたいらしい。階段は四段くらいになった。まだ窯は完成させず、そのまま粘土を乾燥させるらしい。


 二日目は、虎肉の煮込みを食べた。昨日から土器で煮込み続けた柔らかい角煮だ。スープの一滴たりとも残らなかったので、好評だったのだと思う。


 滝シャワーは男女別で、ムッドも男組に入った。やはりヨルは思春期らしい。まあ、クマラのためにもおれやノイハはいない方がいいだろう。


 ツリーハウスに戻る前に、ウサギとイノシシのようすを確認したところ、大人しく、囲いの中におさまっていた。


 これで逃げられないのなら、このまましばらくようすを見て、エサについて考えたい。とりあえず、二分割した竹の器に水を入れたら、イノシシは嬉しそうに飲んでいた。ウサギはまだ警戒しているようだ。


 繁殖ができなくても、生かしておくだけで、食料の保存にもなる。まあ、その場合、エサが負担ではあるが、仕方がないだろう。






 三日目の朝、ウサギとイノシシを確認したところ、イノシシは土を掘り返して何かを食べているようで、囲いの中があちこち掘り返されていた。ウサギは囲いの中に生えていた草を食べるらしく、囲いの中の草が減っている。ウサギの方の竹の器も水が減っていたので、見てないところで飲んだのだろう。


 これは、ちょうどいいんじゃないか、とクマラが言ったので理由を聞いてみると、


「ある程度で、イノシシとウサギを入れ替えれば、上の草と下の何かがエサになってるから、私たちが何も与えなくても、食べていけると思う」


 その通りだ。


 そして、それだけではなく、この二種類の動物の行動は、この先の畑作に大変ありがたいことも、おれは感じていた。


 雑草を除去し、土を柔らかく耕し、糞尿で肥料を追加してくれる。水だけで運転可能な全自動農作業機械みたいなものではないか。


 繁殖計画がうまくいかなかったとしても、これからも捕まえることは必要だと思った。


 また、クマラは、ウサギはそこかしこに糞をしているが、イノシシは一定の場所に糞尿が集まっていることも気づいて教えてくれた。この習性も利用できるかもしれない。


 しかし、本日のメインは、小川の下流探索なので、ウサギとイノシシは逃亡していない、または逃亡しようともしていないことが確認できれば、ひとまずそこまでだ。


 日帰り予定なので、いつもの河原に焚火をしかけて焼き芋を準備しておいた。戻ってきてから食べるためだ。


 『鳥瞰図』で安全は確認してあるが、ノイハとセイハには警戒を怠らないように告げる。


 それでも、何も出てきやしないとなると、気分はハイキングになってくる。


 二時間で一度休憩して、木蔭へ入る。もちろん、木のぼりで樹上へ。時間はかかるが、セイハも文句を言わずにのぼる。


 大牙虎ではないが、猪がいた。森小猪ではない、大きい奴だ。こちらを警戒していたが、しばらくたったらいなくなった。『鳥瞰図』と『範囲探索』を実施すると、黄色の点滅に猪が表示されていた。四匹、この周辺にいる。親子連れの猪なのかもしれない。


 『範囲探索』は意識していないと、その対象が表示されないのかもしれないので、今後、気をつけたい。逆に、アコンの群生地の周辺で、森小猪や土兎を意識して検索すれば、便利だということも分かった。


 それから一時間、歩いたあたりに小川の合流点があった。おれたちが利用しているのとは別の水源が石灰岩の絶壁にあるのだろう。そこから先は川幅が少し太く、川底も少し深くなっている。


 魚の大きさも、大きいものが目立つようになった。


「この辺りの魚なら、食べ応えもありそうだな」


「ノイハ、捕まえられるのか?」


「ん、やり方は、この前のウサギとかと変わんねえよ。ただ、今は、網がないよな」


 今回は、漁業は見送ろう。


 それよりも・・・。


「オーバ、あれ、何かしら?」


 ヨルが川沿いの林の中で見つけたものが、おれには驚きだった。


「変わった模様・・・」


 クマラも不思議そうに見ている。


 地面に生えた蔓から伸びた先、緑と黒の、丸い物体。


 大きさは、バレーボールくらいで少し小さいが、これはスイカだ。間違いない。


 おれたちはスイカを手に入れた。


 みんな、初めて食べるらしく、恐る恐る、口にしていた。しかし、すぐにそのみずみずしさや甘さに顔をほころばせた。

 ヨルが美味しいと連呼していたのは、自分が見つけたという喜びもあるのだろう。


 おれは小さいスイカをいくつかと、その苗を根っこごと、かばんに入れた。これも、豆と一緒に栽培計画の中に組み込むとしよう。


 セントラエムの助言は、このスイカだったのか、魚だったのか。


 まだ、予定していた探索時間は残っている。


 目的地は、『鳥瞰図』で見つけていた小川の終着点となる、池だ。


 おそらく、その池から、流れは地下に入っているのだろう。






 目的の池にたどり着いた時、おれはセントラエムのお告げは本当に女神のお告げなのだと思った。


 さっきの魚やスイカのように、他のみんなにも分かるようなものではないが、そこには、追い求めていたものがあった。


 池の水は予想通り、水底の大きな穴に吸い込まれているようなので、ノイハも含めて全員に池に入ることは禁止した。あの流れに吸い込まれたら溺死は避けられない。


「ここで、待っててくれ」


 おれは、そう言うと、池の西岸の浅瀬を目指して、大きく跳躍して、小川の対岸へ渡った。『跳躍』スキルで、大ジャンプができて良かった。そうでなければ、少し上流へ戻って、川が渡れるところを探さなければならなかっただろう。


 浅瀬に生えている植物を『物品鑑定』で確認しながら、池のほとりを歩いていく。


 間違いない。

 これは女神の作物だ。


 セントラエムが小川を探索するように言ったのは、これを見つけさせるためだ。


 一粒万倍。

 奇跡の穀物。


 地球のアジア州を人口最大にして、しかもそれを支え続けた主食。


 それは水稲。


 おれは、米を手に入れた。


 そのことによって、アコンの群生地は、大都市への道を歩むことになるが、それはまた、別のお話。





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