第7話 女神と子ども二人の樹上生活を向上させた場合(4)



 おれは、つり橋の補強を進めるために、ジルが二分割まで割った竹板を必要な分だけ四分割にしていった。


 竹板に芋づるを結んで、樹上に上り、上から芋づるを引き上げて竹板を樹上へ。


 ……あの二人は、あのままで、よいのですか?


 珍しく、セントラエムから、話しかけてきた。


「自分たちで考えようとしているなら、それでいいよ」


 ……そういうものですか。


「答えは、自分で見つければいい」


 おれは、おれ自身に言い聞かせるように、セントラエムに答えた。


「そんなことよりさ、こうやって、おれとセントラエムがあの二人の教育について話してると、おれたちが夫婦みたいだよな」


 ・・・ふ、夫婦・・・。


 あれ、変な反応だな。


 ・・・私は、神族なので、人とは夫婦になれないのです。


 冗談に、真剣な解答を頂きました。


 それ以上、セントラエムは言葉を続けなかったので、おれは作業に集中した。


 つり橋の縄梯子に竹板を互い違いにはさみこみ、竹板同士がずれないようにロープで固定。

 これを繰り返して、全てのつり橋の補強を終わらせた。






 もう一度、竹を切り倒しに来た。

 竹が豊富で良かった。


 ジルとウルもついてきている。

 さっきの話は、よく分からないまま、終わったようだ。


 ジルは、竹を切り倒す作業を続け、ウルは石を投げ続けた。ウルの的は、明日はもう少し遠くにしよう。少しずつ、距離を伸ばしていけば、投擲とかのスキルがいつか得られるんじゃないだろうか。


 竹を六本、切り倒した後、その場に二人を残して、ビワの木へ向かった。


 スクリーンで鳥瞰図を出し、大牙虎がいないことは確認済み。

 セントラエムにも安全を確認済みだ。


 ビワの葉を、摘んで戻る。


 ビワの葉は、形、大きさで、便利に使わせてもらっている。もちろん、ビワ茶の材料としても重宝している。


 戻ってきたら、ジルが竹を一本、切り倒していた。作業効率は悪いが、これも経験。見よう見まねでよくできたと思う。


 ただ、引っ張っていくにしても、まだ二人には重すぎたようで、おれは七本の竹を引きずってアコンの群生地に戻った。


 竹の処理は明日にする。


 小川に移動して、干し肉を回収し、ビワの葉でくるんで、つる草で結ぶ。


 滝まで近づいて、シャワーの前に修行。

 キックもパンチも、見よう見まねだけど、楽しそうに二人は気合いの声を出す。


 朝に教えた字は、水で灰色の岩に書いて確認テストを実施。

 間違った字は五回練習。


 それから洗濯と滝シャワー。

 本日もさっぱりして、一日を終了。


 樹上で、おれの両脇に眠る二人の髪をなでながら、セントラエムにいろいろと相談をする。


 そんな日々を楽しみたいと強く願った。






 転生して、三十日。


 マイ、アコンハウスは、面積を拡大した。

 生活空間のアコンの木を増やした訳ではない。


 トイレも含め、八本のアコンの木の樹上を利用していることに変わりはない。


 しかし。

 ついに我々は樹間の空間を開拓したのだ。


 寝室を中心に、六角形を基本とし、北から時計回りに燃料倉庫、乾燥室、栽培実験室、貯水室、調理室、食料倉庫が配置され、南の貯水室からさらに南へトイレがつながっている。


 竹板の大量生産で、全ての「樹木部屋」に屋根は設置完了。


 さらに、寝室・乾燥室・栽培実験室の間の三角形の空間と、寝室・調理室・食料倉庫の間の三角形の空間に、竹板を敷き詰めたスペースを確保したのだ。


 それも、それぞれ三段!


 地上からおよそ三メートル、六メートル、九メートルの高さに、新たな床が広がっている。


 特に三段目は、ただの床ではない。三段目だけは、二分割の竹板を並べただけでなく、その下に咬み合わせるように竹板を組み、雨漏りを防ぐ優良な「屋根」としての機能も合わせもっているのだ。


 寝室・乾燥室・栽培実験室の間の三角形の空間を「東階」、寝室・調理室・食料倉庫の間の三角形の空間を「西階」と我々は名付けた。


 もちろん、それだけの苦労はした。


 しかし、その甲斐はあった。


 なぜならば。

 身体を伸ばし切って横になることができるからだ!


 樹上スペースはそれなりに広いが、どうしても枝の育ち方で、平らな部分は少ない。今までの寝室も、イメージとしては新幹線のリクライニングのような感じで寝ていたのだ。


 まあ、二分割の竹板の並びなので、平らなのかと言えば、でこぼこ感はありすぎるくらいにあるのだけれど。


 それでも広さが違う!

 身体を伸ばして眠れる幸せ。


 樹上生活の向上もここまできたか、と。


 こういうデッキスペースを作ろうと考えたきっかけは、大牙虎の牙を手に入れたこと。あれで、頑張ればアコンの幹に穴をあけ、竹を組み合わせて縛ることができると思ったのだ。


 そして、それは実現し、最初に分割していない竹の一本橋が樹間にかかった。やがてそれはカタカナの「ハ」の字を形成し、その上に二分割された竹板が並べられ、結ばれて、地上からおよそ三メートルの高さの空間は埋め尽くされていった。


 おれは、最初に樹間バンブーデッキスペースが完成した瞬間の喜びを忘れない。ジルとウルもすごいすごいと喜んでいたし、その夜にセントラエムと話した時には、かなり誉められた。


 それがやがて二段目、三段目と高さを増した理由は、雨である。

 しかも、今回、三日連続、雨が降り続けたのだ。

 我々は三日間を樹上で過ごした。


 これまではその機能が疑問視されてきた調理室がついに稼働し、小型化した火起こし道具と獣脂、竹炭が活躍した。調理室のアコンの木が火事になることはなかった。

 鋭利な石包丁で輪切りにしたネアコンイモを、十分に熱した平石で焼いて、柔らかくして食べた。それと、干し肉を、時間をかけて噛み続けた。水は無駄遣いしなければそれほど心配はいらない状態だった。


 女神に祈りを捧げたり、勉強した文字を復習したりなど、時間を潰すことは難しくなかった。


 ただ、樹上スペースだけで、何日も続く雨をやり過ごすのは、あまりにも狭かった。


 もちろん、どしゃぶりにさらされるデッキスペースは使えない。しかも、つり橋での樹間の移動時は、一瞬とまでは言わないが、ほんの短い時間にもかかわらず、びしょ濡れになってしまう。


 三日後、増水した小川に危険を感じた我々は、いつもの作業ルーティーンをあきらめて、新たな竹の群生地を求めて、周辺を探検した。

 そして、これまで利用していたところよりはやや狭いが、まだ手つかずの竹林を発見したのだ。


 もうひとつ竹林がある。この心のゆとりが、これまでの竹林での乱獲に拍車をかけた。


 食料でもない竹が、ひたすら乱獲されていく。竹の悲鳴が聞こえるかのようだ。


 ジルが竹を二分割するスピードが向上していたことも大きい。また、ウルが竹の内側の節をうまく取り除けるようになったことも大きい。

 おれは竹を切り倒して、切り倒して、切り倒した。これまではアコンの群生地に運んでから処理していたが、竹林である程度分割していくことで、ジルとウルにも運ばせた。


 そして、まずは「西階」が三段、完成した。


 それから一日目だけ雨が降った時、およそ六メートルの高さの二段目を移動することで、どしゃぶりでもほとんど濡れずに、寝室と調理室、食料倉庫を行き来できることが分かった。


 これは、ぜひ、反対側にもあった方がいい。

 そう考えた我々は、精力的に竹を切り倒し、「東階」も完成させたのである。


 今では東階の二段目には大牙虎の毛皮が敷かれて、竹の段差を気にせず眠れるようにしている。また、西階の二段目にはハンモックが吊るされていて、その日の気分で寝床を選べるのだ。


 ここに、アコンの群生地の我が家は、ひとつの完成へとたどり着いたのである。





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