第7話 女神と子ども二人の樹上生活を向上させた場合(3)



 小川では、竹炭作りと、魚を採る方法を教えた。


 昨日のかまどはそのまま利用する。


 すっかり冷えた灰を丁寧に回収。これはアコンの群生地に戻ってトイレの木の根に巻く。


 それからネアコンイモのビワ茶スープ+微量の獣脂、の準備をした竹筒を並べて、火を起こす。明日はビワ茶風味の肉じゃが、じゃがではないけど、の予定。楽しみだ。

 竹筒に入れる材料の配分は二人に教えながら、自分の分をそれぞれ二人に用意させた。


 火起こしは、ジルが担当。転生初期の火起こし道具は大きいものだったが、今は小さな竹板を上下させると細くて堅い木の枝が回転する仕組みを片手で操作できる小さいものになっている。

 獣脂も利用して、火種からあっさり小枝が燃えていく。火種からの点火が簡単になったのはありがたい。


 竹炭作りは小さな登り窯作りがメイン。丸石と平石を斜面に上手に組み上げて、ビワの葉と土で穴を埋めて空気漏れを防ぐ。で、適量の薪で火を焚けば、あとは放っておいても竹炭が完成する。いずれは粘土で作った器を焼いてみようと考えているが、まだ先のことだ。登り窯のサイズも小さいので火力も弱い。それに、薪ももっと必要だし、時間もかかるだろう。


 窯の上には、竹で組んだ物干しに、肉を干している。調理室に干している分と、味がどう変わるのか、楽しみだ。


 ジルとウルが一番楽しんだのは、小川でのダム造り。

 魚を追いつめるためのスペースをつくって、捕まえるためだ。これは、遊び要素が多いのは確かだ。


 ただし、一時間以上かけて岩魚を一匹捕まえるのがやっとだったから、効率は悪い。

 魚を捕まえた後、ダムは崩させる。それも楽しそうだったけど。


 岩魚は竹串に刺して、岩塩をたっぷりかけて、かまどの前へ。両面を焼いて、おやつ代わりに三人で食べた。


 一度、アコンの群生地に戻り、竹の処理を開始。


 竹を横に切断して切り倒すことはできなかったジルだったが、上部の細いところを切断するのと、縦に割るのは上手にできたので、いつもと少し手順を変えて、たくさん手伝わせた。


 ウルはトイレに灰をまいた後は、樹上でお昼寝だ。


 おれはジルの作業待ちの間に、竹筒や竹やり、竹串を増産したり、大牙虎の牙でアコンの木を削ったりした。アコンの木を削るのは、竹をくい込ませるくぼみをつくるためだ。


 ジルが竹を四分割して竹板を作ったら、それは昨日のように樹間のつり橋の安全性を高めるために利用した。


 ジルが竹を三本処理したところで、ウルと一緒に昼寝をするように指示をした。ジル自身は頑張ろうとしていたが、目に力がなかったのだ。


 残りの竹は、後から処理すればいい。


 つり橋は、寝室、貯水室、トイレ以外も、竹板の補強で、調理室、乾燥室、栽培実験室への行き来が安全になった。


 二人の昼寝中に、少し遠出をしてきのこ調査の続きを手早く済ませる。その帰りに、新たに竹を六本、切り倒してもってくる。ジルの作業中の竹はそのままだ。全力で走って移動しても疲れがあまりないというのは、不思議でならない。


 ジルとウルを起こして、食事のためにもう一度小川へ向かう。


 木を下りた時、竹が増えているのに気づいたジルが、「増えてる・・・」とつぶやいたのは、嬉しさだったのか、悲しさだったのか、とりあえずそっとしておいた。


 弱火になっていたかまどに、焼き芋用のネアコンイモと薪を追加して、待つ。


 待っている間に、使えそうな石を採取する。

 岩にぶつけて砕くことで、尖らせたり、斧のような状態にしたりしていく。

 薄い平石は、適度なサイズのものを調理用に確保する。


 焼き芋ができた頃合いで、スープの竹筒を小川につけて冷やす。


 その間に、焼肉の準備を並行して行う。

 焼いた平石での焼肉は、心が躍る。


 昨日よりも、肉の枚数は多い。そして、ジルとウルの笑顔も昨日よりはじけている。


「スープがおいしい。でも、味が昨日と少しちがう?」

「よく分かったね」


 ジルの頭をなでる。


 今日はおれもスープ付きだ。甘い香りがするが、食べると甘さはおさえられていていい感じだ。獣脂を少しだけ加えたのも、隠し味として良かったようだ。


 それからは塩味の虎肉を満喫する。

 初物の感動とは違うが、今日も、肉は美味しい。


 デザートに焼き芋。

 今日も満足のいく食事だった。






 アコンの群生地にもどって、作業を開始。


 ジルは竹板の製作を続けさせたが、四分割ではなく、二分割までにするように指示した。


 ウルと一緒に、スコップ代わりの石で、ネアコンイモを傷つけないように掘り出す。木のぼり込みの芋づるの回収はウルにはさせられないので、おれが担当する。


 ウルには掘り返した土を竹筒に回収させている。


 イモと芋づるを倉庫に片付け、栽培実験室から、芽が少し伸びた種イモを持ち出す。


 掘り出した跡に、種イモを入れて、周囲の土をかける。


「ウル、かけすぎ。芽が埋まらないようにするんだよ」

「めが、うまらない、ように、する」


 ウルが小さな手で、イモの芽を埋めてしまった土を取り除く。ぴょこんと芽が出る。


 そこに、じょうろの竹筒で、軽く水やり。


「イモがまた生えてくるように、丁寧にするんだよ」

「また、はえる?」

「そう。はえるよ。ジル~!」


 掘った分だけ埋め直して、ジルを呼ぶ。


「は~い」

「作業を止めて、こっちにおいで」


 ジルが駆け寄ってくる。


「一緒に行くよ」

「どこへ?」

「別の木のところ」


 アコンの根元の土が入った竹筒を両腕に抱えさせて、二人を連れていく。


 種イモはかばんの中だ。


 栽培実験をしている別の木は、アコンの群生地と小川の間にある。


 さっきウルに教えたことを同じように、ジルにも教える。


 一本の木の周りに六ヶ所、種イモを植える。

 もう一本の木でも同じようにするが、アコンの根元の土を混ぜる。


「オーバ、どうして、やり方が違うの?」


 ジルの興味の持ち方がいい。


「こっちに来てごらん」


 既に実験を進めている木の方に、二人を案内する。


「右の木の方の芋づると、左の木の方の芋づるを見比べて」

「右の方が、芋づるが細い」

「どうして細いのかな」

「・・・やり方を変えてる?」


「細いのは、どっちのやり方だと思う?」

「もってきた土をつかう方?」


「どうして?」

「土が違うから」

「なるほど」


 間違った。でも、間違っていい。それでいい。

 この二つで見比べるだけでは、間違うことだって、当然ある。


 なぜだろうと思う心が、大切。


「・・・ちがう」


 そう言いだしたのはウルの方だ。

 おや。何かに気づいたのかな。


「ちがうの?」

「ちがう」

「どうして?」


 ジルとウルで話し始める。


「あっち、ふとい」

「あっち?」

「あっち」


 ウルは、アコンの群生地の芋づるが太いと、言いたいらしい。


「そう、あっち、ふとい」


 ウルがジルの手をひいて、アコンの群生地に戻り始める。


 道も、覚えてるみたいだな。

 大したものだ。


 置き忘れた竹筒は、おれが持つことにして、二人についていく。


 ウルはさっき芋掘りをしていたアコンの木のところまで、ジルを案内した。


「ふとい」


 そのアコンの木には、一本も芋づるが残っていない。


 ウル、それじゃ、芋づるのことじゃなくて、アコンの木が太いと思ってしまうのではないかい。


「ここのつち、はこんだ、から」

「ここの土、運んだのね」

「ここ、ふとい」


 ウルは一生懸命、説明しようと頑張っている。


 後は、二人に任せて放っておこう。





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