第62話 女神が実はとんでもない力を持つと分かった場合(2)
まあ、道のことは置いておこう。
「大森林と辺境都市の間には、広大な大草原がある。おれたちと辺境都市が直接ぶつかり合う必要性も可能性も極めて低いと思う。大草原の氏族が緩衝地帯になって、おれたちは辺境都市と争うことはないよ」
「しかし、相手は、兵士を送り込んでいますよ?」
「兵士とはいっても、移動するだけで危険なところだから、単にちょっとでも戦える人を調査に出したってだけだろうさ。たった五人で、この村を攻め滅ぼせる訳がないし」
「ジル、ウル、クマラ、ノイハ、アイラの五人で、辺境都市とやらを攻め落とせそうですけれど」
えっと。
順番にレベル27、レベル26、レベル22、レベル17、レベル14というアコンの村の最高戦力。
うわあ、本当だ。
兵士長がレベル4ってことは、なんか、簡単に攻め落とせそうな気がしてきた。
あの五人ならできるな、確かに。
「離れていて、交流するでもなく、攻め落とすつもりもないというのに、どうしてスグルは、辺境都市が気になるのですか?」
「・・・金属の製造、加工に関する知識や人材がほしい」
「金属・・・銅剣ですね」
「銅剣に限らず、ね」
「私が神器創造のスキルで、何か創り出しましょうか?」
「何それ、そのとんでもスキル? いつの間に?」
「上級神になったことで、選択できるようになったみたいですね。金属製で、特殊な効果のついている剣とか、生み出すことも可能ですよ?」
「・・・なんか、やっちゃいけない気がするな、それ。やめとこうか」
「でも、金属がほしいのでは?」
「そこをセントラエスに頼ると、いつか村の発展が止まると思うよ」
「そうですねえ・・・そうかもしれません」
危ない、危ない。
とんでもスキルの誘惑に負けそうだ。
しかし、上級神って、すごいな、本当に。驚いたよ。
だから、本来は、この地上にはいないはずの存在、か。
ありとあらゆるバランスを一気に崩すことができる力だと思う。
なんで、今は、ここに上級神としてセントラエスがいることを見逃されているんだろうか?
あ、いや、それはまた別の話か。
「結局、スグルは、辺境都市に行ってみたいのではありませんか?」
確かに。
そうかもしれない。
「久しぶりの旅もいいのではないでしょうか? アコンの村はみんなに任せても大丈夫でしょうし・・・私もスグルと二人きりで・・・ふふ・・・」
「久しぶりの、旅、か。うーん・・・考えとく」
旅、ね。
どっちかというと、調査って感じがするけど。
さて、どうしようか。
翌日、この前から気になっていた偽装商団は、虹池にたどり着いた。
そして、その光点は、敵対を示す赤色になった。
まず間違いなく、馬の群れと交戦したのだろう。馬の群れはおれたちの味方を示す青色なので、これと交戦すれば、おれのスクリーン上で敵に認定される。
そして、馬の群れに蹴散らされた。これも、間違いない。おそらく、文字通りに蹴散らしたんだろうと思う。
偽装商団を示す赤い光点は三方に散って、虹池を離れていったからだ。
あの群れは、大草原の氏族に怖れられている「荒くれ」イチの群れだ。
おれやジル、ウル、ノイハとの関係は良好で争いにはならないが、だからといって、人間なら誰でも大丈夫ということでもない。
群れは50頭を超す大集団で、レベルも平均が4である。リーダー格のイチのレベルは9で、レベル6や7の馬も何頭もいる。それに、馬は元々人間より体は大きく、動きも早い。
敵対したらあの程度の兵士たちではどうすることもできないだろう。
それで。
ひとつは、北東方向へと大草原へ移動中。
もうひとつは、元来たルートの小川沿いを北上中。
そして、最後のひとつが、大森林の中を移動中。
目的がある、というより、とにかく逃げたという感じだろう。
傷つけられた馬がいてはいけないと思い、クレアに頼んで虹池までひとっ飛び。
知らない辺境都市の兵士よりも、いつも助けてくれる馬の群れの方がはるかに大切な存在だ。
三頭の牡馬を神聖魔法で治療。またしてもイチの尊敬を獲得した。ちなみにイチのレベルは9。レベルだけならジッドよりも高い。
大草原から迷わない道筋として川沿いを南下すれば必ず虹池にたどり着くのだから、「荒くれ」イチの馬の群れは、大森林の門番のような役割になっている。
今度、看板でも立てておこうか。
猛獣注意。
読める人間なんていないと思うけれど。
兵士の死体が二つ放置されていた。まあ、馬が埋葬していたらびっくりだけれど・・・。
服装などを含めて、死んだ兵士の持ち物を回収した上で、クレアに教わったことで身についた火炎魔法・火炎壁で、死体は焼却処分。
大森林の中ではほぼ使えない火炎魔法。
こういう、使える時に使わないと、スキルレベルが上がらない。
もちろん、偽装商団が落としていった銅剣は回収。
荷車が放置されていたので回収し、ナードの実というこのへんにはない産物を手に入れた。イメージはオリーブみたいな感じ。油をしぼるといっていたから、用途も似たようなものだろう。
荷車も、アコンの村の技術ではまだ作れないからありがたい。でも、アコンの村までは運べないよな・・・。
ナードの実はクマラに預けて、栽培可能か、実験してもらうことにする。
気候は合わないかもしれないが、時季を選べばできるだろうと思う。油をしぼったかすは飼料になるというので、役立つのは間違いない。
偽装商団がアコンの村にたどり着かないという予想は、結局、予想通りになった。
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