第61話 女神が小さい子にご執心の場合(2)
今のセントラエスは小学校高学年から中学生くらいの大きさだ。七割の力くらいだと、このサイズになるらしい。成人と子どもの中間地点、か。
クレアの乗馬が不安だから実体化してくれって言った時は、あんなに嫌がっていたくせに・・・。
「・・・」
ドウラが呆然としている。
そりゃそうだ。
突然、密談していたところに女の子があらわれたんだからな。
「スグル、スグル、私にも、私にも、ユウラを抱かせてください!」
しかも、うるさい。
すまない、ドウラ。
本当に申し訳ない。
「すまん、ドウラ。これはだな・・・」
「あ、いや、義兄上は、また、別の女性を?」
「それは誤解! いや、待て、それにしちゃ、小さいだろう?」
「そうか? これくらいの嫁入りは普通だと思うが・・・」
そういえば、大草原は幼女婚がある地域だったか。
おれはいろいろとあきらめて、ユウラをセントラエスに抱かせながら、ドウラと向き合った。
「・・・理解しろとは言わないが、これがうちの女神なんだ」
「はあ? 女神・・・?」
おれたちの横で、きゃあきゃあ言いながらユウラを可愛がるセントラエスが邪魔でしょうがない。
神力の使い方、絶対に間違ってるよなあ・・・。
結局、ナルカン氏族のテントに一泊することになった。
今回は、ここまで迷惑をかけるつもりはなかったのだが・・・。
おれたちが招かれたテントには、おれとクレアとセントラエス、それにライムとユウラがいる。
中の仕切り布でおれとライム、ユウラの寝室と、クレアやセントラエスとはきちんと分けられていたが、まあ、そもそも、セントラエスにおれのプライバシーというものは存在しない。なぜなら守護神だから。
クレアの覗き見も、分かってはいるが、無視。あいつ、本当に興味津々で、ちょっと怖いくらいだ。
人族の生活にカルチャーショックを受け続けているらしい。もう三年になるのに、竜族の村へ帰ろうとする気配がない。
もういっそ赤竜王を呼び出してやろうか・・・。
別に、ドウラから、後継ぎの子どもが一人だけだと心配だって言われたことも関係ない。
ぐっすりと眠ったユウラをそっと置いて、おれは久しぶりにライムと時間をかけてゆっくり抱き合ったのだった。
ユウラを起こさないように、ライムには声を出さずに我慢してもらいながら・・・。
おれは、ひたすら、ライムにおぼれた。
ちなみに、ドウラはセントラエスが女神だという話を軽く受け流した。
あれは、信じていない。
あと、お土産として、トマトの麻袋詰めをドウラに渡した。
「これ、氏族の連中の好き嫌いが激しくてさ・・・」
ショックだ。
どうしてトマトは人気がないのだろう?
大草原の東部氏族同盟は、ナルカン氏族を盟主として、セルカン氏族、マニカン氏族、チルカン氏族、テラカン氏族が加盟している五氏族の同盟だ。
内容は、一言で言えば、食糧援助組織。
おれたちアコンの村とつながっているナルカン氏族が、冬場の食糧援助を武器に、氏族間の争いを話し合いで解決する調停組織となっている。
セルカン氏族とマニカン氏族は、元々、ナルカン氏族と姻戚関係にあった、友好的な氏族。
チルカン氏族とテラカン氏族は、その逆で、敵対的関係にあったのだが、ライムの剣技でチルカン氏族を屈服させて、その関係でテラカン氏族も同盟に引き込んだ。
残念ながら、チルカン氏族とテラカン氏族の姻戚関係で、ナルカン氏族と敵対関係にあったヤゾカン氏族は、ドウラが呼びかけてみたものの、実はセルカン氏族の猛反対で、同盟に参加できていない。
なかなか、難しいものだ。
まあ、その陰ではいろいろなことをやってはみたけれど。
あと、テラカン氏族はライムの妊娠中にナルカン氏族を襲ったのだが、たまたま遊びに来ていたクレアにボコボコにされている。
クレアを戦闘行為に使うのは、実は青竜王との取り決めに違反しているのではないか、とも思ったが、何も言われないから、そのままにしている。
まあ、そもそも、クレアを召喚したのはおれじゃなくて、赤竜王だし、取り決めに当てはまらないとも考えられるしね。
話を戻そう。
氏族同盟自体が、それほど友好的な組織とは言えないのだが、そこは、食糧という、大草原の大きな課題を解消しているため、チルカン氏族も、テラカン氏族も、抜けようとする気配はない。
うちから流れている食糧のメインは、ネアコンイモだ。こっちの取り分は、羊と、人間。繁殖した羊と口減らしの人間を大森林へ受け取っている。
大草原の食生活も、アコンの村と同じで、基本は一日一食。大草原では、冬になると極端に食糧が足りなくなるため、三日に一食や、四日に一食というのが当たり前になるという。
そこでネアコンイモを使ったスープが、とても喜ばれたのだ。
要するに、甘みの多いネアコンイモを羊乳と獣脂と水で薄めて薄めて、冬の栄養にした。
ネアコンイモ一個で、氏族全員分のスープを作るというのだから、いったいどれだけ薄めているのやら。
それでも、ネアコンイモを利用するようになった氏族では、口減らしで子どもを大森林に送ってはいるものの、氏族に残った者の中から冬の餓死者が出なくなったと喜んでいるらしい。
さすがはネアコンイモ。神樹の根元で育つ不思議イモだ。
まあ、食糧の配分量は、うちが口減らしの子どもを受け取れるくらいに調節してはいるが、それはおれたちの方からすると重要な政策なので、こっそり続ける。
あと数年もすれば、口減らしの子どもを迎え入れなくても、アコンの村の中で、子どもがたくさん産まれるようになるだろうし、そうなった時には大草原に回す食糧を増やす予定だ。
実際、去年はイモ以外にも古米をナルカン氏族に回して、芋粥が米も混ざった美味しいリゾットになっていた。
大草原に回したのは、一年間、食べられることなく残ったアコンの村の古米。要するに余った米だ。
うちの村からすると、新米があるので回して問題がない分だけだ。
ナルカン氏族の英傑ニイムが最後に米を食べたいと言い残して亡くなったというのは、ライムが教えてくれた。
それくらい、米は美味しいものだと大草原では、というか、ナルカン氏族では認識されている。
それはともかく、ニイムが亡くなる前に、氏族同盟を組んでドウラが対処できるように成長してくれたのはありがたかった。
そんな大草原の東部氏族同盟はまともに機能するようになってからおよそ二年。同盟に所属する五氏族の間での武力衝突は起こっていない。
とはいえ、まだまだ、辺境都市に影響を与えるほどでもないと思っていたのだが。
よく確認してみると、口減らしの子どもが多く辺境都市に流れていたのは、ゴルカン氏族とセルカン氏族とテラカン氏族から、らしい。
そのうち、セルカン氏族とテラカン氏族は、氏族同盟からネアコンイモが手に入るので、辺境都市からのわずかばかりの食糧で子どもを差し出す必要がなくなったのだ。
もちろん、セルカン氏族とテラカン氏族の口減らしの子どもは、うちの村ですくすく成長している。
奴隷のような扱いなんてめっそうもない。うちにきたら戦力になるんだから。
その結果として、辺境都市の奴隷商人は、さらに奥地のエレカン氏族やヤゾカン氏族に接触して、食糧と子どもを交換しようとしたらしい。
これは、ドウラ以外のナルカン氏族のみんなと話して分かった情報だ。ドウラも驚いていたけど、これからはいろいろ氏族内でも話し合いたいと言っていた。
おれが知らなかっただけで、これまでとは違う氏族にまで辺境都市から商人たちがやってくるなんて、大きな影響だよな、これ。
まあ、五人の兵士で、しかもあの程度のレベルで、大森林のアコンの村をどうこうしようなんて絶対に無理だけれど。
単なる調査目的なら、それくらいの規模が妥当なのかもしれない。
調べられるとも思えないけれどね。
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